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女冒険者は絶対に引退したい〜Sランクパーティーから追放されたので、これはもう引退するしかないと思います。引き留めないでください!〜  作者: 清水薬子
死に損ないたちのリベンジ

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第十話「動き出す事態」


 北極の極点と呼ばれる地点にて、青い鱗を纏った月虹竜『ブルードラゴン』は、雪の大地に平伏する矮小な存在を眺めていた。


【小さき者よ、汝らは我が庇護を求めてこの過酷な地へ参ったというわけだな?】


 朗々と響く低い声。魔力を振動させ、意志を伝える言葉に防寒具を装備した人々は身体を震わせた。

 過激な環境保護団体『リヴァイアサン』のリーダーであるイヴァンが氷の上に膝をついた。


「はい、はい、その通りです。我らが惑星(ほし)の主人にして、偉大なる竜よ。人同士の争いが絶えず、自然破壊を止めない愚かなホモサピエンスに変わり、この世界をお導きください」


 『リヴァイアサン』は世界各国で過激な環境保護団体としてその名を知られている。輸出船への妨害工作や国境侵犯など、その罪状は数え切れない。

 地球温暖化を防ぐためには、企業の言いなりになる司法や理念だけでは何も解決できないというのが言い分だ。

 魔物の出現を『超自然的現象』と捉える彼らにとって、その体現者である月虹竜こそ世界の救世主と解釈している。

 北極の氷を分厚くした、という成果だけで神輿に祭り上げているのだ。


【ふむ……たしかにここへ初めて来た時、氷の大地は薄く、小さかった。これは由々しき事態であるな】

「そうです、そうです、そうなのです!」

【しかして、この身で動けば冒険者ギルドが黙ってはおるまい。再生したばかりのこの地を傷つけてしまうかもしれん】


 月虹竜の言葉に『リヴァイアサン』の面々は狼狽える。

 竜はすうっと瞳孔を細めた。


【ゆえに、汝らに我が力の“片鱗”を貸そう。その力さえあれば、我が力でこの地に結界を張ることも叶うだろう】

「力、ですか……?」


 リーダーのイヴァンが訝しむ。

 魔法でなんとかしてくれるだろあと考えていただけに、逆に頼み事をされるとは思わなかったのだ。


【結界さえ張れば、いかに冒険者といえどもこの地を自由に行き来できなくなる。さらに二年ほど待てば、迷宮神との接続を得てこの地の時を永遠にこのままにできるであろうな】

「それはつまり、ホッキョクグマや鯨たちが絶滅せずに済むということですか?」

【うむ、その通りだ】


 イヴァンは振り返って、メンバーの顔を見る。


 その場にいる人々は誰もが環境を守るために活動してきた戦士であった。

 報われぬ活動、白んだ目を向ける家族や友人、逮捕に屈したかつての同志たちの裏切り。

 それらの試練を乗り越えた者だけがそこにいた。

 ならば結論はただ一つ。


「……私たちに出来ることであれば、なんなりと」


 首を垂れた彼らの前に青く輝く鱗が置かれた。

 白夜の光を受け、氷の上に置かれたそれは深海よりも暗く、宇宙よりも明るい澱みが煌めいている。


【さあ、それを柔肉へ突き刺せ。さすれば魔物に負けずとも劣らない力が手に入る。汝らがこれまで“戦って”きたように我が力がこの地に満ちるまで耐えるのだ】


 イヴァンは震える手を鱗へと伸ばした。




◇ ◆ ◇ ◆



 北極付近を通過する貨物船のデッキに〈最低最悪〉の二つ名を持つアレクセイが腕を組んで立っていた。

 荒波と暴風を気にかけることもなく、ひたすら氷の大地を睨みつけている。


「ドラゴン、相手にとって不足なし‼︎」

「アホ、間抜け、なんでお前は外にいるアルか」


 叫ぶアレクセイに回し蹴りを叩き込んだのは〈桃源郷〉の翠花。

 世界的に指名手配を食らっている二人は、貨物船に忍び込む形で北極を目指していた。


 アレクセイはドラゴンを斬るため、翠花は復讐を成し遂げるため。

 利害の一致も兼ねて二人は行動を共にしている。


「ハア、前途多難な未来が早くも見えてきたアル」


 翠花は深くため息を吐く。

 既に他の〈原初の迷宮攻略者〉が北極に向かっているとの情報を得た。


「湯浅と遠藤は理性があるから交渉できるが、他の連中は骨が折れるネ」


 〈永久凍土〉のルカと〈大食らい〉のシンディは金や説得で動く輩ではない。ドラゴン討伐の名誉を目的としている以上、彼らは絶対に討伐を譲らないだろう。


「俺は生き物を斬れればそれでいい!」

「頼むからコンテナを斬るのはやめてくれ」


 呪いの剣を振り回すアレクセイを組み伏せながら、貨物船は北極へと至る。




◇ ◆ ◇ ◆



「月虹竜の居場所の特定に成功した」


 私たちを応接間に招集したエルドラが開口一番、進展を言葉にした。


「やぁっとかよ、ハイエルフ!」

「ユアサにちょっかいをかける貴様から飛び出た台詞とは思えんな」

「お? 嫉妬か? 男の嫉妬は見苦しいぜ」


 早速喧嘩を始めるエルドラとセレガイオン。

 二人とも何百歳と言う年齢なのに諍うのかと呆れていると、ロドモスが強引に話を戻してきた。


「で、出発はいつにします? 魔力の乱れが発生していますので、決断は早めが良いかと」


 缶コーンを頬張るヴォルンが顔を上げた。


「俺もロドモスに賛成だ。この魔力は何か良くないものを感じる」


 私も窓の外へ目を向ける。

 外は晴天模様だが、彼らの言う魔力の乱れのようなものはぼんやりと感じた。


「それは俺も把握している。これ以上は待っていても改善しないどころか悪化するだろう」


 エルドラが机の上に置いたのは『リヴァイアサン』のメンバーについて纏めた資料。

 ロドモスはペラペラとそれに目を通す。

 セレガイオンは文字列を見るなりうげーと言っていた。


地球(テラ)にもこういう思想活動家っているんですねえ。こういう輩がいるなら、早く行動するべきです。純粋で騙されやすいですからね」


 ロドモスの言葉に私以外の全員が頷いた。

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