17話
「シュトルツ、どうしたんだろう」
後片付けをしながら、ファーナスはヘルトに言った。
「ファーナスさんはそれだけ魅力的ということですよ」
ヘルトは笑顔でそう言った。
「なにそれ、ヘルトも酔ってるんじゃないの?」
ファーナスはヘルトの肩を叩く。その口角は緩んでいる。
「しかし、ウェスタリア家が銀山を売ろうとしているという話が引っ掛かります」
ヘルトは顎に手を当てる。
「その話はギルドの集会で俺も聞いた」
父がその疑問に答える。
「しかし、両親はウェスタリア家の栄光を築いたあの銀山を売るはずありません。なぜそのような話が出たのか__」
「まって、あなたは怪我人なの。早く治しなさい!難しいことはその後!いいわね?」
ファーナスはまくしたてるように言う。
「あなたは私の最初のお客さんなの。今後も装備を作らせてもらうからね」
「分かりました。本当に何から何までありがとうございます」
ヘルトは頭を下げる。
「だいぶ素直になったじゃない」
ファーナスはヘルトの肩を叩く。
「ファーナス。怪我人だ」
父がそれを咎める。
「あっ、ごめん」
ファーナスは謝り、叩いたところをさする。
「じゃあ、悪いが俺は先に休ませてもらう」
「はーい、おやすみ」
「おやすみなさい」
父は先に2階へと上がっていった。
「ファーナスさんのおかげです」
ヘルトは使った食器を棚に戻すファーナスを見て言った。
「なにが?」
「ファーナスさんのおかげで、自分の考えがいかに凝り固まっていたかよく分かりました。もしファーナスさんに出会わなかったら僕は死んでいたでしょう」
「あんた貴族様なのに不器用すぎるのよ」
ファーナスは毒のない嫌味を言った。
「あの、先ほどシュトルツさんと何を話していたのですか?」
「うん?ああ、昔の話よ。約束したことがあってね、私の防具とシュトルツの武器を持った人がダンジョンを制覇できるように一緒に頑張ろうって」
「シュトルツさんも、すごい鍛冶屋なのですよね?」
ファーナスは頷く。
「あいつの作る武器すごいのよ。使う人は名の知れた探検者ばっかり」
「へえ、僕も触ってみたいな」
「あんたみたいな初心者じゃまだ無理よ、それになんだかあいつ、ヘルトのこと警戒してるみたい」
「でしょうね。当然です」
「今度私から説明しとくから。お酒を飲んでいない時に」
ヘルトは首を振る。
「貴族ですから嫌われるのは慣れています。それにあの人は貴族だからということではなく、僕のような半端な人間が嫌いなのでしょう」
「いや__そんなこと」
「ファーナスさん」
「う、うん?」
ヘルトはぎゅっとファーナスに近づいて話す。
「ファーナスさんは僕に夢を与えてくれました。僕はダンジョンの最深部を見たい__あなたの装備を付けて。ファーナスさん、あなたの夢を僕に叶えさせてください」
「ち、ちょっと。いつも思ってたけど、なにか真面目なこと言うとき、こっちに寄ってくるのやめなさいよ。ち、近いのよ__」
ファーナスはヘルトを軽く押しのける。
「すみません、つい」
ヘルトは即座に距離を取り、謝った。
「いや、その、嫌じゃないのよ?ただちょっと、びっくりするっていうか」
ファーナスは急いで取り繕った。
「でも、私の夢を__。簡単じゃないわよ?」
「男に二言はありません」
ヘルトは言い切った。
「じゃあ、あなたはまずダンジョンについて知らなすぎる。怪我が治るまでは私が色々教える。ダンジョンのモンスターや装備の手入れの仕方についても。いいわね?」
「ありがとうございます!ファーナスさん」
「ファーナスでいいわよ。さ、今日はもう休みましょ」
そう言って2人は自室へ入った。