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女冒険者は絶対に引退したい〜Sランクパーティーから追放されたので、これはもう引退するしかないと思います。引き留めないでください!〜  作者: 清水薬子
【熱界渦雷グリーンドラゴンを討伐せよ(ただし手段は問わない)】

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第五話 ハードスケジュールな迷宮探索

誤字脱字報告・感想・読了ツイートありがとうございます。全部に目を通して、執筆活動の励みにしています。


「今回はメンバーが確保できなかった。よって俺たち二人でどうにかしないといけない」


 エルドラが開口一番、冒険者ギルドのホームでそんなことを宣った。

 私は深く息を吸い、吐いた。


「……言いたいことは分かる。だが、下手にレベルの低い冒険者を連れて行っても、無駄な犠牲と費用に頭を悩まされるだけだ」



 冒険者ギルドには、それこそ多くの冒険者が所属している。

 一年前は外側(アウター)の連中が多かったが、空前の冒険者ブームで地球人の冒険者も増えつつある。増えつつあるが、遠藤や浅沼たちのようなガッツのある冒険者はいない。


『魔法を練習するついでに、迷宮(ダンジョン)に行こうかな』

『お小遣い稼ぐついでに、素材を集めようかな』


 そんなふわふわ動機でランクの低い迷宮(ダンジョン)に行くような連中しかいないので、いざドラゴン討伐するとなると立候補する冒険者が少ないのだ。


 みんな素材を集めて売るだけでお金になるからってモチベーションが低すぎる。

 もっと志を高く持って野心的に活動してほしいものだ。私が引退して快適なヒキニートライフを送るためにも。



「(しかたないね。他にも迷宮(ダンジョン)はできたというし、そこに人員が割かれているのかも)」

「活性化したという話もあるからな。そこの魔物の対処に追われているんだろう」


 迷宮(ダンジョン)は魔物の間引きを疎かにすると外へ溢れ出す。

 その魔物たちは周囲の生態系を脅かし、破壊し、時には乗っ取って群れを形成する。

 そしてある一定の数に到達すると、新天地を目指して移動――大暴走(スタンピート)を引き起こすのだ。

 道中に町があろうとお構いなしに破壊しながら進むので、放置すれば被害が出ることは確実。


 冒険者ギルドがなるべく冒険者を斡旋してそうならないように手配しているけれど、それだけでは手が回らないほど迷宮(ダンジョン)は増える一方だ。

 迷宮(ダンジョン)自体にも人気や不人気があるから仕方がない。


 今回はエルドラと二人でどうにかしないといけないようだ。


「ひとまず、新しくできたという迷宮(ダンジョン)を攻略しつつユアサのレベルをあげる。事前調査も兼ねて富士山に行くぞ」





 ということでやって来たのは富士山スバルライン五合目。

 富士駅から一時間ほどバスに乗って山頂まで近づける限界高度だ。


 外国からやってきた観光客だけでなく、外側(アウター)から日本を訪れた人々でも賑わっている。

 真夏日であっても、標高の高いここは時折強く吹く風が体温を奪う。

 陽の光を反射した山中湖や富士演習場にまじって遠くに街並みが眼下に広がっていた。


「おお、あれが六大神の祠! 半年前にできたと聞いていたけど、本当にあったんだねえ!」


 バスを降りて辺りを見渡してすぐ目に入った小さな祠を見つけて、私は思わず駆け寄る。

 今の私は富士山登山を見据えての軽装だ。同行者がエルドラしかいないので、楽をすることに決めたのだ。


 六大神の祠とは、外側(アウター)で聖神と崇められて信仰の対象となっている六つの存在を示す。

 一番高い位置に置かれた正円と巻紙が刻印された聖印が【叡智神(えいちしん)】、その右にはトンカチと羽根の【商業神(しょうぎょうしん)】。反対側には太陽の聖印が特徴的な【陽光神(ようこうしん)】、さらに左側には均衡を示す【天秤神(てんびんしん)】の聖印、一番下にはタオルと泡立った石鹸が聖印の【石鹸神(せっけんしん)】と枕と毛布が特徴の【微睡神(まどろみしん)】だ。


