第三十一話 踊らない会議
いつもの如く、ブリーフィングルーム。
今回は遠藤たち『終の極光』とアリア率いる『森の狩人』と合同でドラゴン討伐を目指す。
依頼を引き受けるより先に険悪な雰囲気になったエルドラとアリアだが、二人とも百歳を超えた社会人かつ冒険者歴三十年である為、禍根を引きずるようなことはしない、と思いたい。
「やあ、親愛なる冒険者諸君。この度はドラゴン討伐の依頼を引き受けてくれてありがとう」
にこやかな笑みを浮かべながら内藤支部長がやってきた。
手にはドラゴンのスキルやステータスに関する資料。
それが手渡しでその場にいる全員に渡されていく。
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レッドドラゴン レベル:120
生命力:60000
魔力:10000/10000
ステータス:
【筋力】200
【器用】300
【敏捷】100
【耐久】800
【知力】500
【精神】700
【魔力】10000
【魔耐】800
固有スキル:ファイアブレス・爪撃・尾撃・噛み砕き・魔力回復・再生
ユニークスキル:竜の系譜・竜王・『?????』
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スキル欄が限りなくシンプルだが、それだけにステータスが化け物であることを如実に示している。
いやいや、最低で100。最高で10000。
生命力に至っては60000。
はー、私なんてギリギリ1000。
どんだけ化け物なんだって話ですよ。
並列思考、私たち勝てそうかな?
〈やってみないと分からないことって、あるよね★〉
責務から逃げるな。
〈いやいや、そもそも私たちの役目って盾役であるわけで、攻撃力などハナから求められていないのですよ〉
会議はそれぞれの動き方や魔法効果の擦り合わせがメインテーマとなっていた。
私は遠藤やエルドラから、庇うべき優先順位を確認させられる。
まずは生命線である回復担当の神官フレイヤ。次に回復は劣るけれども補助魔法に秀でたアリア、アリアが倒れたら私が立て直しをはかる。
もっとも、私がみんなに回復魔法をかけるのは最終手段で、そこまで追い詰められていたら実質的な詰みだ。
小さな喧嘩はしたけれども、アリアたち『森の狩人』は道中の魔物や罠の対処とドラゴン討伐の補助を買って出てくれたので、終の極光は万全の状態でドラゴンとの戦闘に専念できる。
方向性が定まってきたところで、遠藤がこんなことを言い出した。
「ああ、そうだ。前回、討伐が失敗した理由なのだけど、味方の支援魔法が作用しなかったんだ」
その話にエルドラが食いつく。
「支援魔法の威力が低すぎたのか?」
「いや、そんな感じでもなくて。なんと言うか、掛けたのにかかってない、とでもいうべきかな」
「ふむ。そういえば、ドラゴンはあの迷宮で魔物だけでなく採集できる素材も喰っているという話だったな」
腕を組みつつ、資料をぺらぺら捲るエルドラ。
法衣鎧を着ているから、なんだかサマになっているのが悔しいな。有能な参謀みたいじゃないか。
「『血瞳晶』を喰っているとすれば、この盾が持つ効果と似たようなスキルを獲得しているかもしれんな」
エルドラがごんごんと私の盾を叩く。
透明なライオットシールドに嵌め込まれた『血瞳晶』は瞳のような模様で静かに佇んでいる。一度でも魔力を流せば、いかなる魔物であろうと惹きつけられるだろう。
「それは厄介だね。俺たちの支援魔法が強奪されている可能性もあるってことだ。場合によっては回復や支援も慎重にならないといけない」
通常、魔法を使うときは強い意志が必要になる。
相手をじっと見つめながら呪文を唱えることで魔法は効果を発揮するのだ。
つまり、もしドラゴンがヘイトを操作できるとすれば、冒険者が支援魔法を使おうとしたタイミングでヘイトを奪いつつ魔法の恩恵を奪うことができるかもしれない。
これはかなり厄介だ。
「この『血瞳晶』はかなり魔力効率が悪い。恐らく永遠には発動できないから、必ずどこかしらのタイミングでCTが発生する。そこが狙い目だな」
私たちのなかで最も博識なエルドラが攻略法を提示した。
おお、私よ。
今回こそ死んでしまうかもしれません。
〈まあまあ、これまでなんとかしてきたんだし、案外、今回もどうにかできるかもね〉
そうやって確証もないのに甘い希望を抱かせるのは残酷だと思いますー!!
「【耐久】も【魔耐】も高い以上、有効的な弱点もない。完全耐性がないのは救いだが、地道に攻撃して削るしかないな」
地道に削るってことは、その分、私がドラゴンの攻撃に晒されるということでありまして……。
あー、トラウマが蘇りそう。
〈そういえば、過去にドラゴンに殺されてるんでしたっけ?〉
ありゃ酷いもんでしたよ。
玩具のように尻尾でビタンビタン。あれは誰も耐えられませんって。
まあ、ちょっとした裏技で切り抜けたんですけどね。
あれはもう最終手段どころか二度と使いたくない手札なんですよ。
〈そこ辺りの記憶、何故か並列思考じゃあ確認できないんですよね〜。何があったんです?〉
端的に言うと、『死後の世界を覗き見た』的な?
〈ほお。世の宗教家が喜びそうですな〉
あれは二度と見たくないなあ。
思い出すだけで嫌な汗が吹き出してくる。
〈ドラゴンの情報がかなり出ていますし、苦戦することはあっても死ぬことはないでしょ〉
……フラグ、建てましたね?
〈いやいやいやいや……ごめん、励ましたかった〉
いいよ、許す♡
〈マジ感謝〉
緊張を解すために並列思考とふざけていると、エルドラが伝達魔術で話しかけてきた。
「おい、あの御守りは持参しているか?」
偽ドラの指示通り、ちゃんと御守りはポケットに入れてある。私はそれを取り出して、エルドラに見えるようにテーブルの上に置いた。
「それに変な魔法や絡繰はなかったから、窮地に陥ったら使え。ある物は有効に使ってこそ価値がある」
私は頷いてポケットに戻す。
……ところで偽ドラさん、これを使った後で法外な料金を請求したりしないよね? ね?
「ふん、分かればいい。貴様が死ぬと不都合しかないからな」
私は魔力操作でそっと文字を描く。
「(エルドラさんこそ、誤射ゼロでお願いしますよ)」
「……ベストは尽くそう。結果は保証しないが」
よしよし、改善に向かってますなあ。
そろそろ世話係も任期満了になるし、エルドラさんには是非とも今回のドラゴン討伐で信頼できる仲間を増やして……
増や……
…………
友達を作るのは無理かもしれないけど、有名になればめちゃんこ強いエルドラにきっと擦り寄る輩がいるから、その人に世話をしてもらうんだよ。
偶になら相談に乗ってあげてもいいかな。
偶に会ってエルドラの顔を見て失った青春時代を補完しよう。そうしよう。他人として関わる分には、エルドラは顔が良いからね。
そうして、会議は終わり。
私たちはドラゴン討伐に向けて最終的な調整に入るのだった。




