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女冒険者は絶対に引退したい〜Sランクパーティーから追放されたので、これはもう引退するしかないと思います。引き留めないでください!〜  作者: 清水薬子
【熱界渦雷グリーンドラゴンを討伐せよ(ただし手段は問わない)】

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第二十三話 三つ巴のパーティー④


「そこに罠があるな」


 通路を歩いていたエルドラが顔を上げて、少し先を指さす。

 智田が少し離れた距離から魔法を当てると、がこんという罠が作動した音が響いて天井から床目掛けて十本の鉄槍が降り注いだ。

 穂先にはテラテラと毒が塗られている。


「毒の塗布は人為的だな。毒の注入装置もないし、ランタンバナとベラドンナの化合物『痺れ毒』は迷宮で生み出すにしても殺傷能力は低い」


 セレガイオンは穂先に塗られていた毒を指で掬う。

 彼の話によれば、必要な素材を煮詰めるだけで作れる簡単な毒で、狩りに使われるらしい。

 経口で摂取すれば体に害はない類だから、舐めても問題ないそうだ。

 なんだかミステリーにそういうトリックがあったような……。


「ここのアンデッドたちといい、毒のこれといい、やはり迷宮が変質しているな。これは良い戦いが期待できるぞ」


 布の下でニカッと彼は笑う。

 “勇気”や“勝利”を重んじる灰精霊人(アッシュ・ワン)にとってみれば、未知に満ち満ちた迷宮に巣食う魔物との戦いに胸を躍らせない理由はないのだろう。


「二つ先の小部屋、20メートル先にアンデッドの群れが五体。どうやらまだ俺たちに気づいていないようだ」


 ロドモスの報告にエルドラは素早く判断を下す。


「ならば奇襲して一気に畳みかける。智田、魔法の詠唱を始めておけ」

「はい。……ーー」


 杖を手に呟きながら魔力を練り始める智田。

 火力を突き詰めたエルドラと違い、その流れは本当にひっそりとしていて意識を集中させないと気がつかないほどだ。


 奇襲において、私の出番はあまりない。

 精々、初撃で漏らした魔物にタックルしつつ『挑発』を使うぐらいだ。


〈なかなか『恩恵強奪』を使う機会がありませんな〉


 並列思考が愚痴る。

 一部例外を除いて、支援魔法やスキルを使う魔物は限られてくる。

 使うとしても瞬間的なもので、『一日に一度しか使えない』貴重なスキルを切るほど効果があるわけでもない。

 ラストエリクサー(もったいない)症候群を患っている身としては、このまま使わないでずっと温存しておきたいところだけど。


 足音を忍ばせて、ロドモスが見つけたというアンデッドの群れに近づく。


「うぁー……」


 防具を纏い、武器を手に周辺を警戒しながら進む姿にやはり高い知性を感じる。

 呻き声しか発さず、交渉の素振りすら見せずにこちらを攻撃してくるところが薄気味悪い。


 外側(アウター)の六大神話によれば、アンデッドは【不滅神】の眷属。

 死を拒み、何回もリザレクトを続けたことで肉体が朽ち果てても冥府の門を潜れなくなるという。

 肉体があるうちはアンデッド、霊体になればゴーストと区別するらしい。


 生物を襲うのは悪意からではなく、その手で殺めた数だけレベルがあがり、さらには【不滅神】からの恩恵を賜るため。

 突き詰めれば、己の永遠を実現する目的のために他者を蔑ろにするという究極の独善。

 そんな印象を、私は聖騎士(パラディン)講習で抱いた。


 智田が詠唱を終え、魔法を発動させる。


「ーー『エクスプロージョン』」


 ほんの小さな火の粉。

 それが魔物たちの群れに辿り着くと、さながら空気が爆ぜたかのように大気を振動させる。

 耳鳴りが止まぬうちに前衛のセレガイオン、浅沼、坂東が踊り出て地面に転がる魔物にトドメをさす。


 この様子だと私の出番はなさそうだな、と思っていると地面を転がっていたアンデッドの一体があらぬ方向に発砲した。

 誰もいない空間に向けて発砲された弾丸が誰かを傷つけることなどあるはずもなく、迷宮の壁にぶつかって跳ねる。

 跳弾で誰かを狙ったのかと思えば、そんなこともなく。

 代わりに、がこんと罠が作動する音が響く。


「セレガイオン、罠を踏んだか?」

「いや、まだ踏んでないぜ」

「浅沼、俺なんか嫌な予感する」

「奇遇だな。俺も」


 不穏な異音に前衛組が顔をあげる。


 床や天井から槍が飛び出してくることはなかったが、幾何学的模様が至る所にいくつも浮かび上がる。

 見たことがない術式だったが、複雑怪奇なそれが善良な働きをするとは思えない……色が紫色だったので。


 輝きを増す術式に焦って駆け出そうとする私を、ロドモスが腕を掴んで引き止めた。


「落ち着け、あれは転移罠だ。下手に飛び込めば体が切断される」


 ロドモスがポケットから小石を取り出して小部屋に向かって放り投げる。

 小石が小部屋を仕切る線を超えた瞬間、ばちんと捻れて消失した。


「それにセレガイオンとヴォルンなら簡単な治癒魔法を扱えるから問題ない。同じ階層のどこかへ転移するだけだから、すぐに合流できる」

「そういうこった。俺がいない間、ロドモスちゃんを頼むぜ」

「“ちゃん”付けで呼ぶんじゃない!」


 そうして軽口を叩きながら、浅沼たちは転移した。

 どうやら転移罠の対象に魔物は選ばれなかったらしく、罠を起動させた魔物の頭部を踏み抜いてロドモスがトドメをさす。


「まったく、セレガイオンの奴め。雇い主の前でふざけるなとあれほど言ったのに!! 心証が悪くなったら色々と俺が困るんだぞ! 前回の時だって……」


 ロドモスはひとしきりもういなくなった人物に対して文句を言った後、咳払いをして私に向けて笑みを浮かべた。


「よし、あの馬鹿どもをさっさと回収しましょう」

「おいヴァンパイア、勝手に仕切るな」

「そうだ、そうだ! リーダーはハイエルフの旦那で、フールは先輩だぞ!」

「……浅沼たち、大丈夫かなあ」


 智田の呟きに私も内心では頷いた。

 個別に食料を持たせているとはいえ、大きな怪我をしたり、喧嘩したりしていないと良いんだけど……。

 うーん、不安だ。


「ふん、奴らの捜索がてら探索を続ける。せいぜい死体を見つけたら回収してやれ、ネコ」

「にゃあ」


 一抹の不安を抱えながら、私たちはひとまず仲間との合流を目指して探索を続行することになった。

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