第57話
私はバルーズ様とニュナとともに屋敷の一室へと向かう。
来客用の部屋へとつくと、ララとリフェアがこちらを見てきた。
久しぶりに見るララとリフェアは……いつも見るような明るさはなかった。
服装もかなり汚い。
……きちんと洗濯とかしていないようだった。
「それで、一体何のようだ?」
バルーズ様が問いかけながら彼女らの対面にあるソファへと腰かける。
厳しい表情をしているバルーズ様に、リフェアがびくりと肩をあげる。
ララはしかし、そんなリフェアの代わりに口を開いた。
「……ルーネに家へと戻ってきていただくことは可能でしょうか?」
「……何を言ってるんだ?」
バルーズ様がピクリと眉尻を上げた。
「専属契約をした薬師でも、屋敷に滞在し続ける必要はなかったはずです。実際、薬師が薬屋を開きながら、ポーションの納品を行うという場合もありますよね?」
「それはもちろんそうだ。そこはその契約を結んだ領主次第だな」
そうなんだ。私としてはどちらでもいいかなーっと思っていた。
「だが、おまえたちはルーネに対して酷い扱いをしていたようじゃないか。またルーネが戻れば……おまえたちにいいようにされるんじゃないか?」
バルーズ様は、そこを心配されているようだった。
バルーズ様の言葉にララとリフェアはびくりと肩を跳ね上げる。
いっそう、バルーズ様の目つきが鋭くなったからだろう。貴族にここまで睨まれてしまえば、無理もないと思う。
「……そ、それはおっしゃる通りです。それについて私たちは自分たちのこれまでの行動について反省しております」
「どうだか。また繰り返さないとも限らないだろう」
「それは……絶対にしません!」
ララが声を張り上げ、ちらとこちらを見てきた。
「ごめんなさいルーネ! 今、私たちの薬屋は本当に大変なの! ルーネがいないとどうしようもないのよ!」
「ご、ごめんルーネ! 今まで私、酷いことをしてきたから! お願い、戻ってきて!」
ララに合わせ、それまで黙っていたリフェアが声を張り上げる。
ララは必死そうに、リフェアは涙を流しながらこちらを見てきた。
私の方をニュナが見てくる。……返事はどうするの? とばかりの様子で心配そうにこちらを見てきていた。
私はちらとバルーズ様を見る。
……私が何を思ったとしても、バルーズ様に最終の決断は任されている。
「……ルーネ」
バルーズ様は私の名前を呼び、それから小さく息を吐いた。
「薬師としての契約はこれからも続けてもらう。だが、ルーネがどこをアトリエとして選ぶかは……キミが決めてもらってもいい」
「つまり……最後は私の判断次第、ということですよね?」
私の問いかけに、バルーズ様はこくりと頷く。
「最終的な決断はルーネに任せる。……その決断に対して、俺は何も言いはしないさ」
「ニュナはどうなりますか?」
私の問いかけに、バルーズ様は口を開いた。
「これからもルーネの世話係兼、連絡役を行ってもらう」
「分かりました」
私はそう頷いてから、ララとリフェアを見る。
彼女らの方に一歩を踏み出すと、びくりと二人は肩を上げる。
「私は――」
バルーズ様の言葉に私はララとリフェアを見て、口を開いた。




