始まり
始めまして、雪猫と申します。
全く持って小説には関係ないのですが、
アンパンマンのOPの歌詞って子供より大人がちゃんと聞いた方がいいよねと常々思うので、
たまたまこの小説にたどり着いた、物好きな老若男女諸君はぜひ聞いてください。
ジリリリリリリ!
ドン!
午前7時にセットされたアラームを乱暴に止めた。
毎度のことだがこんなに腹立つなら目覚ましかけない方がいいんじゃないか?
そう思いながら俺は布団から脱出。そしてクローゼットから制服を取り出し着替えたところで意識は覚醒する。寝起きは意外といい方なのだ。
――おっはよー!俺の名前は土田時見!これでじみって読むんだ!親が言うには時間を見てしっかり行動しろって言う意味を込めたらしいんだけど、俺に話す時にずっと笑いをこらえたように俺の目を見てなかったから、多分嘘だね!
むしろ寝起きが良すぎてこのようなテンションになってる。
しかし…………うちの両親がほんと適当に名前つけんなよ。
つちだじみってなんだよ!いかにも、私が日陰者代表です。みたいな雰囲気にしやがって。
おかげでクラスで……クラスで…………すいません、何もいじられてないです。というかいじってくれる人が…………。
いや朝からこんなんじゃダメだ!
ネガティブな気持ちを振り払うために顔をぺちぺちと叩く。
なにはともあれキラキラネームというかふざけた名前は子供にとってつらいので、変わった名前を付けるのは絶対にやめるべきであることを伝えておく。
「お兄ちゃーん、起きたー?ごはんできてるから早く食べなー」
「ん」
両親に対する不満をぶちまけたところで、下から妹の小春の声が聞こえた。
小春、小春。
兄の名前は時見で妹の名前がなんでこんな普通なの?亜穂とか葉下とかあったでしょ。
ちなみに両親に昔、何で小春って名前にしたか聞いたんだけど。
「流石に女の子は適当に変な名前つけれないからねー」
とかなんとか俺の目の前で言いやがった。
いや、それ俺の名前を適当に変な名前にしたって言ってるのと同じだからね?
…………まぁ自分の妹の名前が変だと俺もいやだけど。そう考えると、ごめんな小春、俺の名前が変で。
悔いてもどうしようもないので、思考を現実に戻しリビングのドアを開ける。
「おはよ」
「お兄ちゃん、おはよー」
小春と挨拶を交わす。
時計は7時12分を示していた。
いつもこの時間に起きたころには、両親はもう仕事に出かけている。
仕事の内容はよく知らないが、2人揃ってエンジニア系の仕事をしているそうだ。
理由は名前がかっこいいからであると豪語していた。
つくづくふざけた両親だなと思うが、これだけふざけていても、エンジニア系の世界では割と有名なのも腹立たしい限りだ。そのせいか家に帰ってこないことも多い。
そのため朝ご飯は小春が作る。
兄という立場にあるのにも関わらず妹に作らせるのは気が引けるが、もちろんそれには理由がある。
あれは高校入ってすぐの頃。
その日の俺は早く起きることができたので、小春と共に朝食を作ってみる事になった。
俺が任されたのは味噌汁。水を沸騰させて、豆腐やワカメなどを入れて、味噌を溶かすだけでできる簡単な作業だ。
ただ、一点の懸念材料があった。
それは俺が生まれてこの方料理なんざした事がないということ。
せいぜいあってもマクドナルドの冷めたポテトをレンジでチンするくらいだった。
事実として、そんな男は味噌汁の作り方さえも理解していなかった。ある程度作業が進んだところで小春が
「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「……味噌汁味見してもいい?」
と言ってきた。別に後で飲むものであって、出し惜しみする必要もないので、「おう、いいぞ」と返事した。
恐らく味見する前から、小春は俺の作った味噌汁がまずいのはわかっていたのだろう。
小春は恐る恐るおたまで味噌汁をすくい少しだけ飲んだ。すると
「………………今日はやっぱ私が作るよ!味噌汁作ってくれてありがとね!」
と元気よく言われ、少しショックに思い俺も同様に味噌汁を一口啜る。
「……使えねぇ兄でごめんな」
と反省する事しか出来なかった。
なぜこんなにも不味くすることができたのだろうか、酸味が足りないとか言って調子に乗ってケチャップをぶち込んだのが悪かったか?
