カウンタ―詐欺
俺には言う事がある。
世間一般的な言い方をすれば無職。
本職は――詐欺師だ。
詐欺師と言っても地面師とかの企業案件の大型のものじゃない、その辺にいる情弱の爺さん婆さんのご高齢者に息子や娘、孫のフリして電話を掛ける『オレオレ詐欺』を生業にしている、この道3年のプロだ。
世間一般で言えば反社(=反社会勢力)だが汗水働く事に変りない立派な職業だ。
仕事は簡単を電話かける、相手を騙す、そしてお金を振り込んでらう、その3作業だけですむ中卒でもできる仕事だろう。
しかし、当然ながら技術が必要だ。
相手を騙す演技力、相手の話をよく聞いて情報を集める分析力、そして少し動揺させて安心させる話術。
この3つがあれば成功する。
そして、何より必要な事は俺一人では出来ないチームワークが必要、これがあれば相手の信用度、洗脳成功率が著しくあがる。
だがら仕事はだいたい3人組で行うのが基本だ。
その仲間の1人の郷田(男、32歳)、城里(女、27歳)と俺でチームを組んでいる。
役割分担というヤツだ。
そんな俺の――俺たちの日常をお知らせしよう。
――朝、某雑居ビル出社。
俺がまず初めに扉を開けてやる事は「おっはよごさいま~す」という挨拶を入った所のソファーで寝ている管理人、金城さん(男、年齢不詳)に挨拶する事からはじめて、「……おう」と寝っ転がってアングラ系雑誌をアイマスクにしている金城さんの返事を確認するとそのまま部屋の奥、パーテーションに区切られた小部屋に入って荷物を下ろす。
金城さんってヤクザ関係なんだろうな、めっちゃ怖い顔でこわい口調で電話かける時があるもん、やべーな。でも、知ったら色々大変だから知らんぷり~♡
そんな事を考えながら近くのコンビニで買ってきた缶コーヒーで目を覚ます。
そうこうしている内に同業者が続々と部屋に入ってくる時間が訪れた。
そっから仕事の開始、チームメンバーも揃っていてファイルに閉じられた秘密情報――もとい、金城さんが、たぶん本家から送られてきた各家庭の個人情報(金で買った裏情報)を広げる。ちなみに名前と電話番号が入った出所怪しいブツである。
余計な詮索は禁止しよう。長生きしたいから。
さて、仕事前に軽い打合せ。今日の役割とローテーションの確認だ。
オレオレ詐欺に必要なのは演技の設定。誰が何をするかを決めておく事が大事。
そしてその前にこの仕事の一番大事な事――『電話をかける』それ以外無い。
***――2時間後――。
「だめだ、切れた」
これで何度めかの失敗。
オレオレ詐欺に引っかかる可能性は思ったよりも低い。
実際にテレビでの警告や、情報が出回っているせいで話をまともに取り合ってくれる人は100人、いや、1000人に1人だろう。つまり話を聞いてくれる段階で0.1パーセントの壁を乗り越えなくてはいけない事になる。
ちなみにここに乗っている電話番号は過去に詐欺にかかった、もしくはそれに近い厳選された相手であるから他の警戒しやすい家庭よりも成功率は高い。
やっぱり出所がどうも怪しいよね、金城さんの“上”から降りてくるから闇ルートは確定しているが――詮索はしないでおこう。
闇ビックデーターなるものがあるだけ、俺の勘だけと。
それはいいとして警戒された状態での成功率は低い、大抵、気が付かれて電話を切られる。
まぁ、この携帯も“この会社”支給の特別携帯。
非通知、飛ばし諸々込みの特別版。やっぱりこういう仕事だし設備が整っている事は間違いない、でも福利厚生は無い――闇だもん。
俺は郷田と城里に合図を送る、相手も電話中だからジェスチャーで。
そうして何もなく次は午前中最後の51件目。
電子音、この瞬間が結構緊張する。
『――はい、もしもし、寺井ですが』
若くない声、そして名乗った寺井と言う名前。間違いない、寺井宅が確定した。
情報と一致――続行。
『……あの、もしもし?』
電話の主は返答の無いのに不信に思っているようだ。
「……か、母さん、俺だけど……」
もちろん名前ではない、すこしどもった声で緊張感を出す。
ママとか呼び名があるかもしれないが――ここは賭けだ。
『――修ちゃん、修二かい?』
はい、頂きました。下の名前で息子確定。声の感じからして焦りも見えるけど、名前いっちゃダメでしょ。こっちからしたありがたいけど。
「そうだよ……修二だよ」
よし、ここまでは完璧っていうか良い流れ、家の名前、息子の名前のダブルゲット。
OK、OK、イイ感じ。
『いままで電話なんて……かけてこなかったじゃない? どうしたのよ?』
疎遠系の可能性まで出て来た、これは仕事が楽になりそうだ。
「その、あのさ……、仕事でヘマやって困ってて」
短い言い分で困っている事をアピール、ここ重要。
借金とか色々あるけど日本人なら仕事のヘマが現実的。
『ヘマって何ッ! どうしたの?』
ほら、電話越しのママ(仮)が焦ってます。焦らせることで判断力を削るのがミソなんだよね。
話を聴いてくれただけでもデカい。そのまま郷田と城里に合図を送る。『釣れそうだ』とした予備の合図だ。
彼らも笑みを浮かべていた。なに、こうやって出来高払いにありつけるのだから当然だ。
素早く、ケータイを切ってノートパソコンを開いてくれる。
「その……実は俺のせいで……会社にでっかい穴をあけちまって……――」
最後まで言うのはご法度、電話越しに考えさせるのが重要な事だ。
勝手に頭の中でストーリーを作ってくれるから。
特に重要なのは周りを巻き込んでいるという点だ。日本人の傾向としてそのような時に親や親戚が恥と思って色々と動いてくれる傾向が強いらしい。
【子供の恥は親の恥】ということなのか?
