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自宅に帰ったら

正座。

 それは日本人であるのならば大体の人が知っているものである。その名の通りに正しい姿勢で座ることである。膝を曲げて、背筋を伸ばし、床に座すことそれが正座。

 ……所作がきちんとしている人ならばもっと言うことはあるだろうが、あいにく俺は剣道も柔道も茶道も習ってこなかった。が、それは置いていおこう。

 今この状況において重視されるべきなのは、[正座の方法、歴史]ではなく。[正座、理由]である。

 そう現在土田家のリビングのカーペットの上に俺は正座している。

「ちょっと聞いてる?お兄ちゃん」

 そして目の前にあるソファに座っている小春と大橋になぜか怒られている最中であった。内容は日ごろの態度に対するものなどであったが、俺は正直5割くらいしか聞いていなかった。むしろ怒られていることに少しのいら立ちさえあった。

 だいたい俺がなぜ怒られている、別に学校でも家でもなんもしてないぞ。いやそこか、なんもしてないのがダメなのか。

「聞いているのかしら、土田くん」

 いやでも待て、人に害を与えるものよりかはマシだと思うぞ、ほらいるでしょ存在が邪魔な人。

 ぐふっ!今のは特大ブーメランだった、なんで自己紹介したんだろう。

 でも!でも!まだ巻き返せる。[存在が邪魔]と認識できている俺は当然人と距離をとっている。よって害にはなってはいないっ!QED、証明完了。難関大学の入試レベルの証明も……

 その時、バスッ!と少し鈍い音を立てて脳天を何かしらで叩かれた俺は声を上げた。

「痛い!?」

 咄嗟に上を見ると。

「人は本当に痛い時痛いとは言わないのよ」

 屁理屈を言いながら、新聞紙を丸めたものを持っていた大橋がいた。しかも真顔で立っていた、いやほとんどいつも真顔だけれど。

 てか、なに?俺ゴキブリ扱い?というかその新聞はどこから持ってきたのかしら。まぁ確かに痛くなかったからいいけど。いや、そういう問題ではなくないか。

「土田くん。私と妹さんの話を聞いていたかしら」

 と大橋に聞かれた。

「…………」

 まずい返答次第によってはまた叩かれる、早急に考えなければ、時間はないっ!時見は脳内緊急シミュレーションを行った。

 パターン1

「……聞いてませんでした」バスッ!大橋に叩かれる。

 パターン2

「……聞いてました」

「あら、そう」

「「…………」」

 両者の沈黙。


 なるほど未来が見えた。完璧。俺天才かも。

 そんな荒唐無稽で馬鹿らしい、脳内シミュレーションを終えて、時見は口を開いた。

「……聞いてま」

 が、バスッ!とまたしても大橋の新聞紙が俺の脳天を直撃する。

 俺の考えは水泡に帰した。反論をするべく再度口を開いたが、

「……まだ最後まで喋っ」

 バスッ!さらに容赦なく新聞紙叩きが行われる。

「わかった、大橋さんモグラたたき好きでしょ、そんな叩いても意味な」

 バスッ!

「……え、小春も、なんで叩いたの?」

 正直、小春からは叩かれると思っていなかった、この冷徹無比で残忍酷薄な大橋女王陛下からは叩かれるのは少しずつ慣れてきたが、実の妹の小春から叩かれるのは完全に予想外だった。