ただ……優しい、優しすぎる、俺の妹。
普通「まずい」とか「もう作んな」とか「国に帰るんだな」とか言うよね?言わない?
まぁ後でスタッフがおいしくいただくことにしよう。
という事があったので兄としては立場もないが小春に作ってもらっている状況だ。これからは料理できるように精進します。
心でそう宣言をしてから、冷蔵庫から牛乳を取り出し食器棚からコップを2つとる。
そして席に着くと、コップに牛乳を注ぎ自分の牛乳を軽く一飲み。
しばらく待っているとと小春も席に着いた。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
今日の朝ごはんはトーストとオニオンスープ、スクランブルエッグだった。
朝からきちんと作るのは、父親の丁寧さを受け継いでいるのだなと実感する。
「うまい!愛してるよ小春!」
「はいはい。ありがと」
兄からの愛の告白を華麗に流す小春は黙々とトーストをかじったままであった。
そんなこんなで適当に雑談したりしなかったりで食べ終える。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様です」
食器を台所に戻すと洗面所へと向かう、朝を食べ終わった後に顔洗い、歯磨きをする。
時見は、朝食前に歯磨きしない派閥の人間だ。
そしてその後はだらだらする。スマホのゲームをするもよし、朝のテレビを見るもよし。ちなみに今日の天気は晴れのち曇りらしい。
とにかくやることがない、ので俺は小春とソファで話していることが多い。
「小春」
「ん、何?」
「今日は何かゲームするのか?」
「うーん、してもしなくてもいいって気分」
「それなら、一緒に格ゲーでもどうですかね、小春師匠」
俺はゲームが好きだ、もちろん小春も同様に。
ジャンルは様々、ロールプレイングゲーム、レースゲーム、格闘ゲーム、パーティーゲーム等、なんでもござれだ。
そもそも二人がゲーム好きになったのは両親の影響が大きい、両親ともどもエンジニア系の仕事に勤めているといったが、正確にはゲーム関係のエンジニア。
土田家には様々なゲームハードが存在するため、一般家庭と比べるとゲームに触る機会が多かった。
さらに俺と小春は年子の関係にあり世代が大きく離れていないこともあり、よく一緒にゲームをする。
「師匠なんてやめてよ、何回も言ってるけど別にそんなにうまくないって」
「またまたご謙遜を」
俺が小春を師匠と呼ぶのはもちろん小春のほうが俺よりもゲームがうまいから。
それも度を越えてうまい。俺のゲームレベルを一としたら小春は十くらいある。
別に俺のゲームスキルがそれほど低いわけではない、ただ小春のゲームスキルが高いだけ。
それも当然、小春はほとんど全てのゲームにおいてネットのランキング上位に入っている。
ちなみに小春のハンドルネームはオクラ。Koharuを並び替えてhを取るとOkuraになるからオクラ。
小春がオクラ好きということではない。むしろイクラのほうが好物である。
なかなかにくだらない名前の付け方だが、小春はこの名前を気に入っているらしい。
そして俺のハンドルネームはケイジ。俺自身とは全く関係ないが好きなイラストレーターの名前を少しだけもじったものである。
「本当に格ゲーでいいの?お兄ちゃん。言ったらあれだけどぼこぼこになると思うよ」
「甘いな、小春。俺はここ数週間、格ゲーをやりこんだ、今の俺に死角はない、ぼこぼこになるって言葉そっくりそのまま返してやるよ」
「……そこまで言うなんて珍しいね、お兄ちゃん、いいよ受けて立つよ、全力でやりあおう」
というわけで今日小春と格ゲーで対決することになった。ちなみに数週間やりこんだだけで小春に勝てるとは到底思っていない。
