第58話
「なあ、最近開いた薬屋に行かないか?」
「え? 最近開いた薬屋? 何かいい店があるのか?」
「ああ、そうなんだよ。ほら、昔あっただろ? 凄い質の良いポーション売ってくれる店がさ」
「あー、そういえば……あったな。でも、あそこは確か腕の良い薬師がいなくなったとかでもうダメなんじゃなかったっけ?」
「いや、最近また何かかなり質が良くなったらしいんだよ。前よりも値段は安いし、それに何といっても公爵様公認のお店だぜ?」
「それでもなぁ……」
「おまけに、店員が可愛いらしいぜ?」
「よし行こう」
◆
ララとリフェアに店内の清掃をお願いしながら、私は奥の部屋で今日の分のポーションを用意していた。
作り終わったポーションはすぐにニュナが店へと運び、ララとリフェアたちに品出しを手伝ってもらっていた。
……私は、薬屋に戻ってきた。
それでも住む場所は公爵家のアトリエもあるし、『公爵家の薬師』という契約も終わっていない。
私が戻ってきた理由は簡単だった。
作れるポーションの量が減ってしまったから!
も、もちろんそれだけではない。
や、やっぱり一応家族だし。それに、この家も大事な場所だからね。
後付けではない。ちゃんとした理由だ。
ポーションの準備は終わったので私がお店の手伝いに向かうと、ニュナがララとリフェアの尻を叩いていた。
「ララ、リフェア。ほら、すぐに並べていってください」
「わ、分かったわ!」
「ひぃー……っ! 大変……っ!」
「その大変なことをいつもルーネ様に押し付けていたんですよね?」
あ、あはは……。
二人は涙を流しながら必死に作業を行っていく。
おかげで私のやる仕事はほとんどない。
ニュナの指導もあって、ララとリフェアも前に比べて見違えるほどに清掃や品出しの速度、丁寧さが向上している。
……まあ、このお店再開するまで地獄の猛特訓が二週間ほどあったからできなければ困るんだけど。
まもなく、開店の時間となる。お店の入り口を開けると、すぐに冒険者がやってきた。
「わぁ、綺麗なポーションたくさんある……!」
「本当ね……!」
もちろん、ララとリフェアだって何もしていないわけではない。ポーション造りに関して、私が作り終わったポーションへの色付けなどを行ってもらっている。
……おかげで、かなり店内は明るい色をしている。子どもが時々、見に来ることがあるほどだった。
店が開いてからの対応はララとリフェアにお願いしている。
「い、いらっしゃいませー……!」
ララとリフェアは普段下手な接客なんてしていなかったため、とても頬が引きつっている。
でも、そこはニュナの猛特訓があったことにより、かなり改善されている。
私はそれをぼーっと眺めていたが……そろそろお昼の時間が近づいてくる。
「それじゃあ、レストランの方に行ってきますね」
薬屋の隣に併設してあるレストランへと私は向かう。そちらに向かうと、すでにシェフが開店の準備を行っていた。
「あっ、ルーネ様。本日はよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げてくる。こちらでは、ポーションをメインに簡単な飲食が行えるレストランとなっている。
料理に関してはすべて、屋敷のシェフ見習いが行ってくれる。
まだ見習い中のシェフたちがここで訓練がてら料理を作っているという感じだ。
お店を開けてすぐだった。レストラン側の扉が開いた。
「あっ、ルーネ! 今日も遊びに来たわよ!」
「アイリーン様。お久しぶりです」
「ふふん! 知り合いの貴族にも紹介しておいてあげたわ! 今日もたくさん来るはずよ!」
「そうですか、ありがとうございます」
「それじゃあ早速、いつものお願い!」
アイリーン様はすぐに席へとつき、私の目の前で嬉しそうに座った。
私はこくりと頷いてから、シェフにいつものメニューを伝える。
奥に設置したポーションを温めなおす。こちらも、ララとリフェアと協力しながら綺麗でおいしいポーションが準備されている。
それをアイリーン様の元へと運んでいく。
「相変わらず、美味しいわね」
「ありがとうございます」
そう返事をしていると、すぐにまたレストラン側の扉が開いた。
……入ってきたのは貴族の方たちだ。
……うーん。私の当初の予定では冒険者の人たちが来ると思っていたんだけど、アイリーン様の影響もあってか貴族のお客様が多いんだよね。
なんか、ポーションが肌に良いとかもあるせいかもね。
再び、入店を告げるベルが響いた。
私はそれに合わせ、店内へと誘導するように手を動かし、にこりと微笑んだ。
「ようこそ、ルーネの薬屋へ」
私は笑顔とともに、新しいお客様を席へと案内した。




