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女冒険者は絶対に引退したい〜Sランクパーティーから追放されたので、これはもう引退するしかないと思います。引き留めないでください!〜  作者: 清水薬子
何がなんでも引退したい冒険者vs引き止めたい周囲vsレッドドラゴン

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第二十八話 びっくりどっきり不思議体験


 ここ一年、とても不運だった。

 迷宮と知らずに迷い込んだり、ついうっかり呪いの鎧を装備しちゃったり、十回も死にかけたり(うち一回は本当に死んだり)、ハイエルフに目をつけられて決闘を挑まれたり、ドラゴンと遭遇したり、足を向けた迷宮が悉く変質していたり、たまたま引き受けた依頼の裏に一連の事件の黒幕を匂わせる証拠が見つかったり、本当に“運が悪い”としか言いようがない。


 おかしいじゃないか。

 他の日本人の冒険者たちは『スローライフ』を満喫していたり、ほのぼのと魔物を討伐していたり、のほほんと恋愛をしているのに、どうして私だけが毎回のようにこんな目に遭うのか。


 ーーそうだ、お祓いをしよう。


 多分きっと私にはなにか良くないものがついているんだ。

 そうして、冒険者ギルドで報告を終えた私たち。帝国とのやり取りがあるというエルドラと宿屋で別れ、私は電車に乗って縁切りと厄除けで有名な神社に行くことを決めた。


 ぼんやりとスマホでニュースサイトを見る。

 なんでもどこかの高校で嶋津とかいう苗字の教頭が生徒に体罰を加えていたことを自白したらしい。

 未だに体罰なんてあるんですね。自首したうえに謝罪しているそうで、それが話題になっていた。

 冒険者による殺傷事件以外で賑わっているのは久々だね。この教頭には是非とも罪を償って、しっかりと更生してほしいね。


〈鎧を着てないと、こんなにも注目されないんですね〉


 今の私は鎧をキャストオフしているので、道ゆく人に指をさされたり、盗撮されることはない。

 ああ、注目されないって素敵……!


 そして辿り着きました。


 『明治神宮』

 午前九時からだいたい午後四時まで三十分ごとに神楽殿に行けば、それほど待つことなくお祓いできる。


 前の私は幽霊の存在なんて信じていなかったけど、今の私なら信じるぜ。

 魔法があるなら、そりゃ幽霊もいますよね。

 まあ、【皆殺しの館】のようなやばい系は懲り懲りですけど。頼まれたって二度と行くもんか、バァッカ!!


〈荒れてますねえ〉


 なにせ、精神的な余裕がないもので。


 月に一回のペースで死にかけるっておかしくない!?

 なんで私ばっかりこんな怖い目に遭うの!?

 麻薬組織がなんで実在するんだよ、滅びろ!!


 ……はあーっ、はあーっ。


〈落ち着いた?〉

 うん。


〈ところでお祓いって効果ある? ぶっちゃけ、神聖魔法の方が効果ありそうじゃない?〉


 あれ、悪霊を祓うっていうより霊体を“攻撃”してるに過ぎないから効果ないと思う。というか、私の扱う神聖魔法は基礎中の基礎なんだよね。


〈特殊神聖魔法、神の名前と聖印、それと信仰する心があれば神の奇跡を起こせる。フレイヤは“天秤教”、エルドラは多分“叡智教”……それぞれの神の特徴が大きく出ているね〉


 神聖魔法には二つある。

 基本神聖魔法と特殊神聖魔法。

 前者は素質さえあれば使えるのに対して、後者は並列思考が指摘した条件を満たして初めて使えるのだ。


 『善く生きること』『正義』を教義に据える天秤教の神官フレイヤは回復も攻撃も補助もなんでもござれな元聖女候補だ。あれで聖女じゃないなんて信じられないね。


 エルドラは推測になるけど、魔法の攻撃力を高める為に叡智教を信奉していると思う。たしか叡智教の特殊神聖魔法のなかに、相手の弱点を看破する魔法があった。恐らくはそれだろう。

 実益目当てなのは彼らしい。そろそろ誤射しないように知恵を巡らせろ。


 このように、特殊神聖魔法は基本神聖魔法に相乗的な効果を発揮するものが多く、神聖魔法を扱うなら是非とも特殊神聖魔法まで成長させるべきなのだ。

 しかし、私だけずっと基本神聖魔法でこれまで頑張って来た。


 というのも、神によって『信仰する心』の定義が違う。

 滝行三時間で信徒と認めてくれる神もいれば、利害の一致なんていう身も蓋もない堕腐教のような邪神もいる。

 メジャーどころな宗教はとっくに試し、全滅してしまったから仕方なく基本神聖魔法一本で頑張っている。

 だから私はフレイヤのように四肢欠損は治せないし、死者蘇生もできない。出来るのは回復と補助だけで、それすらもフレイヤに劣るのだ。

 欠陥もいいところである。


〈フレイヤは『天職を授けた神に信徒として認められているから、他の神から信徒として認識されないのかもしれませんね』って言ってたっけ?〉


 試練をこなして疲れ果てた私に、フレイヤは『それも神の試練かもしれませんね』とふわっとしたフォローを入れていた。

 だとしたら傍迷惑な神である。

 名前も名乗らずに勝手に聖騎士にした挙句、放置とは無責任極まりない。何がしたいんだ?