ゲーム名はスマトラファイターズ、通称スマファ。
ファイターズは格ゲーから由来しているが、なぜスマトラという名前を用いたのかは……秘密にしておこう。
ともあれゲーム性自体はありきたりな格闘ゲーム、だがとても奥が深い。いやシンプルだから奥が深いのかも知れない。
キャラクターは主に動物をモチーフに擬人化されている。
さらに1体1体のキャラのバランスがちょうどよく、どの大会を見ても上位に食い込むキャラクターは様々である。
どのキャラクターであっても、努力によってうまくなれるゲームというのはなかなか難しいが、スマファはその常識を軽々とひっくり返した。
そのため格ゲー界隈における名作として名が上がらないことはないだろう。
そんなスマファを俺は何週間も練習した。努力が確実に身になるゲームほど楽しいものはない。俺はそう思う。
そのおかげで俺はコンボの初段が決まればミスすることはほとんどない。
はやる気持ちをぐっと抑え俺は今夜の小春との対決を頭の中でシミュレーションしていた。
小春も真剣な表情を浮かべていたので今日の決戦に向けて考えているのだろう。
つくづくゲーマーな兄弟だな、なんて思った。
小春をみて俄然やる気が出てきたところだったが時計を見るとそろそろ家を出る時間だったので小春に声をかけた。
「そろそろ行く?」
「うん」
俺がそう提案すると小春は頷き返す。玄関のドアを開け、俺らは春の暖かい陽気とともに輝く太陽にその身を晒した。小春も外に出たのを確認し、ドアの鍵を閉め通学路を歩く。いつもと変わらない1日。なんとなくその日暮らしで過ごす日々。そんな日が今日終わるとも知らずに呑気に俺は小春に話しかける。
「ちなみに小春は何のキャラ使うんだ?」
今の俺の頭にはもうスマファのことしかなかった。小春も同様だったのかすぐに返事を返す。
「多分キジかな、勝率一番いいし」
「まじか」
小春がキジを使うとは思ってなかった。キジは中距離タイプのキャラクターだ。間合い管理がとても重要で間合いが取れていないと結構崩れがちなキャラクターだ。逆に間合い管理が完璧であれば相手に崩されることはない、堅実さが求められるキャラクターだ。
そして、キジは小春のメインキャラの1体であり、大会で多くの実績を残しているキャラクターである。そんなキャラを当ててくるなんて想定外だった。どうやら小春も本気のようだ。
「なるほど、ガチなんだな」
「ガチなんだよ、お兄ちゃん」
二人でちょっと低い声を出してかっこつけた。
「お兄ちゃんは何使うの?」
小春がいつもの声に戻ったので、俺も戻して答えた。
「俺はやっぱりイモリかな」
「やっぱりイモリかー」
俺のメインキャラはイモリ。それは小春も知っていることだ。素早さが特徴的なキャラクターであり、少しずつ相手を削っていくタイプのキャラクターだ。おまけにイモリは所謂、中二病的なキャラクターであり、そこも含めてイモリというキャラが好きだった。
「楽しみだな、今夜の勝負」
「そうだね」
二人のゲーマーがバチバチと火花を散らしていると学校に着いた。
「んじゃとりあえずお兄ちゃん学校頑張ってね」
「あぁ、ありがとう小春も頑張れよ、授業中に居眠りしたら起こしにいくからな」
「いやいや、無理でしょ」
笑いながらそう返された。
実際必要ならばいつでも駆けつけるつもりだ。授業をさぼる口実にもなるし。……なるわけないな。
「お兄ちゃんも居眠りしちゃだめだよー」
そう言いながら手を振り、去って行く小春。
「また後で」
手を振り返し、誰にも聞こえないくらいに返事をする。
ここから俺は急激にテンションが下がる。学校が億劫で全く楽しくないから。
