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女冒険者は絶対に引退したい〜Sランクパーティーから追放されたので、これはもう引退するしかないと思います。引き留めないでください!〜  作者: 清水薬子
【熱界渦雷グリーンドラゴンを討伐せよ(ただし手段は問わない)】

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第二十五話 三つ巴のパーティー⑥


 転移罠で分断されたが、無事に合流を果たした私たち。

 第五層まで魔物を倒しながら進んでいた。


「今日はここで一泊するか。おい、お前ら周辺の魔物を倒してこい」


 荷物を下ろすエルドラ。

 夕飯の支度を始めるフールに、それを手伝う浅沼たち。

 その光景を見て、他にやることがなさそうだと判断した私は『悪霊の主』を引き連れて見回りをしてくることにした。

 何故かエルドラが「いや、ユアサが行く必要はないんだが……」と困惑していたが、暇だし彼らに聞きたいこともあったので押し切った。


 地図を片手に迷宮の通路を歩く。

 少し離れたところで彼らにどんな感じかを問いかけてみた。


「(初日はどんな感じだった? 今後やっていけそう?)」


 そう問いかけると、セレガイオンはケラケラ笑う。


「おう。あの坂東とかいう餓鬼はいいな。話していて気持ちがいいぜ」


 坂東と仲良くなったセレガイオンの反応は、思っていたものよりも良い。

 どうやら坂東を相当に気に入ったらしい。


「あのハイエルフとネコはムカつきますけど、他三人は気になりませんね」


 ロドモスはエルドラとフールに難色を示したが、浅沼たちに対して好感も嫌悪感も抱いていない様子。


「アサヌマが変になったが、まあいきなり殴ってこないからいいかなって」


 ヴォルンは浅沼を警戒しているが、それだけのようだ。


「(そうか。それはよかった)」


 物陰から飛び出した魔物を盾で壁に叩きつける。

 第四層を越えた辺りから奇襲に特化したスキルを持つアンデッドの魔物が増えた。

 『挑発』のスキルが通用するので、その大体の奇襲は失敗している。


 転移罠といい、知性のあるアンデッドといい、もし相性が悪いパーティーがこの迷宮に挑んでいたら全滅することもありえるかもしれない。

 『ターン・アンデッド』を使える智田がいなかったら私たちも危うい場面はあったけれど。


「よっと!」


 セレガイオンが剣を振るい、集団で襲ってきた魔物の最後の一匹が倒れる。


「ユアサがいるっていうだけで装備の持ちが変わるな」


 セレガイオンは直剣の血を『クリエイト・ウォーター』で濯ぎ、刃に欠けがないことを確認している。

 前に持っていた武器の刃こぼれが酷かったので、安物ではあるが金を渡して取り替えさせたのだ。

 ロドモスやヴォルンも同様に防具を新調させた。


「(それは良かった)」


 お仕事とはいえ、なるべくならいい雰囲気で過ごしたい。


 問題のネックになるのは……エルドラとフールか?

