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女冒険者は絶対に引退したい〜Sランクパーティーから追放されたので、これはもう引退するしかないと思います。引き留めないでください!〜  作者: 清水薬子
死に損ないたちのリベンジ

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第四話 ゲーミングアーマー、爆誕!!


 ドワーフの悪夢人である職人フレイに防具制作の依頼を出してからはちまちまとした採取依頼をこなしたり、エルドラの誘いで魔物討伐に出たりして防具代は稼いで過ごした。


 グレニア法国の最高司祭が姿を現すことはなかったが、内藤支部長にはちくちくと『あの後は大変だったんだからね』とお叱りを受けた。

 私も大変だったと返したら彼は肩を落とした。


 それから一週間は特に何事もなく。

 強いて挙げるなら、ヴォルンがフールの作ったじゃがバタ醤油に魂を抜かれて無邪気になっていたことぐらいだ。

 フールは『手の込んだ料理よりこれがいいのか……』とドン引きしていたことは記憶に新しい。


 そして、約束の日が来た。


「楽しみだな、ユアサの青い鎧」

「ああ、赤い鎧を着て立つあいつの背中は絶対にかっこいいぜ」

「やはり緑色です。ユアサさんの知的な感じが引き立ちますから」

「金色」

「高く売れそうな銀色がいいぞ」


 何故かロドモスを筆頭にエルドラやフールまで完成した鎧を受け取りに行くことになっていた。

 そして、当日になるまで全員が譲らなかった。

 色に関しては揉めるのも面倒だったので、フレイに一任したのだが、今日まで議論の的になるとは思わなかった。

 この調子だと、受け取った鎧の色次第でまた喧嘩が起きそうだな。


〈ひゅ〜、モテモテ〜!〉

 多分、あいつらは喧嘩したいだけだと思う。

 あとは私をダシに騒ぎたいだけ。


 セレガイオンは特にわかりやすい。

 エルドラの方をチラチラ見ながら「金色はないだろ」と大きな声で言うから。

 エルドラは鼻で笑って「赤色はもっとないな」と反論する。

 するとヴォルンは「やはり青……!」と呟く。

出会った当初の『僕は他の冒険者と会話もしたくないし、指示されるのはまっぴらごめんだ』発言から一ヶ月、あまりにも早い陥落に私は驚くしかない。


 最近ではフールまでもこの喧嘩騒ぎに便乗して、賭け事までしている始末だ。

 もう手に負えない。勝手にやってくれ。


 冒険者ギルドの三階ホールをぞろぞろ引き連れながら歩いていると、隅の方に工房を構えている『技巧神の指先』という看板の横で手を振るフレイを見つけた。


 技巧神は六大神教ほどメジャーではないが、地域では根強く信仰されている。

 特殊神聖魔法もあるが、信徒として認められるには何かを工芸しないといけないのだ。


「こっちだよ、こっち!」


 両手をぶんぶんと振って私たちを呼ぶフレイに笑みが溢れる。

 ああ、周りが勝手にギスギスしている中、この子だけは元気はつらつで癒されるよ。

 アリアは最近、地方の迷宮探索に出かけていてなかなか会わないんだよねえ。

 遠藤は外国に派遣されているし、暦の上では最後に会ってからそれほど日にちは空いていないのに寂しくなるものなんだね。

 今度連絡してみようかな。


 とと、そんなことより防具だ。


「聞いてよ、ユアサッ。鎧をどんな色にするのかずっと迷っていたんだけど」

「「「「「…………(ごくり)」」」」」

「赤も青も緑も金も銀もどれも素敵で、そこのお仲間さんから話を聞いているうちにどの色も絶対にユアサに似合うと思ったの!!」


 背後にいる仲間たちの間に緊張が走る。


「だから、いっそ全部を採用してみることにしたっ!!」


 どんと目の前に置かれる鎧一式。

 その眩しさに私は目を細めた。




 ……………………???????????


 なんで、鎧が光っているんだ?

 なんで虹色なんだ?

 というか、なんだこの禍々しい気配は?



 喉元まで迫り上がった悲鳴を押さえて、これは何かの間違いだと思って注意深く目の前の異物を観察する。




 目の前に置かれた鎧一式は、やっぱり七色に光り輝いていた。

 光源もないのに鎧の隙間から漏れる光は七色に移り変わり、怪しげに明滅を繰り返す。

 何故か『血瞳晶』が肩に取り付けられていて、竜の鱗を縫い付けたマントまでご丁寧に付属していた。


 魔力の気配を察知して、血のように赤い色をした瞳に似た模様を持つ『血瞳晶』がぎょろりと私を見る。

 面頬(バイザー)を隔てているというのに、正確に私と視線を合わせてきた。



 どう見てもカースドアイテムじゃないか!!!!


「こ、これは……にわかには信じ難いが、これは……」

「なんという、なんということを……」

「ドワーフ職人め……」


 生唾を飲み込む音や拳を握りしめる気配に私は頭を抱えたくなった。

 これは乱闘騒ぎになるかも?