もうスマファのことを考える気力すらなくなった。一言も喋らないくらい気持ちが沈む。というより文字通り一言も喋らない。
いつものように下駄箱で靴を履き替え……
そこで異変に気付いた。自分の下駄箱に白い紙が入っていたのだ。
「…………。」
何かの嫌がらせかと少し動揺した。
ただ冷静に考えると、ゴミを置いたか、いたずらのどちらかであろう、特に学校で俺に用事がある奴なんていないし。
が流石に中身が気になったので、ポケットに手紙を入れ自分のクラスである二年二組を目指す。
いつもなら朝から楽しそうな学生たちを見ながら俺は今日の時間割がどんなかを思い出しながら教室へ向かうのだが、今日ばかりはあの手紙について考えざるを得なかった。
扉を開け窓際1番後ろにある、いわゆる神席に着くと同時、俺は手紙の内容を確認した。
「土田くんへ。放課後屋上で待ってます。」
それだけだった、他は何も書いていない。筆跡はどう見ても女子が書いたっぽい。
しかしここで安直に告白を信じてしまっては負けである。
上位グループには女子も当然いる。その人達のいたずら、と考えるのが自然だ。
それでもこれでゴミの線は消えてしまった。ほかの人の名前ならいざ知らず自分に対して名指しでの手紙をゴミと考えるのはどうも違う気がする。
さらに読んでしまったので、もしいかなかったとしたら、俗に言うカースト上位グループに社会的に殺される気がする。
そもそも内容が気になり確認した時点で俺の敗北は決まっていたのかもしれない。あるいは……本当の告白か……
いやいや、ないない俺に告白はないだろ。
大体なんで俺がこんな面倒くさいことになるんだよ。ほんとしょーもないわ。もっと脳みそ空っぽにして、「ナスビ」とか言うだけで生きれる世界にしてくれよ。
そう考えていると予鈴が鳴り、朝のホームルームが始まった。
その日は適当に授業を受け、この手紙について考えていたら、気づけば放課後になっていた。
おかげで弁当食べる時1人になっちゃったじゃん!……うん、1人。
俺はそんなことも考えながらいつものように一人で弁当を食べたりもした。
しかし、1つのことを考えると時間が早く経つというのはどうやら本当らしい。
さてこれからどうしよう。手紙の通りに屋上に行くかそれとも行かないか、それは俺の自由である。
行くメリットとデメリットを考えよう。
まずメリットは俺をたった一通の手紙でほぼ丸一日考えさせた、張本人の顔を拝むことができるくらいだろうか。あるいは告白されるか……。
デメリットはこけにされて終わる。他は……特にない。逆に考えれば、コケにされるだけで終われば楽だ。
俺はそう決心し、屋上へと向かった。
うちの学校は七階まである。そのためにエレベーターがある。
けれど、生徒は乗ってはいけないという謎のルールが存在した。若者は動けということなのだろうか。
普段運動していない体に鞭を打ち、はあはあと息を吐きながら階段を上った。
ようやく屋上の前の扉に着き、いったん呼吸を整えた。ここまで来たけれど、今さらになって帰りたくなってきた。
それでも決心を固め、俺は屋上のギィと音を立てる重い鉄扉を開いた。
すると、そこにはいた。髪を風に揺らされながらフェンス越しに下を見る少女が1人。その後ろ姿は、と人物を予想しようとしたところで、彼女は俺の気配に気づきこちらを見た。
「来たわね」
そう言うとこちらに近づいてくる。
「私の名前は大橋朝香。同じクラスなのだけれど知っているかしら?」
「…………」
知ってるも何も校内では有名人だ。同じクラスでなくても名前ぐらいは耳にする。彼女の知名度はそのレベルまであると思う。
文武両道、才色兼備で何をするにもそつなくこなす、完璧な人物。
