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女冒険者は絶対に引退したい〜Sランクパーティーから追放されたので、これはもう引退するしかないと思います。引き留めないでください!〜  作者: 清水薬子
死に損ないたちのリベンジ

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第二話 金が要るから仕事しよう


 如月市の駅前には沢山のお店が集まっている。

 先導するエルドラに連れて来られた先は、こじゃれた喫茶店だった。


「ーーそれで、未来の俺はユアサに神格を得ないかと持ちかけたわけか」


 エルドラが来る数分前の出来事について説明を終えると、彼は確認を取るかのようにざっと概要を纏めた。


「ますます怪しいな。ユアサ、もちろん断ったに決まってるだろ」

「返事する前にどっか行っちゃった」

「次会った時はちゃんと断っておけ。恐らくそれは俺であって俺でない存在だ」


 コップにさしたストローからアイスティーを飲み、しばらく考えたがやっぱりエルドラの言うことが理解できずに首を傾げる。


「神格を得て、目的のために何度も時間跳躍をしたことで感覚がズレているのだろう。よくある話だ。俺によく似た別の何かだと思え」

「言われてみればたしかに雰囲気が違ってた」

「神格を得ても碌なことはない。ましてや短命な人間では、終わりのない生命など確実に持て余す。身の丈に合った人生を送る方がいいに決まっている」


 『終わりのない生命』

 さっぱり想像もつかない世界の話だ。

 今の華菜ならエルドラの話が分かるだろうか。


「ふん、もう一人の俺についてはこれでいいとして、相談とはなんだ?」

「その……前に話した聖女ダージリアのことなんだけどさ」


 エルドラは怪訝そうな表情を浮かべて腕を組む。


「それがどうした?」

「どうやら聖女ダージリアは私の友達の畑中華菜みたいなんだ」

「……それは確かか?」

「確証はないけど、多分そうだと思う」


 エルドラは眉間をぐにぐにと揉み始めた。

 それから「なるほど、これが目的か」とかぶつぶつと呟く。


「……まず、並行世界へ移動するには時間跳躍と同様に莫大な魔力が必要となる。神格を伴った存在ともなれば、必要な魔力はさらに増える。現実的ではない」

「うっ」

「よしんば、この世界へ連れて来られたとしても、その在り様は人間から逸脱しているだろう。いくら外側(アウター)に寛容な社会だとしても、受け入れられるかどうか」


 今度は私が呻き声をあげる番だった。

 連れて帰ることを目標に掲げたが、エルドラの言う通り今の華菜をここへ連れて来たとして、聖女の力を目当てにした連中に目をつけられてしまうかもしれない。


「華菜が聖女になる前なら、どうかなあ?」

「それならば、まあ二年分の秘宝に匹敵する魔力でどうにかできるだろうな」

「ということは、エルドラぐらいの魔力を持つ人が三人ほど必要なのかあ」


 ざっと計算して、私もエルドラに倣って腕を組む。

 現実的な数字ではあるが、それを集めるまでにいったいいくらほどの金が必要になるやら。


「秘宝を買い漁って、そこから魔力を補填するとして……問題はお金か」


 さすがに私がこれまで溜め込んだ金を使ったとしても足りない。

 ここは本腰を入れて仕事をするしかなさそうだ。

 この私が仕事に対して前向きになる日が来るなんて、母さんが知ればきっと両手をあげてバンザイしただろう。


「残り二竜の討伐を果たせば、むしろお釣りが来るほどの金が手に入るぞ」


 エルドラの言葉に私は呻き声を発するのを止めた。

 確かに二竜討伐の賞金額は小国の国家予算に匹敵するほどになる。


月虹竜(げっこうりゅう)『ブルードラゴン』と黄昏霓竜(こうこんげいりゅう)『イエロードラゴン』……ブルードラゴンは北極、イエロードラゴンは南極大陸に生息していたよね」


