第三十話 打ち上げ
熱界渦雷竜『グリーンドラゴン』の討伐は、先の紅晶竜『レッドドラゴン』の討伐からそれほど間を開けていないこともあって有名となった。
さらに討伐を成し遂げたメンバーたちは、何かと悪名高い『悪霊の主』、数少ないハイエルフが所属する『聖炎の盾』、新進気鋭の『堅実な一手』で構成されていることも助長して、テレビでもたびたび耳にする。
相変わらず吟遊詩人のナージャはその場にいたかのような巧妙な演出を取り入れながら歌を作り上げ、英雄譚も恥じらう種族を超えた友情と大義を胸に討伐に向かう感動的なシーンが加えられている。
「今日はユアサの奢りだぞ、どんちゃん飲め!」
「セレガイオン、どうしてお前はジュースで酔えるんだ……はあ……」
打ち上げで盛り上がるなか、私の脳内を占めていたのは聖女ダージリアのことだ。
聖女ダージリアの正体は、数年前に失踪した私の友人『畑中華菜』で間違いない。
最後に出会ってから随分と大人びた声になっていて気づかなかったが、この前の邂逅で確信した。
助けるにはどうしたらいいだろうか。
並行世界に自力で向かい、彼女を連れて戻る。
言葉にするのは簡単だが、実際はかなり難しかった。
あれから何度か試してみたが、一向にあの世界に行ける手がかりはなく、ざっと魔法を探してみたが並行世界を自由に行き来できる魔法は禁呪に指定されていることが分かった。
誰かに相談したいところだけど、今盛り上がっているところに水を差すのも躊躇われるし、彼らにとっては関係ないことに巻き込むのも……。
そうやってうだうだと悩んでいると、隣に座っていたエルドラがこそっと話しかけてきた。
「……どうした、ユアサ。さっきから妙に落ち込んでいるが、体調でも悪いのか?」
打ち上げに選んだ店は食べ放題の焼肉屋さんだ。
仕切りたがりのエルドラはカチカチとトングを鳴らしながら、次から次に運ばれて来た肉や野菜を焼いていく。
その最中に私の異変に気づく洞察力と観察力にちょっとドン引きしながら、首を横に振った。
「そうか。ほれ、肉が焼けたぞ」
ぽいぽいとこんがり焼けたカルビやロースやタンが小皿に盛られていく。
エルドラは焼肉奉行の才能を発揮しながら「客に自ら肉を焼かせるとはいかにも庶民な店だな」と失礼なことをボソボソ呟いている。
なお、彼は着席してから今に至るまでずっとトングを手放さない。
「おい、ダークエルフ。肉が焼けたぞ、さっさと皿を開けろ」
「さっき盛ったばっかじゃ」
「うるさいぞ、口は閉じて噛め。まったくはしたない」
どう見てもお肉を焼くことに楽しさを見出している。
食べることより、焼いてばかりいるよこの人。
「高貴な血筋を引くこの俺が手ずから焼いてやってるんだ。平伏して感謝しろ」
「エルドラさん自らお肉を焼いてくださるなんて……心なしか魔力が満ちているような……」
「それは気のせいだぞ、チダ。プラシーボ効果というやつだ」
頬を引き攣らせながら智田に突っ込みを入れるエルドラ。
彼のこんな顔を見るのは初めてかもしれない。
もっとも、そんな顔をさせた当の本人はお肉に夢中になっているが。
「もろこし、うまい」
「バター醤油にするともっと美味いぜ」
「…………っ、罪の味!!」
浅沼とヴォルンはとうもろこしで盛り上がっている。
『美味い食べ方を探しにいく』とだけ言い残して二人はそそくさと調味料コーナーへ姿を消した。
「俺もハツ食ったら強くなれっかな」
「おう。腹を下さないようにしっかり火を通しつつ、強くなることを胸に誓いながら食え」
「それが強さの秘訣……!?」
「強さとはあまり関係はないぞ」
「えっ……?」
なにやらお肉の部位で盛り上がるセレガイオンと坂東。
それぞれ好きなように打ち上げをエンジョイしていた。
焼肉を“捕食”してお肉を食べる。
うん、美味い。タレと脂のコンビネーションは悪魔的ですな。白米が進みまくる。
悩んでいても箸は止まらない。
明日辺り、エルドラに相談でもしてみようかな。
とにかく今日は、グリーンドラゴンを討伐できた打ち上げの雰囲気を壊したくはない。
「エルドラ、俺のもろこし焼いて」
「むっ!? 今は網に空き場所がないから、五分ほど待て」
「分かった」
なんだかんだで種族関係なくわいわいとはしゃぐ仲間たちを見ながら、私は会計について思いを馳せ……カードで支払うことに決めた。
これにて第三章完結です。
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