案の定、電話の向こうでママ(仮)が驚いてくれている。
ありがたい事だ、判断力はだいぶ下がっただろう。
あとは適当に金額の交渉だ。
多すぎず少なすぎない金額を振り込んでもらうのが重要となる。
順調、郷田と城里はその間、スマホに特製のイヤホンを刺して話の内容を確認しサポートしてくれている。
『あんた、どうして―――、ちょっと待って変わるから』
突然の電話相手の変更、こうすると少し厄介だ。このまま電話を切るかどうするか判断しなくてはいけない。
話し相手は誰だ? ママ(仮)の父親……つまりパパ(仮)が登場するのか?
『しゅうじッ! 修二か!』
電話越しの声が若い、どっちだ? 兄貴の可能性すらある。
修二って名前から修一っていう兄がいそうだ。
『おい、返事をしろ!』
その判断も迷っている内に相手は問い詰めいる、話を継がないと怪しまれそうだ。
郷田と城里も俺の眼を見て訴えかけている。
「あ、あ、久しぶり・…」
出方が分からない、判断すべき情報は無い。
だから引き延ばして有利を探るしかない。
『おまえ、今日は何の日か知っているのか!』
電話越しの向こうから怒声が――つまり、何かある日か、もしくは重要な日という事になる。
これは不味い、普段どおりが理想なのに余計な記念日の情報は何も無い。
バレる可能性すらある。
続行すべきか迷いが生まれ、俺は郷田と城里の方をもう一度見て目線を合わせるが、二人ともども困っている。
同じ気持ちだ―――こういう時は撤退が原則。
『祖母ちゃんが死んだんだぞ』
電話の向こうで答えが帰ってきた。
葬式か――、これから?
『とにかくすぐに帰ってこい!』
怒っているようだ、それもそうだな。
でも本物の修二では無い。姿を見せる事もご法度だ。
だからこう言うしかない。
「ごめん、仕事のヘマでどうしても抜けられない。こえは俺の責任だから」
『じゃあどうすんだ? アレだけ世話になった祖母ちゃんの葬式だぞ! その前にお前……金が必要なようだな、いくらだ?』
「えっとその……300万ほど……」
向こうから金の話になるとは予想外。
普通は切り出すタイミングの決定はこっちだ。
『それじゃあ、用意してやる。葬式に参列して受け取りに来い! 300万だろうが、500万だろうが用意してやるよ』
「いや、でも、俺はいけないから後輩に取りに行かせる、よ」
やっべー、すげー噛んだ。
何もかも予想外だ。
決められた通りのセリフだったからギリギリ言えた。
『わかった、もうなんでもいい、俺たちも準備があるから早くこい! 手伝え!』
いや、どこに行けばいいのかわからん。
「えっと、葬儀の場所は?」
『祖父ちゃんが死んだ時と同じ場所だよ。わかるだろ? 駅前にある』
「駅って?」
『何言ってんだ、●●駅だろ』
それを聞いて準備していた城里が駅名を出してくれた。
市外局番から、ここは●●県だから、その駅前だな。
「……わかった、向かうよ」
『いそげ、俺たちもすぐに出る、駅前についたら知らせろ、番号わかるな、〇〇〇ー〇〇〇ー〇〇〇〇に電話をかけろよ。迎えに行く』
そのまま電話は切れてしまった。
いや、急ぎ過ぎだぞ、どうするよ……。
俺はスマホを置いて、再びチームメンバーに向き合った。
「どうするよ、金は用意してくれるけど、向こうも忙しいみたいだし、葬式の場所まで行かないといけない」
「いいんじゃない? 行くだけ行ってみよう。〔本人は来れません、代わりに来ました〕っていつものパターンで私が受け取るよ、郷田さんはバックアップお願い。受け取ったら撤退でいいんじゃない? 」
軽いなぁ城里は、楽天的だ。
「その前に葬儀だぞ、関係者一同がいる中に怪しまれないか?」
郷田さん、まとも。
その前に受け子がいないのが辛いよね。
アシつくから口も軽いし、昔、金城さんがソコから捕まったっていう話で受け子は多重債務者雇うか、アホ雇うからリスクしかないので止めたって話だし。
「その前に車で行くか? 葬儀用とネクタイと黒服とネクタイないんだけど、どーすっか」
「濃紺の奴でいいんじゃない? 黒ネクタイは100均で買いなよ」
「その前に時間だ、調べたけどここから電車で1時間ちょっとか……」
「さっきの電話番号のメモどうした?」
「〇〇県か、遠いなぁ~」
色々準備がある、騙すときは事前の準備がなにより重要だ。
俺たちはすぐに着替えて金城さんに報告し、車の鍵と小道具を借りていく。
――2時間後――。
俺たちは〇〇県にある●●駅のロータリー前に来ていた。
城里に外に出てもらって準備を整える。
スマホのグーグルの地図アプリで場所を確認し、葬儀屋の場所にあたりをつけていた時だった
「――はッ? あのどういうことですか?」
城里はスッとんきょな声をだしていて、事態がよくない方向だと告げている。
「いえ、その、すいません、はい、いえ……すぐに向います」
呆然とする城里。
どうしたんだ? 何かあったのか?