 お金の問題が解決したと思ったら、また別の問題が出てきた。


 レッドドラゴンとグリーンドラゴンは広い範囲を放浪していたのでなんとか討伐ができたけれど、ただこの二竜は生息している地域が問題。

 北極は絶滅危惧種に指定されたホッキョクグマや生態系の保護に勤しむ環境団体が、南極は領土拡大を目論む周辺国家が睨みを効かせている。

 迂闊に手を出せば、あらゆる方面から色んな意味で袋叩きに遭うだろう。


「うえええ、討伐するまでに何年かかることやら……」

「ふん、ニュースを見ていないのか? しっかり目を通しておけ」


 エルドラがぴかぴかのスマホを取り出して見せたニュース記事には、北極に生息している月虹竜による貨物船への襲撃と周辺環境への汚染の被害が記されている。

 被害を受けたロシア連邦大統領が討伐に向けて軍を動かすと宣言しているが、今回も徒労に終わる可能性が高いと報じられていた。

 北極を挟んで向かいのアメリカ合衆国やカナダが軍の派遣に黙ってはいないだろう。


「政府は動けずとも、一個人であればあらゆる監視をすり抜けて討伐できる。冒険者ギルドを通せば申請は簡単になるぞ」

「うむむむ……乗せられた感があるけど、背に腹は変えられぬ……!」

「ふん、決まりだな」


 エルドラは懐から手帳を取り出す。

 ぺらぺらとページを捲り、内容に目を通した。


「浅田たちは長期間、別の迷宮探索に向かっている。代わりに『悪霊の主』を連れていけばいい」

「それなら火力は解決するね」

「ああ、アイツらにも使い道はある。有効に使わなくては」


 エルドラはテーブルの上に置いていたスマホを取り出し、どこかへ電話をかける。

 誰かが通話に出るなり、喫茶店の名前だけ告げて切ってしまった。

 鬼のようにエルドラのスマホが震えるが、彼はにこやかに笑みを浮かべる。

 何故かいきなり機嫌がよくなった。


「あと十分でこちらに向かうように呼んでおいた。アイツらには素顔を見せたんだろう? 呼んでも問題はないな」

「……? うんうん、そうだね」

「それまで俺たちはここで仲良く待とう。気長にな」


 ロドモスから『ハイエルフの奴は話にならん。喫茶店の住所を教えてくれ』というメッセージが飛んできたので、私はエルドラにバレないようにテーブルで隠しながらそっと住所を教えてあげた。




◇ ◆ ◇ ◆




 外側(アウター)にルーツを持つ人々はとにかく図体に恵まれている。

 ハイエルフのエルドラを筆頭に、ヴォルンやセレガイオンは欧米の成人男性より頭一つ分ほど背が高い。


 そんなデカい連中たちと喫茶店のテーブルを囲むとどうなるか。

 答えは『狭い』の一言に尽きる。

 席に座るまで揉めたので文句は言わない。


「次は北極に住む月虹竜を討伐するよ」


 隣に座るエルドラと向かいにいるセレガイオンが喧嘩を始めそうだったので、それより早く私は本題を切り出した。


「なんとなくそんな気はしていました。ユアサさんといると実入りのいい仕事が出来るので、本当に感謝しかないです」

「おう、ありがとなユアサ! ……イデッ」


 がん、とテーブルの下から何かを蹴る音が響いた。

 多分、エルドラの隣に座るロドモスが斜め向かいのセレガイオンの脛を蹴ったのだろう。

 足が長いなあ……。


「ブルードラゴンの討伐となれば、寒冷地での戦闘を見越した装備が必要になりますね。アンデッドに分類される私や耐性のあるヴォルンはこのままでも平気ですが、セレガイオンやお二方はどうしましょうか」

「鎧の下に着るとなると薄いものがいいなあ……」


 私はスマホを起動して、保温性能の高さを謳う商品を閲覧する。

 『死損騎士の鎧』は防御力に優れているが、他の装備のような優れた付属効果はない。

 予備の鎧も購入したが、あれではドラゴンの攻撃に耐えられないだろう。


 どれ、試しにブルードラゴンのステータスと照らし合わせてみよう。

 へい、並列思考!!


〈一撃で粉砕されるよ〉

 デスヨネー!