 小さな石造りの祠の隣では、それぞれの修道士が商いをしている。


 どうやら登山に役立つ外側(アウター)の品物を取り扱っているらしい。

 必要なものはもう揃えているので何も買う必要はないけれど、物珍しさに眺めているとエルドラが急かしてきた。


「もういいか? ここから日暮れ前に山頂を目指す。時間はあまりない」


 富士山のマップを見つめながら無茶振りをするエルドラ。


 ちなみにマップでは、『普通の人なら六時間で山頂に行ける』と書いてあるが鵜呑みにすると酷い目にあうので要注意だ。

 六時間というのは単純な徒歩であり、休憩時間を考慮していない。初心者なら八時間を目処として高山病に気をつけながら登山するべし……と個人のブログに書いてあった。


 私たちは冒険者なので高山などの厳しい環境に適応できるが、問題は山頂にあるという迷宮(ダンジョン)だ。

 存在が確認されただけで、まだどんな特性のある迷宮(ダンジョン)なのか分かっていない。


 冒険者ギルドの報告によれば、迷宮(ダンジョン)の浅い場所にいる魔物たちは低ランクの魔物。

 洞窟型で奥に進むにつれて空間が広がっているらしい。


「山頂まで、日暮れ前に到着……つまり三時間で登れと?」


 現在時刻は午後一時。

 午後四時から五時ほどが夕暮れ時だと仮定すると、猶予は三時間ていど。


「ああ、というわけで急ぐぞ」


 普段のローブ姿とは打って変わって登山服を着用しているエルドラがきゅっと靴紐を結んだ。


 私は空を見上げる。

 空はどこまでも青く澄み渡っていた。雲よりも高い位置にいるので、見えるのは成層圏すれすれにできた薄い雲。

 風が吹き付けて辺りが山の斜面を駆け上がる霧に包まれた。


 ……三時間で山頂とか、無理じゃね?





◇ ◆ ◇ ◆




 人間、やろうと思えばなんでもできる。

 三時間で山頂に到達するなど無理だと思ったが、冒険者として活動してきた一年が、ここに成果として実ったというわけだ。全く嬉しくない。


「ぐえええええっ、もう疲れた!」

「山を登っただけで文句を言うな。冒険者カードを出せ」

「あい」


 立ち入りが禁止されている山頂の火口付近。

 事前に連絡をしていたので、冒険者カードを提示するだけで私たちは中へ入ることが許可されている。

 斜面を滑り落ちながら、出来たばかりの迷宮(ダンジョン)の入り口に到着した。


 洞窟内からは風鳴りと熱風が吹き上がる。入り口は上下に鋭い岩が生えているので、パッと見ただけならば化け物の口のようにも見える。


「ここが件の迷宮(ダンジョン)か。熱に対する耐性か、冷気を生み出す手段がなければ、まともな探索すらままならないだろうな」


 魔術で早着替えしたエルドラが熱風を前にローブの裾で顔を覆う。

 私も薄着になって鎧を装着。片手にすっかり禍々しく成り果てた盾を持つ。


〈久しぶりの戦いの予感!!〉


 あら並列思考、久しぶり。

 戦いを察知して目を覚ましたらしい。


「地図すらない迷宮(ダンジョン)だからな。万が一ということもある。念には念を入れて、慎重に探索をすすめよう」


 私は行きたくないなあ、という気持ちを抱えながらも一応は頷いた。


 こうして、私たちはグリーンドラゴン討伐前に、銘なき迷宮(ダンジョン)の探索を開始することになったのだった。




 迷宮(ダンジョン)のなかは、報告に聞いていた通り洞窟の外観をしている。

 剥き出しの岩があるので転んだら痛そうだ。


「魔物は……マグマスライム、ジャイアントバット、ゴーレムか。洞窟型という報告に間違いはないな」


 魔物を魔法で撃ち落とし、通路の奥へと進んでいくエルドラ。

 その横を私は歩く。


「……曲がり角か。右か、左か。ひとまず左から探索するか」


 簡単な戦闘ばかりで暇を持て余している並列思考が、手慰みにマッピングをしている。

 緩やかに下る道の左側を進み、魔物を倒して歩いた先。


「早いな。ここが番人の間か」


 エルドラが足を止める。


 地下へ続く通路の先には、人工的な石造りの両扉があった。

 【筋力(STR)】を使って扉を開ける。

 これまでの熱風とは比べ物にならないほど、肌を焦がす熱く湿った空気が吹き荒れる。


 明かり一つない洞窟内でも『暗視』スキルが必要ないほどにその空間は明るかった。

 壁面を滝のように流れ落ちる溶岩。池のように溜まったそれは、周囲の温度を劇的に上昇させ、近隣の岩でさえも徐々に赤熱化させて溶かしていく。


「……おっと、これは厳しい戦いになりそうだな」


 エルドラのすっとぼけた呟きに反応するように、溶岩の中を浮いていた小さな塊にヒビが。


 ーーピキ、ピキ……パキンパキンッ


 殻の内側から八本の足を巧みに動かしながら魔物たちが姿を現す。


「はえ〜、外側(アウター)の虫型魔物は溶岩の中でも生きていけるんですねえ……」

「言ってる場合か、来るぞっ!」


 エルドラの焦った声を合図とするように、生まれたばかりの溶岩蜘蛛が一斉に飛びかかって来た。


 登山直後、ボス戦前に雑魚戦ですか。

 過酷にも程がありますって。

富士スバルライン五合目の『富士メロンパン』はめちゃくちゃ美味しかったです。富士駅でバスに乗って行けるので食べてみてください(ステマ)

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