 と、そんなことを考えていると隣の席に座っていたおばちゃんが話しかけて来た。


「あら、あなた。珍しい霊を引き連れているのね」

「は、はあ……?」


 なんだ、いきなり。

 霊を引き連れてる? テイムした覚えはありませんが。


「一人は神霊かしら。もう一人は悪霊ね」

「極端すぎませんかね」


 思わずツッコミを入れる。

 神霊と悪霊ってあまりにも真逆すぎるじゃないか。相殺したりしないだろうか。


「二人ともあなたに熱い視線を送っているわ」

「え? なんで?」

「どうやらあなたの弱さに共感しているみたい」

「え? え? ええ????」


 ぽんぽんと私が引き連れているらしい霊の特徴を挙げていくおばちゃん。

 去年ならば妄想か電波受信で片付けられたけれど、『アウター』と接続した今では一概に絵空事と片付けられない。


 ああ、どうしよう。

 もしこのおばちゃんの言う通り、私にその珍妙な二体の幽霊が憑いているとしたら大問題じゃないか。

 31レベルの私ですら見えない、高レベル帯の幽霊ってことじゃないか。


「ああ、ごめんなさいね。あたし、昔はとある集落で巫女をやっていたの。だから、そういう気配は分かるの。でも、お祓いとかはできないの。力にはなれないけど、教えることぐらいはできるかもって思ったら、ついうっかり話しかけてしまったわ」

「いえ……お構いなく。知ることができてよかったです」


 くすりとおばちゃんが笑った拍子に、その細められた眼孔に収まった義眼がきらりと光る。

 彼女は両目とも義眼だった。片手に白杖を手にしている。


「やっぱりあなたは変わっているわね。“普通”は困惑しながら相槌をうつのよ」

「最近、色々とありまして……」

「そう。とても大変な思いをしたのね。でも大丈夫、あなたはちゃんと前に進んでいるわ」


 にっこりと微笑むおばちゃん。

 それってどう言う意味ですか、と尋ねるよりも早く厄除けの時間が始まってしまった。

 しっかりと寝たはずなのに、猛烈な眠気が襲って来て、気がつけば私はうたた寝をしてしまった。


 そして、目を覚ましてから隣を見た時。

 そこには空っぽの椅子があるだけだった。

 慌てて辺りを見渡しても、どこにもあのおばちゃんの姿はない。


〈なんだったんでしょうね、あの人〉


 さあ? なんだか得体の知れないところはあったけど、悪意はなかったから悪い人ではないと思うけど……。


 購入した厄除けの御守りを手に今日の不思議体験に首を傾げながら宿に戻る駅のホーム。

 ぼんやりとスマホを眺めながら電車が到着するのを待っていると背後から話しかけられた。


「君、これを落としたよ」


 聞き覚えのある声に振り返る。

 漆黒の金縁ローブに金髪、長身に長い耳。

 エルドラが微笑みながら私の背後に立っていた。手には私が神社で買ったばかりの御守り。


「えっ、あ、ありがとうございます?」


 なんでここにいるんだ?

 宿で報告書を作っているはずじゃないの?


 そんな疑問が口から飛び出しかけたその時。

 反射的に受け取ってしまったその御守りごとぎゅっと掌を握られる。体躯に見合うだけの大きな手は、いとも簡単に私の手をすっぽり包んでしまった。

 手袋をつけているから、体温こそ伝わらないが、突然のことに思わず目を見開く。


「これはとても大切なものだから、決して無くさないように。いいね?」


 圧を掛けるような発言にコクコクと頷く。彼には有無を言わせない妙な迫力があった。

 それと、周囲からの視線も併せて、私はとにかく怖くてしょうがなかった。


「良かった。ああ、そうだ。もう一つの方は明日、俺にくれ。じゃあね」


 ぱっと手を離した彼は到来した電車に乗る。

 追いかけようか悩んでいる隙に、電車の扉はパタンと閉まってしまった。

 動き出した電車の中、吊り革に掴まったエルドラは小さく右手を振る。


 爽やかな笑みだった。

 彼がイケメンであることを思い出させるほどに、爽やかでどこか寂しげで、儚げなスマイルだった。


〈御守りが大事なもの? 『明日、俺にくれ』? まるで意味が分からないね〉


 並列思考の指摘に私はハッとして振り返していた手を降ろし、それからやっと異変に気づいた。


 御守りが二つ。

 てっきり落としたと思っていた御守りが、何故か二つ私の手にある。

 不気味なことに、ほつれかかった紐までも瓜二つだった。違いをあげるとすれば、一つは何かの魔法が込められているということ。


「どゆこと……?」


 なんでこの御守りを私に渡して来たんだろう。なんでここにいたんだろう。

 もしかして、私の素顔がばれた?

 いや、それにしてはなんだか変な雰囲気だったような。駄目だ、考えてもさっぱりわかんない。

 そうだ、直接、本人に聞けばいい。

 そして、口封じ……じゃなかった口止めをすればいい。彼はきっとわかってくれるはずだ。多分。


『さっきのはどういう意味だ?』


 エルドラ宛てに飛ばしたメッセージはすぐに既読がつく。数秒も経たずに返信がきた。


『なんの話だ?』

『駅でいきなり魔法を込めた御守りを渡してきただろう? おまけに、明日もう一つの御守りを渡してくれって言ったじゃないか』


 数秒ほど猶予を置いてから、エルドラが答える。


『俺は宿に戻ってから一度も部屋を出ていない』


 おおっと?


『また、他のハイエルフが日本に来ているという報告も聞いていない』


 あのさあ、私はもう十分に恐怖体験も不思議体験もしたと思うんだよね。だからさ、ドッペルゲンガーとかそういう類は勘弁してほしい。


『明日の朝、その御守りとやらを見せてくれ。その魔法とやらが気になる』


 お祓いしたばかりなのに、もうトラブルの気配がビンビンですよ…………。

主人公はいっつも変なことに巻き込まれてるなあ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう巻き込まれ方はなかなかに珍しいような。 何が起こってるのか皆目見当が付かんですねぇ。
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