第二十一話 三つ巴のパーティー②
9/29 20:00 ちょこっと文字を足しました
東京郊外の山の中、私たちは数本の電車を乗り継いでようやく目的地に到着した。
緑に生い茂る森のなかに隠され、ひっそりと洞窟が闇を携えながら口を開いている。
第二次世界大戦の最中に本土決戦を見据えて塹壕として運用されていたらしい。
森の中という立地も合わさって、事前情報もなしに見つけるのは困難だろう。
今回の迷宮探索は『聖炎の盾』『堅実な一手』そして『悪霊の主』の合同であたるわけだから、連携や情報のやり取りが最も重要になる。
大人数になったので、運送屋のフールは重要な荷物と魔物の素材回収だけを担当し、各々で細やかな道具を管理することになった。
「ランタンか懐中電灯を使うか?」
フールが荷物を漁りながらエルドラに問いかける。
エルドラはふるふると首を振って否定した。
「内部にはアンデッドやゴブリンなどが確認されている。全員が暗闇の中でも活動できるから、明かりは必要ない」
「りょうかい」
フールはランタンを鞄にしまう。
【深みの洞窟】は、かつて潜った常時暗闇の迷宮ほどではないが、光源に乏しい。
そんななかで明かりを灯せば、たちまち明かりに気づいて魔物が寄ってくる。
『暗視』スキルは冒険者として迷宮を探索するなら必須ともいえる。
松明や懐中電灯を持ったままではいざという時に武器を振るえない……かつて松明で魔王を討伐したというイカれた勇者がいたらしいが、私たちはしがない冒険者なので堅実でありたい。
武器を手に迷宮に入って五分。
すぐさま聴覚に優れているというロドモスが警告を発した。
「前方の曲がり角からアンデッド五体」
アンデッドということで、対処は神聖魔法を扱える智田に任された。
他は別の魔物が来るまで魔力を温存する。
そんな作戦だ。
そういえば、浅沼が妙に反対していたことが気になるけれど、その分の魔力ポーションで納得してもらったな。
「浄化せよ、我らの祈りを糧に【叡智神】の導きに従って星に還りたまえ」
智田が詠唱を終えて魔法を保留すると同時に、腐乱死体が曲がり角から現れた。
その瞬間、智田が神聖魔法『ターン・アンデッド』を放つ。
光に包まれた五体のアンデッドは、まるでその存在が始めからなかったかのように粒子となって消えていく。
カラン、コロンとアンデッドが身につけていた装備品が地面に落ちた。
回復系や支援系の効果が目立つ神聖魔法のなかで、アンデッドに対して特攻を持つ『ターン・アンデッド』を扱える者は少ない。
実は私も使えないのだ。
智田くん、すごい。
「うにゃ、『サイコキネシス』」
フールが片手を誘うように動かすと、地面を転がっていた品々がふわりと浮かんで手繰り寄せられるように彼の足元に集う。
【微睡神】の特殊神聖魔法である。
寝っ転がりながらでも修行を積めるためにとまず祈るより先にこの魔法を練習するらしい。
「防具の一種だな。軽いし丈夫だが、属性に対する防御力がない。売り一択」
『鑑定』スキルで目敏く売り物を選別するフール。
彼のもふもふ両手に握られたのは、迷彩柄のヘルメット。
日本兵は配置されなかったらしいが、迷宮になったことで発生したらしい。
それにしても、ぼろぼろ具合といい細やかなデザインといい、まるで映画の小道具のように忠実に再現されている。
「…………ッ!?」
ロドモスが顔をあげて洞窟の奥を睨む。
「おい、ハイエルフ」
「なんだ、ヴァンパイア」
ロドモスが初めてエルドラに話しかけた。
その表情はどこか切羽詰まっているようにも見える。
彼の緊張を感じ取ったのか、ヴォルンとセレガイオンが反応する様子を見せた。
「ここにいるのは本当に魔物なのか? 奥の方から会話が聞こえた」
「なに? 他の冒険者がいるとは聞いてなーー」
警笛が鋭く鳴り響く。
反響する洞窟のなかでは音の出所を判別するのは難しく。
「二十体のアンデッドがこちらに向かって走ってきている。俺たちが囮になれば撤退も可能だろうが、どうする?」
ロドモスが杖を構えながらエルドラに決断を迫る。
二十体。アンデッドなうえに群れともなればその討伐難易度は飛躍的に跳ね上がる。
壊滅を避けるために撤退を視野に入れるのも無理はない話だ。
エルドラの判断は早かった。
「外で迎え撃つよりも、ここで一網打尽にした方がいい。精々、俺の魔法に巻き込まれて無駄に命を散らさないようにしろ」
「はっ、言ってろ。撃ち漏らした暁には俺の魔法で仕留めてやる」
「「チッ……」」
お互いに舌打ちをするエルドラとロドモス。
敵意は魔物に向けて欲しいし、エルドラはもう誤射すること前提で話を進めている。
本来なら連戦は避けた方がいいのだけど、今回は状況が悪い。
私もここで倒した方がいいというエルドラの意見に賛成だ。
森の外には駅もあるし、これだけ知能の高い魔物を逃したとなれば、次は完全に備えてくる。
万全に対策を建てられた状態で勝てるとは思わない。
『敵は馬鹿のうちに殺せ』とは冒険者の鉄則だ。
九 対 二十。
“普通”に考えれば、数の差に絶望する状況だ。
そのことは重々承知しているけれど、生憎と一年近く冒険者として活動してきた経験がそれを許さない。
スキル、魔法、ステータス、レベル……
これらは数の差をいとも容易く覆す。
“絶対”という言葉が“絶対”にありえないように、いつだって逆転のチャンスはあるのだ。
やべ、なんか自分で考えておいて、だんだん恥ずかしくなってきた。
〈何やってんすか……〉
呆れる並列思考。
私は面頬の下で表情筋が引き攣るのを感じる。
もちろん、魔物が私の心情を汲み取ってくれるはずもなく。
曲がり角から続々と姿を現す魔物たちを前に、各々がスキルや魔法を発動させ、敵を迎え撃った。
段々と湯浅が変化していますね(ニッコリ)