「そろそろ、ちゃんとした防具を買わなきゃいけないかな……」


 ぽつりと呟いた瞬間。


「青! 青にしよう、ユアサ。新しい装備は絶対に青系統がいい。ユアサは青が絶対に似合う!」


 ヴォルンが興奮した様子で半分ほどテーブルに身を乗り出しながらそう言った。


「いや、赤だろ。紅一点、赤は勝利の象徴! 俺たちの雇い主かつリーダーは赤がいい!」


 セレガイオンが真っ向から反論。


「……オリハルコンの深緑色とかどうでしょう?」


 ロドモスが意外にも議論に加わり、


「金色以外ありえないな」


 エルドラの成金みたいな意見が飛び出した。

 真っ向から意見が対立したそれぞれは、みるみる表情を険しくする。


「いやいや、青だって。クールな奴は青が鉄則。この前、アサヌマが言ってた」

「勝利の赤」

「いやいや、緑色が……」

「ユアサは金色を着たがっている、そうだよな?」


 別に何色でもいいんだけどなあ。

 そもそも、ドラゴンの攻撃に耐えられるような防具ならオーダーメイドになる。

 職人選びから始めないと。

 ドワーフは何かとこだわりが強くて、依頼を引き受けてくれるかどうか審査しないといけないんだよなあ。


「まあ、私の防具は置いておいて。今回も前回と同じ依頼料でいいかな?」

「ええ、ええ。もちろん。こんなこともあろうかと、契約書を持って参りました」


 ロドモスが鞄から書類を取り出す。

 中身に問題がないことを確認してから、署名してハンコを押した。

 なお、異世界にもハンコはないらしくロドモスは『不便ですねえ』と愚痴をこぼしていた。


「これでよし、と。あ、こちらは控えです」

「ありがとう。今回もよろしくね」


 控えをインベントリの魔法を封じ込めた腕輪にしまっていると、エルドラがむすっとした表情で腕を組んだ。


「雇ったからには仕事はきっちりこなせ」

「ハッ、言ってろハイエルフ。前回の仕事で一番役に立っていたのは俺たちだ」

「仲間の功績をさも自分の手柄のように語る姿は滑稽だな」

「誤射する奴には言われたくないね」


 仕事を始める前から火花を散らすエルドラとセレガイオン。

 これは最近になって知ったことなのだけど、尊種(ハイエルフ)灰精霊人(アッシュ・ワン)は長い歴史の中で大陸間の魔法戦争を繰り広げていたらしい。

 実質的に寿命がないハイエルフと、記憶を維持したまま輪廻転生ができるアッシュワン。

 時ですら癒せない戦争の怨みが尾を引いているのだ。


 まあ、二人はなんだかんだ言って仲は悪いけれど妥協が必要な場面では折れてくれるので多分きっと大丈夫だろう。

 もしダメだったら、どちらかを北極の海に沈めるしかない。


「さて、契約も交わしたことですし、北極へ向かう準備を整えましょう。煩雑な手続きはふんぞり返っているハイエルフさんに任せて、私たちは職人でも探しましょうね」


 フードの奥で満面の笑みを浮かべ、爽やかにエルドラに仕事を押し付けようとするロドモス。

 すぐさまエルドラが彼に噛み付いた。


「おい、俺にばかり書類仕事を押し付けるな! 貴様らもやれ!!」


 いつも報告や資料作成をお願いしていた私は心の中でエルドラに謝る。

 だって、彼の字は綺麗なんだもん。

 おまけに作業に手慣れているから早いし、ミスもないし……。

 いや、甘えてばかりいるのもだめだな。

 今回は私もちゃんと手続きを手伝おう。

 さすがに相談に乗ってもらっている上に、ロドモスたちとの契約書類も彼に作ってもらって何もしないわけにはいかない。


「こりゃ話題になるぜ。……金色は論外。これだけは譲れねえな」

「腕の良い職人なら俺が知ってる。早く行こう、ユアサ」


 ヴォルンとセレガイオンは押し付ける気満々だった。

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