第五話 犯人? 人斬り(アレクセイ)でしょ、知らんけど
9/2 23:00 ちょっと書き足しました
「この状況で一番怪しいのは、どう見てもそこの二人だろうが! ここは七つ星ホテル、一般人が逆立ちしたって宿泊できないような高級ホテルだ!!」
アレクセイの叫びに、冒険者たちは「ああ、そういえばここは高級ホテルだった」と思い出した様子で頷く。
エルドラたちハイエルフも「なるほど」と納得して、胡乱な視線をこちらに向けてきた。
そりゃ、もしもこれが推理小説やドラマなら、読者の意表を突く為に、癖のある登場人物のなかで敢えて一般人が犯人だというトリックもあるっちゃあるけれども!!
原初の迷宮攻略者のなかで一番の馬鹿だと思っていた〈最低最悪〉から想定外のキラーパスを受けた私は瞬時に言い訳を巡らせる。
「……おことばですが、スイートルームならともかく、一般の部屋ならば民間人でも手が届く値段です。今はシーズンオフですから、宿泊料金も安い。変な言いがかりはよしてください」
記憶にある料金表を思い出す。
大人二名であれば一泊三十万円ていどだ。
貯蓄していたと主張すれば、辛うじて貫き通せる。
「おい、翠花。一般人の稼ぎっていくらだ?」
「うるせぇアル。ググれ、アレクセイ」
「ちっ、可愛くねえ女だぜ」
ぶつぶつ言いながらスマホで検索をかけるアレクセイ。
どうやら翠花とアレクセイは仲が良いらしい。道理でパンダに殺されたというのに反撃に出ないわけだ。
「だあ〜、わっかんね! でもよお、冒険者しかいないこの場で、一般人が二人……どう見ても怪しいだろ?」
アレクセイはスマホを投げ(壁に当たって画面が砕けた)、執拗にこちらに容疑をなすりつけてくる。
『一般人というだけで怪しい』なんて言いがかりにも程がありますね。
「ちょっと……もぐもぐ……それは言いがかりでしょ……だいたい、私たち全員、誰が死んだのかも知らないわけだし」
シンディが最後のバーガーを頬張ると、血塗れアレクセイに反論した。
いいぞ、シンディ! もっと言ってやれ!!
でも食べながら喋るのはマナー違反だぞ!!
「アレクセイ、と言ったか。他の宿泊客に容疑をなすりつけようとするのは感心しないな。ましてや一般人を相手に罪をなすりつけるとは……」
エルドラがやれやれと肩を竦める。
「さきほど貴様は、俺の推理に対して『呪いの剣を装備している間、他の武器を装備できない』と証言したな?」
アレクセイはキッとエルドラを睨みつける。
額から首筋にかけて血がドクドクと流れ出しているものだから、手負の獣のような迫力があった。
「たしかに呪いの武器は気軽に装備変更できないうえに、ステータスの低下を招くので即刻処分する冒険者は多い。ゆえに、カースドアイテムの大部分は謎に満ちている」
「……何が言いたい?」
「カースドアイテムは自己再生機能を有している。所有者の生き血を啜らせることで、多少の損傷から比較的短時間で元の状態に復元することは可能だ」
エルドラとアレクセイのやり取りを聞いていたアンガルモがぽんと手を打つ。
「なるほど! 呪いの剣を修復している間に短剣を投げれば、犯行は可能!!」
おお、やっとそのことに気づいたか。
良かった、よかった。
これで事件は解決したも同然だな!!
「カースドアイテムに修復機能があることは、『ユアサカナデ』という冒険者が身を持って証明している」
「!?」
エルドラは唐突に私の名前を出した。
説得力を出す為と分かっているが、このタイミングで来るとは考えていなかったので、思わず顔が強張る。
隣で母さんが私の腕を掴んでニマニマしながら揺さぶっていた。
「テメェ、ユアサカナデの知り合いか?」
ガンを飛ばすアレクセイ。
過去、彼に何度も斬りつけられてもガンスルーしたことを根に持っているのだ。
人間の中でも高身長なアレクセイでも見上げるほどにエルドラの背は高い。
エルドラはアレクセイをたっぷりと見下ろした後、
「……ふっ」
思いっきり鼻で笑った。
大袈裟に肩を竦め、憐れむような微笑みを顔に貼り付けてとんでもないことを言い放った。
「知り合い以上の関係だ、とここでは言っておこう」
エルドラさん、エルドラさん。
語弊しか与えない表現はやめよう。それは誰も幸せにならないよ。
アレクセイ、ぼそっと「アイツ、男にまで好かれてやがるのか。そろそろケツが壊れるんじゃねえの」という下品な呟きはやめろ。
そして母さん。
「あの人が噂のエルドラさん? あらやだ、イケメンじゃないの貴方。お母さんは大歓迎よ」じゃないんだよ母さん。
静かにしてくれ。そして勘違いはやめなさい。誰かに聞かれたらどうするんだよ、まったく!!
〈うひゃー!!!! これはモテ期到来ですよ本体!!〉
並列思考もゲラゲラ笑うな!!
ああああ、すごく家に帰りたくなってきた……!
「ちっ、ユアサカナデの野郎め。カースドアイテムの特性を他の奴らに教えるなんて、自らのアドバンテージを捨てるようなもんだろうが」
アレクセイは鋭く舌打ちを放つ。
君の事情は知らないよ。
「つまり、アレクセイ殿は犯行が可能だと認めるのだな?」
「保釈金は自分で払うネ。そこまで面倒を見るつもりはないアル」
「事件解決した後のコーラは美味いわ!」
早くもアレクセイを犯人だと決めつけるルカ、翠花、シンディ。
淡白にも程があると思ってしまうほどに、アレクセイを切り捨てるのが早い。
「可能だからって、本当に殺したわけじゃない! そもそも、俺は人をよく斬るが、その被害者を殺すほどの動機はないぞ!」
「人を斬っている時点でアウトでは……?」
「「「………………」」」
アンガルモの冷静な突っ込みにその場が静まり返る。
そう、色々とアウトローかつ濃ゆい面々ですっかり流していたが、アレクセイは路地裏で人を斬ったと先ほど自白したばかり。
誰も彼の無実や潔白を信じていなかった。
「決まりだな。人斬りアレクセイを重要参考人として連行する。他の宿泊客は部屋に戻ってくれて構わない」
エルドラの言葉に意を唱える者はいない。
アレクセイの「誤解だ!」という叫びはアンガルモの魔法で封じ込められたのでノーカンだ。
こうして事件は収束するかに思われたが……、
昇りゆく太陽に照らされる部屋の中、私はまたフロントからの電話で起こされた。
電話の主はリィズ。寝ぼけた頭で話を聞く。
「……また殺人事件ですか。被害者は、ロシア軍人のルカさん……はい、ロビーに向かいますね」
またもや第三の殺人事件が起きてしまったのだった。
今日だけで三つも事件が発生している……なんなんだよ、いったい…………
一体、誰が黒幕なんだ……!?(ヒント:三竜が出現した地域[第一章:第三話 誇り高いニートなので引退します])
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異世界『アウター』
その存在が確認されたのは2019年12月某日。
中国の武漢市上空に突如として出現した“ゲート”を通じて三頭のドラゴンが飛来したことから始まる。




