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魔法が使える彼女と僕の日常

夏祭り

作者: 早瀬 要

今日は夏祭り。


道の両端に並ぶ夜店からは煌々と明かりが洩れ、食べ物を焼いているのだろうか、ジュワジュワ、パチパチと美味しそうな音や、キリキリ、ポンッ!ゴロゴロ・・・なんの音か解らない音も聞こえてくる。


沢山の人で賑わう広場。


パッと見は、僕らの世界とはそう変わらないな。と思いながら店を覗いてみる。しかし、それぞれの店をじっくり見てみると、見たこともない不思議な品物や食べ物が並んでいたりする。


そう。今日は夏祭り。


ただし、彼女が通うもうひとつの学校のある「あっち」の世界の。


「へぇ・・・色んな物があるんだね・・・。」


「そうよ、この辺りでは一番大きなお祭りだもの。なんだってあるわ。」


キョロキョロと辺りを見回しながら言う僕に、彼女はクスクスと笑いながら言う。



そして、はぐれないように気を付けて。と、僕の手を握る。一瞬ドキッとしたが、彼女からしたらあちこちの店を物珍しそうにふらふらと覗く僕は、きっと幼い子供が初めて祭りに連れてきてもらった様とよく似ているようで、本当にはぐれないか心配なだけなのだろう。


ちょっとだけがっかりしたけれど、でも物珍しさには勝てず、やっぱりキョロキョロしてしまう。


店先に並べられ続けても溶けないカキ氷。


粉末状の鉱石の量り売り。


乾燥させた薬草の束をバサバサと振り回しながら安さをアピールする猫。


四角い箱の中で人形達が走り回る箱庭。


テントの中にぎっちりと、まさに四方八方に本が積まれている店。


テントの軒に所狭しとガラス球が吊るされた店は、ペット用召喚獣の入った携帯用フラスコ専門店。


(ビン詰めなんて可哀想に・・・。)とガラス球を覗き込むと、中には細々としたエサ入れらしき器や、僕の世界で言うところのキャットタワーの様な遊び道具らしき物が並んでいる。そして、真ん中に置かれたふかふかのマットレスの上では小さな小さな羽の生えた猫の様な生き物が腹を見せ、ぐうぐうといびきが聞こえて来そうなほど爆睡している。思ったよりも、居心地が良さそうだ。


そんな不思議な魔法雑貨の店を、彼女の説明を受けながら見て歩く。


と、ある店の前で僕はふと足を止めた。


それは、飴屋だった。


雛段の奥には動く飴細工。店主の男は黙々と店に並べる飴細工の在庫を作っている。


僕が足を止めたのは、その不思議な飴達の前、雛段の手前に並べられた箱の中の量り売りの飴が、色とりどりで綺麗だけれど、自分の世界の夜店でも見かけるようなあまりに平凡な飴だったからだ。


(へぇ・・・普通の物もあるんだな。)


じっと飴を見つめる僕の横で彼女が呟いた。


「あー、懐かしいなぁ。昔はよくやったよ。あの頃は小さかったからねぇ。なっかなか、上手くはいかなくてね。」


そう言って、彼女は照れ隠しの様に苦笑いを浮かべたけれど、僕にはよく”やった”、”上手くいく”の意味が分からなかった。


「?これって普通に食べるんじゃないの?」


「あ!そっかそっか。君は知らないもんね。・・・よし。数年ぶりにチャレンジしてみるか。おじさん、この星飴2つ下さい。」


訳も分からないまま、飴を買い求める。


「うん、早速やってみますか!」


そう言って、彼女が笑って広場の外れの空き地へ向かって進んで行くのを僕は慌てて追いかけた。


「えっとね・・・こうやってやるの。見てて?」


そう言って彼女は飴を袋から取り出すと、手のひらで包むように持ち、なにかを祈っているような、そんな仕草をした。


と、おもむろに顔を上げ、空に向かって手の中の飴を空へ放り投げた。


「あ・・・!?」


一瞬で見えなくなった。


と、突然の光。


放り投げられた飴はキラキラと光の尾を引いて、ややゆっくりとしたスピードで右方向に落ちて行く。


「わ!待って待って・・・!お・・・とっと・・・!」


それを追いかける彼女。地面から数十センチの所で、危うい体制でキャッチした彼女はやったぁ!と喜びの声を上げながら、キャッチした際に傾いた身体を軽やかな身のこなしで捻り、その場でくるくると2回転して踊るようにはしゃいだ。


そして少し息を切らせて僕の元へ戻ると、飴を口に放り込みながら説明してくれた。


「これはねー。星飴って言うの。願い事を込めて投げると流れ星みたいに落ちてくるのね。それを上手にキャッチして食べると、願い事が叶うって言われてるんだよ。」


「へぇ・・・じゃあ、僕もやってみる!」


「頑張って!」


彼女のマネをして、飴を手で包み込む。


(来年も、きっとまた、彼女と祭りに来られますように。)


そう強く願い、思わず思いっきり握り締めた飴を、僕は勢いよく放り上げた。


飴を追いかけながら、僕はふと、彼女は何を祈ったのだろう。と考えた。


***************************


(来年も、君と一緒にお祭りに来れますよーに!)

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