 フールは先輩風を吹かしたい種族だから、時間経過と共に折り合いがつく。


 だが、エルドラは…………

 300年単位で染み付いた性格だ。

 私の一言で変わるとは思えない。

 うむむむ、どうしたものか。


 見回りを終え、周辺に魔物がいないことを確認した私たちはテントの設営に取り掛かっていたエルドラたちのところへ戻る。

 焚き火ではなくガスコンロを使いながら、用意された夕食の良い匂いがふんわり漂ってくる。

 今日はシチューを作ったらしい。


「戻ったか、ユアサ。ほら、飯が冷える前に食え」


 エルドラがバシバシと隣に設置した椅子を叩きながら私を呼ぶ。

 お腹が空いていたのでフールからシチューを貰ってエルドラの隣に座る。

 『悪霊の主』たちもそれぞれ好きな椅子に座ってシチューを食べ始めた。


 私は迷った末に兜を脱ぐ面倒さに心が折れて『捕食』スキルで平らげることにした。

 そんな面倒がる私をエルドラは椅子に座りながら見ている。


「(どうしたの?)」

「いや……つくづく地球の人間とは面白いと思っただけだ」


 エルドラは『悪霊の主』をチラリと一瞥する。

 過去の戦績で盛り上がる坂東とセレガイオン、チラチラと浅沼に視線を投げられて居心地が悪そうなヴォルンがいた。

 智田はロドモスに鼻息荒く詰め寄っていた。ロドモスはにこやかな笑みを浮かべて応対している。


「魔族と聞けば、誰もが怯えて距離を取る。そう思っていたが、土地が変われば考え方も変わる……アイツらにとって元の世界に戻るより、ここで骨を埋めた方が幸せになれるだろうな」

「(そんなに酷いの?)」

「グレニア法国なら匿った連中ごと処刑が当たり前だ」


 エルドラの答えを聞いて、私はたとえ外側(アウター)に行くことになっても絶対にグレニア法国にだけは近づかないことを決意した。

 処刑ってなんだそれ、怖いな。


「他の国でも魔族やそれに近しい外見を持つ者に対しての風当たりは強い。悪夢人(カシマール)ともなれば、幼児期に森の中に捨てられるか劣悪な孤児院に預けられて病死することが多い……その所以で犯罪組織に飲み込まれるのがほとんどだ」


 私たちの会話の内容など知らないヴォルンは、智田に話しかけられてぶっきらぼうに答えを返していた。


 『悪霊の主』の中で一番若いとは思っていたが、もしかしたら学校にも通ってないのかもしれない。

 そう思うと、こう心の中でぐるぐると悲しみが渦巻き始めてしまう。


 ふー、落ち着け私。

 ヴォルンにとって私は出会ったばかりの赤の他人であるからして、同情されたところで『なんだこのオバサン!?』と気持ち悪がられてしまう。


「それに、同種には心を開いても、他種族には心を開かない。ユアサ、一体なにをした?」

「(血をあげたり、魔物の素材をあげることを約束したりした程度だけど)」

「むむ……むむむっ、もしや血が好みだったか?」


 血をあげた時のことを思い出し、私は頷く。

 ロドモスはA型の血液が好きなようで(蚊かな?)特に健康に問題のない私の血が好きらしい。


「ということは……ははーん、なるほどなるほど」


 エルドラが椅子にもたれ掛かる。

 機嫌良く鼻歌を歌いながら食後の紅茶を楽しんでいた。


「あの吸血鬼、名前はロドモスといったか。なかなか“分かってる”じゃないか。まあ、俺は分かってたけど」

「…………?」


 ああ、なるほど。

 ロドモスは話が早いとか柔軟性があるって言いたいのかな。

 エルドラの皮肉とかフールの先輩風を軽く相手にしつつも受け流してるのはロドモスだもんね。

 セレガイオンだと応酬が始まっちゃうし、ヴォルンはガン無視するからヒートアップしかけちゃうし。


 なぁんだ、案外エルドラもロドモスのことを認めてるのね。

 私が特に何もしなくても、そこそこ打ち解け始めてるじゃん。

 心配して損した〜。


「うにゃ、そろそろ見張りの順番を決めて休むぞ。明日も明後日も迷宮探索だからな」


 食事を終えて、見張りの順番を決める。

 パーティーごとに三時間を目安にローテーションを組んで見張ることになった。

 まず『堅実な一手』が、次に『悪霊の主』、『聖炎の盾』の順に交代する。

 魔物除けの聖水を振り撒いたとはいえ、最低限の警戒を怠るわけにはいかない。


 テントの中に入って寝支度を整える。

 初日、三つ巴のパーティーで不安だったけどなんだかんだ順調に進んでいる。

 最奥の番人を倒して財宝を持ち帰れば、グリーンドラゴン討伐の準備は整う。

 このメンバーなら火力不足の心配はないし、誤射が発生してもどうにかなるし、もう最強だな。

 正式にパーティーを組んだらSランク判定をもらってしまうかもしれない。


 その日、私は見張りの交代で起こされるまでSランク認定されて胸を張るエルドラの夢を見たのだった。

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