「なんか……〇〇県じゃ無いっぽい、●●県だって」
何言ってる、こいつ、全く違うし、ここから新幹線でいくらかかると思ってんだ。
「おい、城里どういうことだ!」
郷田さん、キレてる。
そりゃキレるよね。
「ちょっと待って、調べるから!」
俺はすぐに駅名を調べた。そしたら同名駅が確かに●●県にある。
市外局番から同じ県だと早計に判断してしまった。
「あった、●●駅だ。えっと、駅前に葬儀屋あるぞ」
アプリの地図をみて確認した事を告げた。
「えッ、本当に!? どうしよう」
城里は焦っている。
「お前、なんで確認しなかった!」
郷田はさらにキレる。
「確認しようが無いじゃん!」
逆キレは本キレかは知らないが言い返す城里と郷田。
「待て待て待て、ケンカしたって結果は変わらない、その前にどうするかだろ?」
俺は冷静に計算した。
怒りは詐欺師にとって一番の不幸を生む。
今回の件は狂ったけど、ここから軌道修正するかにかかっていた。
結局、新幹線のある最寄り駅まで車を飛ばして――俺たち3人は目的地に向った。
――その後。
いや、その後の話はいう事は無い。
収穫とよべるモノは何も得られなかった。
どうしたって?
簡単な事だ、俺たちは●●県についた後、急いで駅前の葬儀屋に向かった。
そこで葬儀は行われていたが――寺井という家はやってない。喪主の名字が違うのか、間違いないのかスタッフに確認をとってもらったが寺井という字の関係者すらいなかったのだ。近隣の葬儀屋は無い、近い所で3.5キロの場所にあるだけ。
そこでやっと城里が再度電話をかけ直して――かえってきたのが『着信拒否』という結末。
そこでわかった、俺たちは騙されていたという事に―――。
冷静になって思い返せば『修二』という人物がいる事が怪しい、もしかしたら作り話かもしれなかった。駅名も晒すのも、正確な位置をいわないのも、電話番号を教えたのも全て怪しい行動だった。
敗因はいくつもある。
1つはこっちが動揺していたという事だ、目の前の金額に冷静さを失っていた、それにずいぶんとトントン拍子に物語が進んでいくから詐術に掛かっているなんて思わなかった。
相手の話から頭の中で勝手にストーリーをつくってしまった事、そもそも電話の主が騙そうとして演技をしていた事、仲間の落ち度に、向こうの事前の準備すべてにやられた。
詐欺師が詐欺にひかっかる事、非常に恥ずかしい事だ。
負け犬のように俺たちは逃げ帰った。
だから、得たモノは何もない。失ったモノは沢山ある、時間と交通費25000円ちょっと、それに疲労感と虚無感。
あぁ、得たモノ1つだけあったわ。帰ったら金城さんの長時間の説教。
そして交通費は自腹で精算、まじブラック企業凄惨。
だから思う。 やめよう STOP 詐欺被害。
エー、どうも、あきら・たなかです。
久しぶりの短編ですが、私生活が元ネタです。
どういう状況下で言うと、家電から母親に電話がありまして、どうやらその相手が“わたし”らしいんですね、その時、休みで家にいまして。
つまり、どんな状況だというと―――。
タイムパラドックスが成立しているんです(違うだろ!)
未来の私からの電話だと思い受話器を変わると何やら違う声で話をする、すっごい動揺しているようだし「あなた、“わたし”ですか? “わたし”も“私”って名前なんですが?」って言ったらガチャ切りされました。
いや~惜しい事をしました、未来からの警告文を受け取る事が出来なかったのが悔しいです。
本当はエープリルフールに掲載予定でしたが、急遽体調(極度の腹痛)を崩しまして遅れました。
楽しんでいただけたら幸いです。
それでは物語好きの人に幸がある事を。