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女冒険者は絶対に引退したい〜Sランクパーティーから追放されたので、これはもう引退するしかないと思います。引き留めないでください!〜  作者: 清水薬子
ドバイでユアサを探せ【難易度:インサニティ】

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第四話 原初の迷宮攻略者、集結!!

世界的に有名な地球の冒険者どもを紹介するぜ!!


 “原初の迷宮攻略者”


 『外側(アウター)』と呼ばれる異世界と地球が接続してから半年ほどの混乱した時期。

 その期間に誕生した迷宮を攻略した者を、吟遊詩人はそう謳う。


 迷宮に関する知識もなく、平凡な日常を過ごしていた無辜な市民が迷宮をきっかけに冒険者になる。

 第三者から見れば、華やかな英雄譚の始まりに思えるのだろう。


 ただ、『大いなる力には大いなる責任が伴う』と創作物で語られるように、あるいは『絶対的な力は絶対的に腐敗する』と学者が警鐘を鳴らすように、過ぎた力は否が応でも平均から逸脱してしまうのだ。


 原初の迷宮攻略者は、全部で六人。

 遠藤と私を除けば四人だ。それぞれ、生まれた国も違えば、性別も年齢も共通項はない。ただ一つ、『傍若無人』という傍迷惑な共通項を除けば、だけど。


「何故、俺たちが取調べに協力しないといけないのだ!?」


 エルドラに今にも掴みかかりそうな勢いで叫ぶ三十路の男。出身はチェコ共和国。

 腰に下げる剣は抜き身で、刃は禍々しく錆びた色をしている。紛れもなくカースドアイテムであり、【精神力(MND)】を下げる代わりに攻撃力を上げる呪われた剣だ。


 〈最低最悪〉の剣士アレクセイ・ベルナーシェクス。


 出会い頭に「剣が血を求めている」という理由で辻斬りしてきたヤバい人だ。

 人を斬っているが殺してはいないので、まだ指名手配されていない。いずれ時間の問題である。


协议(さんせい)! こんな深夜に呼び出すなんて非常識アル」


 傍らのモノクロベアーと呼ばれる白黒熊を撫でながら、中性的な外見をした十代後半の〈桃源郷〉のモンスターテイマー翠花(ツイファ)がエルドラを詰る。

 赤色のチャイナ服に孔雀の羽を模した簪と扇がトレードマークだ。

 ちなみに戸籍は中国、性別は男、年齢は三十歳後半という噂があるけれど真相は謎だ。

 ところでこのホテルはペット禁止なんだけど、そこは大丈夫なんだろうか。


「眠いので部屋に戻ってもいいだろうか」


 ウォッカの瓶を片手に不機嫌そうにソファーにふんぞりかえる軍人。迷彩服に付けられた階級章の数から偉い立場にいることが伺えた。

 プラチナブロンドの短髪を帽子の中に押し込んでいる。


 〈永久凍土〉ルカ・アレクサンドロヴィッチ・バーベリ……だっけ?


 名前がややこしいから覚えきれなかったんだよね。

 ところで、お酒を飲むなら室内でお願いしますね。ドバイでは泥酔すると逮捕されるので。


「……もぐもぐ、もぐもぐ」


 無言でハンバーガーを貪る女性。

 〈大喰らい〉のシンディ、アメリカ人女性だ。恰幅のいいダイナマイトボディにセクシーな唇と敵を粉砕するヒップは『アウター』と地球問わず冒険者に大人気だ。

 この前、動画配信サイトで自由の女神像を壊してからはアメリカ合衆国で国際指名手配されている。


 恐らくこの場にいる冒険者たちは最低でも40レベルはあるだろう。

 遠藤ほど効率的ではないにしても、各地の迷宮を攻略しては荒稼ぎする地球の冒険者たちだ。


 癖の強い『アウター』の冒険者たちに囲まれた彼らが平凡なはずがなく、ハイエルフなど見慣れたとばかりに噛み付いていた。

 慣れたものなのか、エルドラも高圧的な態度で切り返す。


「捜査への協力を拒むのは個々人の自由だ。しかし、命の保証はしない」


 掌に漆黒の炎を灯し、威嚇。

 一触即発の空気感に私は焦る。


 もし、ここで戦闘が起こったとして。

 建物が崩壊するのはもちろんのこと、流れ弾が当たろうものなら素の防御力の高さのせいで私の正体が露見する。避けようものなら、それでも冒険者であることがバレてしまう。

 さらに、母さんが巻き込まれたら大怪我してしまう。これはいけない。どうしよう、どうしよう。


 そんな風に焦っていると、


「グオオオッ!」


 翠花(ツイファ)のモノクロベアーもといパンダが剣を抜いたアレクセイに噛み付いた。

 舞い散る血液、ロビーに置かれたソファーを薙ぎ倒して転がる男の体。そして、口元を真っ赤に染めたパンダ。

 ……こうして、第二の殺人事件が起こったのだ。


 翠花(ツイファ)が目の前の惨劇にあちゃーと顔を手で押さえる。


「正当防衛とはいえ、やっちまったアル」


 モンスターテイマーに調教された魔物は、主人を守るために行動する。もし、主人の方を向いて武器を抜く輩がいれば、主人を守るために行動するのは当たり前だった。

 よって、パンダが悪いのではなく、ホテル内で剣を抜いたアレクセイが悪い。


 犠牲者は出たが、一触即発の空気が払拭されたので問題はない。アレクセイならリザレクトできるし、生き返れるから実質被害はゼロだ。


「パンダは肉食だったのね。笹を食べているところしか見なかったから、てっきり草食なんだって思ってたわ」


 母さんは相変わらず呑気だ。

 リィズにリザレクトされるアレクセイを横目に、出鼻を挫かれたエルドラは掌に浮かべていた炎を消す。


「無用な血をこれ以上流さないためにも、捜査に協力していただきたい」


 アレクセイの呻き声が聞こえるなか、誰もエルドラに反論することはなかった。


「九時から十時アルか? その時間は、テイムした魔物(モンスター)の手入れをしていたアル。ブラッシングしたり、肉球のケアをしたり、仕事は多いアル。アリバイを保証できる人? そんなヤツいないアル」


