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.2 【第六理科】

 なんだか魔力を感じる。


「またそれ?ミミいつもそれ感じてんじゃん」


「じゃぁ私のネイル、どう? 魔力感じる?」


 いやそれはただかわいいだけでしょ。


 一同はどっと笑いを上げた。

 目が覚めたのはいつからだろうか?覚えていない。


 眠っていたわけではない、そもそも私が寝るのは深夜をまたいでから。


 気絶はしていない、バスがぶつかったわけでもないから。


 もっとも気絶なんかしたことないからどんなものかわからないけど。


 気がついたのは、隣の男性が私の肩を揺すったから。


 深夜の脳の疲れからくるけだるさと、朝のこれから始まるような気持ちが同時点に存在したらこんな気持ちなんだろうと感じていた。


 ミミは眠気がないが唖然としている表情を男に見せた。

 彼はすでに立ち上がっていてショルダーバッグも下げてのぞき込んでいる。いまだに通路への隙間はすらっとした華奢な脚で塞がれていた。


「――君、もしかして普通の人?」


 暴言にも気遣いともとれる謎の言葉をかけてきた。どうしてこんなにも落ち着いているのだろうか。どうしてもこんなに彼の言葉は耳に甘く入ってくるのだろうか?


 ミミはイヤホンを片方とって訪ねた。


「ここは――?」


 見上げながらもその背景の窓ごしに広がる景色に眼を疑った。


 ただの壁だった。


 どこにでもあるようでそれよりも少し濃い灰色のごつごつとしたアスファルトの壁がバスの側面にぴったりとくっついていた。最初はバスにかぶせ物がされているのかと疑ったが、降車口から差し込む光によって照らされたテクスチャは明らかに石でしかなかった。


 男性は「困ったな」というようにわざとらしく首元をさすって周りを見た(少なくともミミにはわざとらしく見えた)。それに何気なくうさんくささと怪しさを感じてこの環境でも彼女は心を閉ざした。


 すると降車口から誰かが入ってきた。


「あれ?まだ人居たんだ」


 ミミは背伸びして座席の上まで首を伸ばして覗いた。


 逆光を浴びた人影は女らしいなめらかな輪郭を引き立てた。コツコツとヒールの音がバスの床に鈍く響いて運転席にかがんだかと思うとカチリという音がして車内の電気が通路沿いについた。


 観察するように人影を見る男性の顔もよく見えるようになった。

 横顔からして痩せこけているが細く切れるような目にそれ以上に薄い唇いわゆる塩顔というのだろうか。鼻筋は良く通っているが、全体的に整っている顔とは言えない。

 再度、コツコツと綺麗な足音が聞こえたので目をそらしてそちらを観察した。


「いざこざでもあった?」


 近寄りながらもバス全体を見渡すように横目に伺いながら女が言った。この人は華奢というよりも普通の身体が引き締まっているように整っていた。歩き方も女優のように背筋がピンと整っていた。ベージュ色のシャツに対照するような黒いパンツが下半身の菱形を形取っていた。


「もしなんかあるんだったら外で待ってるけど?」


「いや、この子が普通の人だったから気になっただけですよ」


「ってことは、被害者ってこと?」


 彼女が詰め寄ってきたので男は通路を譲った。


「そういうことみたいです」


 男性を見ながら彼女は通路を通って座席をざっと見回った。後ろまで行ったところで最後部座席に脚を組んで座るとうでを組んだ。


「被害者が紛れ込むことはいつだってあるけど、逆に今回は極めて少ないわね。少なくとも数人は紛れこむはずなのにあんないつなくなるかわからない山道の最終車両だったからかしら」


 男性は謎の女をじっと観察するように見てから彼女が口を開く前に答えた。


「バスに乗っていた一〇人の中で被害者は彼女だけだった場合、その他我々は怠け者ということですか」


「失礼ね、その『他』に私は入っているのかしら?」


 ミミは二人が言っていることにより、自分が置かれた環境が定められていたことであることくらいはわかった。何かの試験かイベントのバスに乗ってしまったようだ。


「あ――」


 ミミが片手を上げながら声を出すと二人が振り返った。


「――何かのことに、私もしかして乗ってました?」


「本当に被害者だね」


 男性は苦笑して顔をゆがめる。パーツが薄い塩顔は眉間のしわが目立つ。


 女が付け加えて言う。


「あなたは巻き込まれてしまった。それ以上でも以下でもない」


「具体的にどんなことにですか?ちょっと私わからなくて――」


 女は私を見下すように、そっぽを向いて吐き捨てるように答えた。


「この世界に入り込んでしまった」


 会見に部外者が入ったように、パーティに嫌なやつが誘われたかのように。


「なんですか?それ?この世界って」


「文字通りよ」


「文字通りではないと思うけどなぁ。ちなみに僕は妖精世界と呼んでいるのだけど」


「名前をつけるなんてバカらしいわね」


 二人は身内乗りで盛り上がって、私は置いてきぼりになってしまった。


「どういうことですか?どうやって出られるんですか?」


 男性が何か言う前に女が割って入って言った


「とにかくバスの外に出てみれば?」


 ミミは光を差し込む乗車口を見た。


 彼らが言っているイベントとやらを見学する軽い気持ちで外に出ることにした。

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