 と思った次の瞬間。


「防御力600、だと……各属性まで耐性を持つなんて、一体どんな生産系のスキルを使ったんだ!?」


 興奮した様子で鎧を手に取って眺めるエルドラ。


「この前、ゲーセンで見た。ゲーミングなんとかってやつだ!」

「ヴォルン、それを言うならパーティーパロットでは? 虹色に光り輝いて首を回転させるやつです」


 ロドモスから今、ネットで流行っている単語が飛び出すとは。いつか『草生える』と言い出さないか心配だ。


 私も手に取って見てみる。

 マントはやはり遠目から見た通り、竜の皮を使っている。

 きめ細やかな鱗がびっしりと並んでいるので、これだけでもかなりの防御力がありそうだ。

 ところでこれは、私が売りに出したはずのグリーンドラゴンの素材では?


「あたいの『クリエイト・カース』という生産スキルに『デメリット付与/性能上昇チャレンジ成功率極大』を組み合わせて作り上げた……至高の傑作さ」

「にゃ、それどう見てもカースドアイテムじゃないか。まあ、無口さんにはピッタリだけど」


 嫌な予感は、していたんだけどさあ。

 カースドアイテムなのは百歩譲って、虹色な上に光り輝いているとは思わなかったなあ。


「本来なら、職人は作り上げた作品に銘を刻んで後世にまで名を残すんだけど……この最高傑作にそんなことはできないよ。これ以上の作品は、あたいにはもう作れない」


 やりきったぜ、と興奮冷めやらぬ顔で語るフレイ。


「まさか、何十年も描いていた理論がこうして形になる日が来るなんてね……よく宗教家が像を作る時に素材の中からデザインを見出すと語っていたことを鼻で笑っていた。でも、今のあたいなら分かる。質のいい鱗を仕入れた時から、この鎧がぼんやりと見えていたんだ」


 それ、呪われているのでは?


「『アイギス』この鎧の銘もその時に思いついたんだ。なんでも地球(テラ)の神話に登場する防具なんだってね」


 私は鎧に視線を戻す。

 じっと鎧は見つめ返してきた。

 緑色の鱗が七色に照らされて艶かしく光る。


 レッドドラゴンは夢に干渉してきたが、まさか防具になる形で干渉してきた……?

 ありえそうだな。


 救いを求めてエルドラを見上げる。

 彼はそっと鑑定結果をシェアしてくれた。


 文句のつけようがないほどに性能はよく、デメリットは全て攻撃力に集中していた。

 私以外には絶対に運用できない。


「想像以上の出来栄えだな、ユアサ。特にこの金を使った装飾は素晴らしい」

「そこのハイエルフのお兄さんは分かってるね。金の装飾をガントレットにつけることで荘厳な雰囲気を演出しつつ、防御力を高めたんだ!」

「やるじゃないか。『白銀』にしておくにはもったいない腕前だ」

「へへへへっ、お兄さんおだてたって屑鉄しか出ないよお!!!!」


 エルドラは鎧を手に持ったまま、満面の笑みを浮かべて私にズイと渡してきた。


「さあ、着てみてくれ!」

「更衣室はあちらだよ」


 ……………………地獄かな????


 断る文言を考えているうちに、気がつけば更衣室に送り込まれていた。

 どうしよう。どうしよう。

 そんなことを考えていると、装着していた『死損騎士の鎧』がぼろぼろと外れていく。

 そして、みるみる黒いモヤになったかと思えば『アイギス』に吸い込まれていった。

 胸板の部分に怪しげな黒薔薇の模様が浮かぶ。


 あ、これ選択の余地ないですやん。

 潰しに来てますやん。


「…………まじかあ」


 物は試しと着用してみた。

 驚くほど身体にフィットしたし、あらゆる感覚が研ぎ澄まされているのが分かる。

 性能はいい。カースドアイテムだから、ある程度の血を与えれば修復できる点も素晴らしい。

 ただ、七色に光り輝くのは……ちょっと、私の年齢的にあれなんじゃないかと思うわけですよ。


 魔力の流れを調節すれば、光の強弱やパターンを変えられるという謎機能を駆使してうっすらと光る程度に抑えた。


 項垂れながら更衣室を出る。

 わっと仲間たちが取り囲んできた。


「色んな色に光るのカッコいい……!」


 感性が中学生なヴォルン。

 それに同調するセレガイオン。


 ウケている。

 このド派手な鎧が、光るという理由だけでウケている。


「にゃ、マニアに売れそう」

「これはなんとも……独創的な鎧ですね。憧れてしまいます」


 憧れるんだ、この鎧に……。

 さっぱり理解できないな。

 男の子だから? それとも外側(アウター)の価値観?


「よく似合っているぞ、ユアサ」


 上機嫌に笑うエルドラ。

 褒められてもなんだか複雑な気持ちになるばかりだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] スゴイヨロイ。 七色に輝くとこアニメで見てみたいですねぇ。
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