 翠花(ツイファ)はその時間帯、ホテルの外に設置されたモンスター用の宿舎にいたと証言をした。


「その時間なら、俺は街の裏道を走ってたな。ガキを虐めているヤツがいたから、とりあえずその場にいた奴らを全員斬った。あ? もちろんガキも斬ったに決まってるだろ」


 犯罪を自白するアレクセイ。彼は後ほど警察に連行されるだろう。(たぶん、金で被害者を黙らせて被害届を揉み消すと思われる)


「もぐもぐ……ホテルのシェフに紹介されたレストランにいたわ……なんでも、経営が傾いているらしくって……もぐもぐ……味は、まあまあだったわね……もぐもぐ」


 シンディは十個目のハンバーガーを頬張り、コーラをずぞぞぞっと飲み干した。


「その時間、自分はホテル近くの冒険者ギルドへ仕事へ向かい、ホテルに戻る最中だった。22:50(フタフタゴーマル)にホテルのバーにいたぞ。グレイグースを扱っているのはここだけなんだ」


 どうやらルカはバーにあった酒では飲み足りず、部屋に戻っても酒を飲んでいたらしい。

 冒険者は酔えないというのに、それでも飲むのだから酒そのものが好きなんだろう。


「なるほど。協力に感謝する。おかげで犯人が分かった」


 え? もう推理終わったんですか、エルドラさん。


「アレクセイが犯人だ。間違いない」


 血塗れのアレクセイはソファーの上でふんぞりかえりながらエルドラを睨みつける。


「根拠は?」

「被害者は腹部に刃物を複数回刺されたことで死亡している。〈最低最悪〉の二つ名を持つ貴様ならば、遠距離から狙った的に向けて刃物を投擲することが可能。身体能力を駆使して、被害者の腹部に目掛けて刃物を投げた」


 まあ、たしかに冒険者ならそれぐらいはできるね。実際、何回か遠藤がそれで魔物を仕留めていたし。


「ホテルの外ならば、一定の威力を伴った攻撃に反応して警告を出す『撃力カウンター』に邪魔されることもなく攻撃できる……違うか?」


 アレクセイはニンマリと笑ったまま、腰に下げた剣をトントンと指で叩く。


「おいおい、エルフ君よお。俺が今、装備しているものがなにか分かるか? 呪いの剣、カースドアイテムだ。この武器が壊れるまで、俺は他の剣を握ることはできない」


 カースドアイテムは、呪いだ。

 力を与える代わりに、必ず対価を奪う。ステータスの低下の他に、他の類似する装備品に対して制限を設けてくる。

 ……つまり、壊して刃物を投げた後で血を与えて修復すれば、犯行は可能。

 果たしてこの事実にエルドラは気づくのだろうか。


「ガバガバ推理をドヤ顔で披露するのは疲れたろ? 俺が直々に引導を渡してやるよ!」


 剣を抜くアレクセイ、鉄の擦れる音に反応して牙を剥くパンダ。今度は死ぬことはなかったが、大怪我をしたらしく、血の匂いが辺りに充満した。

 視界の隅でホテルの従業員が迷惑そうな表情で窓を開けて換気する。


「いい加減にするアル、アレクセイ。剣を抜いたらパンダが我を守るために反応して攻撃してしまうって何度言ったら分かるアルか?」

「うるせぇ、テメェの調教がクソなだけだろ!」

「馬鹿は死んでも治らないアルね……」


 肩を竦める 翠花(ツイファ)

 母さんは「若い子は血気盛んで元気ねえ、不良みたいだわ」なんてすっとぼけたことを言っていた。

 さすがミステリーやサスペンス、医療系のドラマを見てきた母さんだ。グロに対する耐性が高い。


「母さん、私たちは部屋に戻ろうか」


 とりあえずここに留まっていると巻き込まれる可能性があるので、離脱を提案。

 渋る母の肩を押して、エレベーターに向かっていると背後からアレクセイが叫ぶ。


「おい、そこの一般人二人。止まれ!」


 なんで止まる必要があるんですか。


「この状況で一番怪しいのは、どう見てもそこの二人だろうが!!」


 おう容疑の擦りつけやめろや。


「ここは七つ星ホテル、一般人が逆立ちしたって宿泊できないような高級ホテルだ!!」


 おのれ、アレクセイ。普段は人斬りしかしない癖に、こういう時だけ無駄に思考を働かせやがって。

 よりにもよって痛いところをつきやがったな……!!


 突き刺さる視線を全身に浴びながら、私は頭をフル回転させつつ渋る並列思考を説得してこの場を打開できる説明を考えるのだった。

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