表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女冒険者は絶対に引退したい〜Sランクパーティーから追放されたので、これはもう引退するしかないと思います。引き留めないでください!〜  作者: 清水薬子
【熱界渦雷グリーンドラゴンを討伐せよ(ただし手段は問わない)】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/93

第二十九話 邂逅と再会


『塵になりやがれえっ!!』


 迸る青白い電流。

 金属類に反応して角度を変えるはずのそれは、見当違いの方向へ駆け抜けていく。


「電気避けの魔法はバッチリ効いてるな!」


 浅沼がスキル『身体強化』を使いながらドラゴンの下に潜り込んで足を斬りつける。

 追撃する電撃を振り切る速度で放たれた剣筋は、硬い鱗を引き裂いて血を洞窟に撒き散らした。


 洞窟の番人であった溶岩蜘蛛は既に討伐され、その配下であった子蜘蛛たちが電撃を浴びて黒い煙をあげる。


「柔いな、とにかく鱗が柔い! この調子ならば、三十分と掛からずに討伐できそうだ!!」

「図に乗るな、セレガイオン! お前はいつも調子に乗ってポカをやらかす!」


 ロドモスが叫ぶやいなや、セレガイオン目掛けてドラゴンがブレスを放つ。

 電流を纏った魔力の塊だ。

 そのブレスは、セレガイオンが避ける必要もなく逸れて私の方へ向かう。


 電撃を使う魔物は少なく、耐性スキルを取得する機会がなかった。

 それでも生命力(HP)は危惧していたよりも多く残った。

 【魔耐(MGD)】の値が高くなったおかげだ。


「さすがはユアサ、防御力がイカれてんな!!」


 セレガイオンが手を叩いてはしゃぐ。

 そんなことより攻撃に専念して欲しいんですけど。

 と思っていたらヴォルンが「攻撃に専念しろ!」と代わりに叫んでくれた。


『ムカつく、ムカつく、ムカつくぅっ!!』


 迷宮内ということで天候魔法などの攻撃手段を封じられたドラゴンは、とにかくブレスを撒き散らしながら私たちを攻撃する。

 それを盾で受け流して、押さえ込んで、行動を封じる。


 なんというか、本当にこれがグリーンドラゴンなんだろうか。

 そう疑ってしまうほど……弱い。


「撃つぞーー『獄焔(ヘルフレイム)』」


 エルドラの放った魔法がドラゴンの鱗を燃やす。

 それに対抗して雨雲を呼び出し、火を消そうとするが上手く行かず。

 炎の対処に手間取っている間に浅沼たちが斬り込んで高火力の一撃を放ち、ドラゴンの生命力(HP)を削っていく。


『この、小煩い蠅どもがっ! ボクはこの星を統べる偉大なドラゴンなんだぞ!!』

「それは大言壮語が過ぎるぞ」


 返す手でドラゴンの爪を切り落とした浅沼がピシャリと言い放つ。


 星を統べるとは、これまたビッグマウスというか、大きく打って出たと私も思う。

 水没しかけている国から討伐依頼を出されていたほど、扱いはどちらかと言えば『害獣』だ。


「たしかに。統治者ならそれらしい振る舞いをしろって話だ。無闇矢鱈に台風を生み出してはあちこちにばら撒いて……どうせなら現金が良かったな」

「坂東、だから金をばら撒くのはデフレを加速させるとこの前から言ってるだろ!」


 智田が今は亡き眼鏡をグイグイ押しながら魔法を放つ。

 氷の槍がドラゴンの身体を凍りつかせた。


『ふざけーー』


 叫ぼうとしたドラゴンの言葉がぶつりと途切れる。


【レベルアップしました】


 スキル『切断』を伴った一撃が、あっさりとドラゴンの首を斬り落とした。

 剣を振り抜いたヴォルンが右手に視線を落とす。


「まさか、一撃で斬り落とせるとは……えっ、よっわ……」


 ヴォルンが驚くのも無理はない。

 というか、私自身も半信半疑だった。


 紅晶竜『レッドドラゴン』が何度も戦いを挑み、負けた相手。

 精鋭の軍事国家でさえ、迎撃することもできず蹂躙を許すことになってしまった強大なドラゴン。

 これまで一年近く、その悪名を地球に轟かした魔物。


 それが、こうもあっさりと私たちに負けるなんて。


「…………なんか、俺たち勝ったみたいだな」


 浅沼が釈然としない顔で結論を出した。

 私たちは顔を見合わせ、なんだか素直に喜べない気持ちのまま勝利を受け入れる。

 エルドラだけは行動が早く、すぐさま次の指示を出した。


「おい、バントウ。ネコを呼んでこい」

「了解です!」


 坂東がそそくさと番人の間から外に通じる扉を開けてフールを呼びにいく。

 もう『ネコ』だけで誰を指しているのか理解できてしまっているのがなんとも悲しい。


「ふん、俺たちの敵ではなかったな。『獄焔(ヘルフレイム)』を使うまでもなかったか」


 いそいそと心臓の切り分けを始めているセレガイオンを遠巻きに見つめながら、私の隣に立っていたエルドラが肩を竦めて呟く。

 そして、手に持っていた飛膜の一部を私に渡してきた。


「あのドラゴンの立案した作戦のおかげでここまで有利な状況で戦えた。ひとまず契約は果たしておくべきだろう」


 私は頷いて、受け取った飛膜を『捕食』スキルを使って体内に取り込んだ。




◇ ◆ ◇ ◆



 分厚い雲に赤茶けた大地。

 太陽はなく、息も詰まるような大気が漂っている。


『ここには何もない。砂漠を指して不毛の大地と鱗の無い者は言うが、この場所こそそう言うべきだとは思わないか?』


 赤い鱗に血のような赤い瞳に似た鉱石を持つ竜が私に問いかける。


