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女冒険者は絶対に引退したい〜Sランクパーティーから追放されたので、これはもう引退するしかないと思います。引き留めないでください!〜  作者: 清水薬子
死に損ないたちのリベンジ

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第六話 グレニア法国の歴史


 月虹竜ブルードラゴン。

 その魔物が生息する北極は、複雑怪奇な環境に変わり果てていた。


 常にオーロラが昼夜問わず目視できるほど降り注ぎ、雪雲もないのに吹雪いている。

 迷宮が極端に近い位置にある場合に確認される異常環境だ。


 北極という人里離れた場所だから仕方ないが、ここも魔物に溢れていた。

 幸いなのは、魔物のレベルの割には対処が楽なスキルばかりだった。


 いそいそと素材を剥ぎ取るフールと心臓を抉り取るセレガイオンを待つ間、暇を持て余した私は外側(アウター)についてエルドラに聞いてみた。

 特に気になるのは、北極へ向かう途中に追いかけてきたグレニア法国の司祭たちだ。


「グレニア法国の歴史か? そうだな、俺たちの世界で二番目に歴史がある国だ。古くは各地の森林地帯に移住したエルフたちであり、長い歴史の中で一つの種族……つまりは人間を確立した」


 エルドラは足で地面の雪を蹴りながら、大雑把な地図を描く。

 北に帝国、南に法国、東に王国で西に連合国。

 一つの大陸に四つの国が存在しているのだ。


「創造神の亡き後、繁栄を続ける俺たちハイエルフから分岐したエルフは王国を建国。さらに分岐した人間は各地へと散らばって、短命な獣人との婚姻も進めた。彼らは長い寿命を放棄する代わりに、混血による遺伝子の特異変質の確率をあげた……これは結果論だがな」


「(たしか獣人は狩りの達人でもあったんだっけ?)」


「ああ。そうして各地に散らばった人間だったが、ある時を境に一人の人間が現れた。その地域を収めていた領主を殺害後、唯一神教の教祖と自ら名乗り、人間こそが優れた種族であると叫んだ……これが聖クレインの反乱だな」


 エルドラは法国と王国の境目をぐりぐりと踏む。

 どうやらそこが反乱が始まった場所らしい。


「聖クレインは帝国を敵視し、堕落の国として滅ぼさなければいけないと批判した。俺たちの遺伝子治療や同性婚に対して、自然の摂理に反すると主張して譲らなかったからな。その裏にはハイエルフという種族に対して憎悪があったからだと言われているが、詳しいことは分からん」


「(あ〜、そういう人もいるよね。それで帝国との戦争に備えて法国ができたの?)」


「ああ、そうだ。その一環で法国は不可侵条約を結んでいたエルフを動員して王国を作り上げ、以降は帝国との戦争に勝利する為に活動を繰り広げた……まあ、だいたいが帝国の勝利に終わっている。邪神の暗躍や法国内の派閥争いなど、理由を列挙するなら数える指が足りないぐらいだ」


 そこまで頑張っても負けが混んでいるのか。

 そう思うと最高司祭が可哀想な存在に思えてきた。


「(そういえば、唯一神は神聖魔法を持たないの?)」


 聖騎士として受けた研修や信仰の教義には、唯一神の名前はない。

 その名前と教義からなんとなく地球にある信仰と近しいものを感じていたけれど、創世の神話に出てこないとなれば首を傾げてしまう。


「ああ。どういうわけか彼らは神の実在を魔法で確認することは不信仰の現れとして考えているらしい。『神の実在は疑ってはならない』『神を試してはならない』だったかな」


「(じゃあ、聖印もないの?)」


「ああ。彼らは聖印を身につける代わりにチェーンを首に巻く。偶像崇拝は禁止されているそうだ」


 私は感心しながらため息を吐く。

 言われてみれば、最高司祭に至るまで信仰や身分を示す印を身につけていなかった。代わりに華美な布や服を纏っていたのは、身分をアピールするためか。


 ーーグルルルルオオオオ…………


 迷宮の浅い層にいるおかげで、外を飛行するドラゴンの咆哮が聞こえてきた。

 追跡がてらに迷宮を探索してはそこで一泊しているわけなのだが、ドラゴンの巣穴を突き止めるのに難儀している。どうやら転々としているようで、追いかけるだけでも一苦労だ。


 明日から白夜ということもあって、一度追跡は諦めて近場の施設で補給することになっている。

 なにせ、磁石がぐるぐるとまわっては使い物にならない。おまけに電気を確保できないので、現在位置を把握するだけでも困難だ。

 たしか明日立ち寄る場所は北極観測所だったかな。

 そこに一時的に私たちの補給物資を預かってもらっている。


「お、世界地図か。いいか、ユアサ。俺の大陸はここだ」


 食事を終えたセレガイオンが南東の少し離れた位置に三角形を描く。

 今は火山灰に覆われたエクペレ大陸だ。


 ふらりとやってきたヴォルンがしゃがんで王国と法国の境目にぐりぐりと印をつける。


「俺はここ、辺境のパイポカ村」

「私は王国の南部、プロセクール自治領です」

「フールは南の楽園、シュガーランドだぞ」


 おお、こうして地図を前にして見ると皆はバラバラな場所から日本に来たんだと実感するな。

 とりあえずスマホで写真を撮っておこう。


 ドバイ旅行は散々なことになったけど、事態が落ち着いたら華菜を誘って異世界の旅行でも……いや、異世界は治安が終わっているからやめておこう。パスポートもややこしい手続きが求められたし……。

 うん、国内にしておこう。そうしよう。

 異世界はまた別の機会にね。


 そのためにも、二竜討伐を成し遂げて華菜を地球に連れ戻さないと。


「さて、おしゃべりはここまでだ。白夜が始まる前に目的地に向かうぞ」


 エルドラの鶴の一声に緩んでいた空気が引き締まる。

 荷物を背負った私たちは、晴天の空に吹雪く外へ歩きだしたのだった。

帝国高官「俺たちに宣戦布告した馬鹿どもに身の程ってやつを教えてやらないと……ふぁっ!? もう壊滅してる!?」

司祭「騎士達が反乱を起こしたので、お前達に反乱を鎮圧して正当な報酬を得る権利をくれてやろう。神と私たちの御慈悲に感謝しろ」

帝国高官「な、なんだこいつら……帰ります……」

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