しかし彼女は冷徹な雰囲気を纏っていて、近寄ろうとする人はあまりいない。孤高の美女という名にふさわしい人物だろう。ただ俺と違って、友達が全くいないというわけではないらしい。
返事に困っていると向こうから話してくる。
「相変わらず何も話さないのね、まぁ別にいいわ、呼んだのはこちらだものね」
こほん、と咳払いをすると彼女は口を開く。
「ずっと、ずっと好きでした。だから。」
そういった彼女の声色はいかにも恋する乙女のようだ。そして彼女は
「付き合ってください!」と言い切った。
俺は一瞬でも自分にこんな春がくるのか、なんて思ってしまった。
ただ、これは試されているだけ、確実に何か裏がある。第一、俺に春は来ない。俺の場合は春夏秋冬そのものがないようなものだ。 常に真冬。本当の告白なんてあるはずがない。
それでも告白されてしまっては流石にもう無言を貫けない。これに対して何らかの返事をしないといけない、と思っても言葉が出てこない。というか動揺を隠せない。もうないないづくしでうんざりだ。
どうにか喉から必死に声を出そうとして。
ようやく口に出せた。
「ごめん……俺と君じゃ合わないよ……俺には……勿体無い、だからごめん」
言い切ると同時に、この空気に耐えられそうにないので、そそくさとこの場を去ろうとするが。
「待ちなさい」
彼女はそれを止める。
「普通の告白方法はこうらしいのだけれどやはりあなたは普通じゃダメみたい」
彼女のほうを振り返ると、なにやらぶつぶつと言っている。
そして彼女はこちらに歩み寄ってきた。
距離が近づく。俺は逃げるように後退していくと壁にぶつかってしまった。
俺と彼女の距離は鼻と鼻がくっつきそうなほど近かった。
顔がよく見える。艶やかな唇、綺麗でまっすぐな瞳、さらさらで瑞々しい髪、女子特有の良い香り。全てを間近で感じ思考が機能停止を告げ。そして耳元で囁かれる。
「今日からあなたは私の彼氏、これは命令」
必死に頭を回すがそれより早く彼女に返事を求められる。
「返事は?」
「あ、は、はい?」
咄嗟に答えてしまった。
「そう、それじゃまた」
俺を置いていき彼女は去る。
「…………………………は?」
置いて行かれた俺はただ唖然としているだけだった。
自分の家に土足で入り込まれ、全てを破壊されたらこんな気持ちになるのだろう。
なぜか清々しい。あと夕日もめっちゃ眩しい。
俺は屋上で10分ほど立ち尽くし、教室に戻ってからも茫然としたまま、取り敢えず家に帰ることにした。
部活は入っていないので学校に長居する必要は1つもない。
帰り道にあれこれと考えもしたが、やはり家で考えないと落ち着かないので、家までの最短距離を歩く。
ただしばらく歩いていると見慣れた外観のおかげか冷静になってきた。
一種の現実逃避をしながら遺影に着く。
鍵を差し込み扉を開けようとしたがすでに小春が帰って来ているようだ。
ガチャと玄関ドアを開け、座り込み靴を脱ぐ。
振り返ればこの時、俺は一つ知らない靴があったことに注意すべきだった。
「あ、おかえりー」
「ただいまー」
小春がちょうど洗面所にいたため声をかけてくれた。それを見た俺は本能的に。
「小春ー!聞いてくれー!」
「ちょ、お兄ちゃん!?」
帰って早々、小春にしがみついた。やはり家は良い、自分の空間であることを確かめられるし、知らない人はいない。シスコンなのはまぁ気にしないでくれ。
俺が安堵感に浸っていると。
開くはずのないリビングのドアが開いた。
「あら、学校とは様子が違うのね、そのシスコンもどうにかしなければいけないわね」
数十分前に耳に焼き付けられた声色は、俺を驚愕させるのには十分であった。
「…………大橋さん??」
「ええ、そうだけれども、私に似た人をどこかで見たのかしら」
嗚呼、神様。これから俺の高校生活はどうなるのでしょう。