「……そうだね。もう既に終わってしまった、外側(アウター)の並行世界。本当に、何もない」


 何故、私がここにいるのか。

 多分だけど、レッドドラゴンが私を呼んだのだ。

 意識すれば、向こう側にある私の身体を動かすことができる。


『普通の人間ならば、発狂しかねないのだが……やはり、上位者の影響を色濃く受けているな。それも、お前だけを狙った妄執と言えるほどの』

「やっぱりそう思う? ただ、聖女ダージリアとそんな繋がりはないはずなんだけどなあ……」

『聖女ダージリア。天上(アルカディア)より来訪した救世の乙女。その話ならば聞いたことがある』


 レッドドラゴンは牙を剥き出しにして笑った。


『我らが驕れる竜の神、ガルグレイユ様に命じられて調査したことがある』


 竜という魔物を生み出した神、ガルグレイユ。

 どのような教義だったのかすら歴史に葬られた古の神だ。

 【叡智神】によって次元の彼方に封じられたというが、何故その神が聖女ダージリアを調べたのか。


『異界より現れ、貴賤問わず救いの手を差し伸べた巫女。グレニア法国が召喚に関わったところまで突き止めたが、我らが神はそれ以上を知りたがらなかった』

「それはどうして?」

『神の思考はたとえ同じ神であっても理解することはできない。ただ、我らが神は一言だけ申された。“地球(テラ)から迷い込んだのか”とーー』

「聖女ダージリアは地球から来た、と?」


 レッドドラゴンは翼を大きく動かす。


『“貴賤問わず助け”、“異なる世界から召喚された”。可能性はゼロではあるまい』


 それ以上を問いかけようとしたところで、聞き覚えのある声が空から響いた。


『このドグサレ敗北者ァッ!!』


 雷雲を纏いながら、グリーンドラゴンが突っ込む。

 二竜は激しく争いながら地面を転がり、血で地面を汚していく。


『久しいな、緑の倅! どうだ、碌に実力も発揮できぬまま殺され、「弱い」と嘲られる屈辱は!?』

『テメェッ、このクソ蜥蜴!! よくも、よくもこのボクをっ! ここまでコケに……っ!』

『まだ逆鱗も生えていないヒヨコに靡くメスなどいるはずもないだろうに。よほどメスにコンプレックスがあったようだなぁっ!?』


 ……たしかに遠目から見れば、車体と竜の鱗の質感は似ているかもしれない。

 なるほど、匂いと魔力で誘き寄せ、メスと見間違えるような車体を置いて迷宮近くまで誘導させるという計画は上手く行ったのか。


 道理で『爆薬を仕込んで爆発させたら?』と提案したら皆がこぞって反対するわけだ。

 周辺建物が被害に遭うかもしれないから却下されたんだけど、その時の皆のリアクションが変だったのはこれが理由だったのね。

 その時、ふと視線を感じた。


「ん?」


 その方角に視線を向ける。

 地平線の彼方に、白い聖女服を着たダージリアが立っていた。

 相変わらず顔すら分厚い布で隠されているが、その身に纏う雰囲気と神格は間違えようもない。


「やあ、久しぶり」


 私が片手を挙げてそう言うと、彼女はぱたぱたと駆け寄ってきた。

 長い布を捲し上げ、転びそうになりながら。


「奏、奏! どうやってここに? 気配を感じて、慌てて来たのだけど……」


 激しく争う二竜を親指で示すと、彼女は微かに怒る気配を見せた。


「これだからドラゴンは野蛮でしょうがないわ。奏の魂をここに引っ張ってくるなんて、もし万が一にでも何かあったら許さないんだから!!」

「まあまあ、実際は何ともないんだし……」

「奏はいっつもそう! 自分のことなんだから、もっと怒りなさい!!」


 高校時代、よく私は友人に怒られていた。

 もっとしゃんとしなさい、とか、もっと悪口を言っていた相手に怒りなさい、とか。

 全部が全部、私の為に言っていた言葉だった。

 ある日、突然に消えてしまうまで、私たちは友人と言える間柄だったと思う。


「……そこにいたんだね、華菜(かな)


 聖女ダージリアから戸惑う気配がした。

 どうして彼女が聖女として召喚されたのかは分からない。

 それでも関係ない。

 こんな何もない場所に友人を置いていけるはずがない。


「違うわ、私は……何も、救えなくて……」

「帰ろう。君の母さんが待ってるよ」

「帰る? 帰りたい、帰りたいけど、帰れないの。私は、還ってはいけないの」

「華菜、帰るんだ。絶対に。ここは君がいるべき場所じゃない!!」


 私は彼女に手を伸ばしたーー



◇ ◆ ◇ ◆



 バシン、と背中を叩かれる感触がしてハッと我に帰る。


「スゲェよな、ユアサ! はははっ、俺たちのパーティーに入れ!!」

「馬鹿セレガイオン、お前ほんとに馬鹿ッ!! すみません、ユアサさん。本当にすみませんっ!!」


 私は手を振ってなんともないと答える。

 どうやらあの並行世界への接続を強制的に解除されてしまったらしい。


「打ち上げの店まで予約してくれたなんて、俺たちの雇い主は本当に最高だな! チューしてやろうか?」

「ばっか、お前本当にバカッ、頼むからやめ……違う、俺にやるな気色悪い!!」


 聖女ダージリアはここにいない。

 いや、聖女じゃなくて華菜だ。

 この手からすり抜けてしまった。


「………………っ」


 叫び出したいのをグッと堪える。


 行方不明になっていると聞いていたが、まさか並行世界に聖女として召喚されていたとは思わなかった。

 どこかで平和に暮らしていたら、とそう願っていたのに。


 やらなきゃいけないことが増えたな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