「ちょっと私もイライラしてきちゃった」

 怖い笑顔が怖い。でも怒っていてもかわいいからお兄ちゃん平気だぞ。はーと。……今のは我ながら気持ちが悪すぎる自重しよう。

 と思っていると小春から一喝。

「とにかくお兄ちゃんは怒られてるのに人の話を聞かなすぎなの!」

「……そこは俺が悪かった、謝る」

 確かに話を聞いてなかったのは完全に俺が悪い、けれど一つだけ言い訳をさせてもらえるのであれば、私、土田時見は混乱している状況にあるということを伝えたい。

 考えてもみてほしい、学校では全く喋らない日陰者の俺が突然学校の美少女に告白され、さらにその張本人が自分の家に上がり込み、告白した相手を叱るという状況。

 こんな突飛な状況にいて、平然と思考を巡らせることができる者はいないだろう。いたとしてもそれは空想上の主人公くらいだ。

 それでも俺は混乱している最中、一つの質問を絞りだした。

「だが待ってくれ、なんで大橋さんがいる」

 そういって俺は大橋を指差す。

 大橋は「人に向けて指をささないほうがいいわよ」と、今の俺にとっては、そこはかとなくどうでもいいことを言っていたが、それには反応せず、小春からの返事を待った。

「話を聞いてたら分かったはずなのになぁ〜」

 小春から嫌味を言われる。

「うっ、本当にすまん」

 どうやら100パーセント俺が悪いらしい。これからはちょっとだけ人の言うことをきいてみたいと思います。

「では、小春殿、もう一度ご教授お願いします」

「次はちゃんと聞いててよ」

「悪かった、次はちゃんと聞く」

 先ほどの決意を無駄にしないべく、俺はちょっとだけ人の話を聞く姿勢になった。

「まず大橋さんがいるのは、大橋さんがお兄ちゃんの彼女さんだからだよ」

「…………おい待て俺は認めてないぞ」

「え?だって言質もとってあったし」

「は?」

 俺はついに思考停止に陥った。この怒涛の展開に何もついていけない。大橋に説明を求めるために、顔を向けた。

「…………」

 だが大橋の方を見ても返事はない。だから、問う 。

「……説明を」

「録音しただけよ」

「いやそのまんまかよ」

「ええ言葉の通りよ、もしよかったら聞く?」

「いや、いい、俺は自分の声が大っ嫌いだからな」

 本当は録音してないのではないか、そんなことも思った。が、なぜか無駄な気がした上に、実際に自分の声を聴くのはきらいなので、聞くのをやめることにした。

「わかった。確かに了承したことは認めよう。だが小春」

「え?私?」

 小春は突然名前を呼ばれ驚いた声をあげた。俺はそれを無視して言葉を続ける。

「だが小春、小春は俺を知っているはずだ。俺がどんなに内弁慶であるか、そして学校で他人と話すどころか、いきなり告白なんてされたら!まともな判断ができると思うのか!小春。俺が彼女をほしがると思うか?友達すらいないんだぞ、もう一度考えてみてくれ」

「うっ…………確かにお兄ちゃんの言う通りにもう少し考えた方が?いい?の?かも?」

 熱弁に対して小春は戸惑いを見せる。よし、勝ったな、俺に彼女は出来ない。

 第1に俺は彼女が欲しくない、正確には全く欲しくないわけではないが、今は大丈夫といったところだろうか。

 第2にこれが俺の勝因の大半を占めているものである。

 それは小春自身だ。小春は誰にでも優しい。だから俺が嫌なことをさせるのは抵抗があるはずだ。

 案の定俺の眼前にいる小春は「うーん」と頭を抱えていた。

 どうやら相当悩んでいるようだ。俺は小春が俺にとって何が本当に幸せかを見つけてくれることを願う。

 がそこに暗黒魔界の女王陛下の囁きが。

「確かに私にも非礼なところがあったわね」

 訂正、そんなことなかった。大橋はちゃんと自分の非を認めてくれたようだ。こうなればこっちのもんだ、俺がぼっちになることを誰が止めることができるだろうか。いや出来るはずがない。そもそもぼっちを楽しんでるしな。がっはっは。

 ぼっち生活の存続を確信に変えるため口を開く。

「そうそう、じゃあ」

「ではこうしましょう」

 おい大橋さんや。俺の言葉をさっきから遮りすぎじゃないか?俺に告白したのが誰なのか考え直していただきたい。大橋さんですよね、彼氏に発言権くらい持たせてやれ。

 俺の発言はまたしても大橋に遮断され、そのまま大橋のターンは続く。

「この高校生活が終わるまで、ということでいいのではないのかしら」

「…………は?」

 もう何回驚けばいいんだろうか。F1くらい展開が早い、何ならF1よりも早い。  

 こいつの中で付き合うってどれだけ長い期間なんだ。高校生活が終わるまでって普通に付き合うのと変わらなくないか。というかどうゆう脳みそ持ってたらそんな思考にたどり着くんだ、頭スカポンタンポンカンなんじゃないの?

 と心の中でさんざん大橋への皮肉を口にすると、小春が口を開いた。

「それだ!」

「え」

 今のどこに、いい要素があったのかわからないが、小春は手を打ち納得した。

 こうなるともうおしまい。まぁ何というか、小春は恋愛バカである。学力的には申し分ないが、そこに恋愛が絡むと頭が悪くなる。なんでもかんでもカップルになればいいと思っている。

 恐らく付き合うことは確定的になった。仕方ない、なら俺はこれから死にながら生き続けよう。そう決心するも、やはり嫌なものは嫌なので一応の抗議をする。

「いや、待て」

「多数決とりまーす!大橋さんのアイデアがいいと思う人〜」

 2名が挙手。いや多数決はずるくない?俺は基本的に数少ない方に手をあげる修正があるからさ。絶対に負けちゃうんだよね。それよりさっきから俺の

「じゃあ過半数でお兄ちゃんと大橋さんは付き合うことになりましたー!」

 いや、なんで心の中でまで遮られるの、発言すらしてないんですけど。

 そんな心の愚痴をよそに、二人は案が決まると同時に拍手をした。ふざけやがって、鼻くそほじってやろうかこの野郎。(謎の抵抗)

「じゃあ大橋さんから一言!」

「不束者ですが末永くよろしくお願いします。地味くん」

「その言葉は結婚する時に聞く言葉だと思うんだけど、あと最後の時見の発音が違うんですけど?地味って言いましたよね?なんですか?いじめですか?」

「はいじゃあ次はお兄ちゃんから!」

 そろそろ本当に人権がなくなってきた。土田、人間やめたってよ。なんて言う小説書いたら売れるんじゃないか?

 という妄想を繰り広げつつ、俺はこれまで出したことのない大声を、腹の底から出した。

「わけわかんねぇぇぇぇ!!!!」

ご近所迷惑を考えず大声で叫んだ。それでも何も変わることはない。

今日。

いや今から、俺のくそったれなリア充生活が始まった。

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