第51話
夜になったところで、俺の自室の扉がノックされた。
「誰だ?」
「ニュナです」
「そうか、入れ」
「失礼します」
扉が開くと、お辞儀とともにニュナが部屋へと入ってきた。
元々ニュナを呼んでいた。
「ニュナ。ルーネはどの程度動けるんだ?」
彼女を呼びつけていた理由は簡単で、次に魔物狩りを行う際の注意点を聞いておこうと思ったからだ。
……ルーネは、たまに書斎から見るがあまり運動神経は良さそうに見えなかったからな。
「運動面に関してはこれまであまり動いてこなかったのでしょう。そこまで得意ではないと思いますね。ただ、彼女が作るポーションはかなりの威力でしたね」
「……あれもポーションなのか?」
「はい」
「……あれは取り扱い次第では一般人でも戦闘能力を獲得出来るほどの代物ではあったな」
そこまで考えて首を振る。
……いかんいかん。
今はそういう軍事的な話をするために彼女を呼んだわけではない。
あくまで息抜きなんだ。領主としてではなく、一市民のような感覚で魔物狩りをするつもりだった。
「そうですね。最近は、少々使い方を変えていますので……もしかしたら魔物相手にも通用するかもしれませんね」
「なるほどな。当日の楽しみとしておこうか」
俺がそういって微笑むと、ニュナはくすりと笑った。
「どうした?」
「いえ、その……バルーズ様が女性との約束事で嬉しそうにしているのが珍しかったので」
「……べ、別に嬉しいというわけではない。あまり誤解されるような言い回しをしないでくれるか?」
「失礼いたしました。それに、バルーズ様があのようにお誘いするのは珍しいと思いまして」
「……別にいいだろう? ルーネが興味を持っていたからな。一人、二人……魔物狩りの人数が増えようとも変わらないしな」
「それはそうなのですが、バルーズ様はあまり女性と関わり合いになるのが好きではないでしょう?」
……ニュナの言葉に俺は小さく息を吐く。
「……そうだな。ああやって誘ったのは初めてで滅茶苦茶緊張したな。他の貴族たちはよくもああ、女性を誘えるものだと尊敬さえした」
他の貴族たちはそれこそ手あたり次第に声をかける。
家の繁栄のために側室なども認められているからだ。
「バルーズ様は今時珍しいくらい、純情ですからね」
「別にそういうわけではない。俺は普通だ。他の貴族たちがおかしいだけだ」
「ふふ、そうかもしれませんね。それか、ルーネ様のことが気にいった、とかでしょうか」
「気に入った、とかではなくてだな。……純粋に心配しているというのはある。ルーネは何というか……妹みたいというか子どもみたいというか……とにかく、常識外れな部分があるだろう?」
「そうですね。確かに、そういった部分は可愛らしいですね」
「だから、な。純粋に心配しているんだ。……放っておいたら一人で魔物狩りにでも行きそうじゃないか?」
「さすがにそれは私が全力を持って止めますが……」
「とにかくだ。心配に思ってな。それに、騎士たちの士気も上がるようでな。どうやら、この前の遠征以来すっかりうちの騎士たちはルーネを聖女様と崇めているくらいだ」
「確かにルーネ様は聖女様のような人ではありますね」
ニュナがはっきりと言い切る様子に苦笑する。
「とにかくだ。当日は騎士もつけるが、もっとも近くで護衛をするのはニュナになる。頼むぞ」
「はい、命に代えても!」
「……無茶はするなよ」
ニュナは笑顔で頷いた。彼女が部屋を出たところで、俺は窓の外を眺めた。
ちょうど、ルーネのアトリエがそちらにある。
笑顔が良く似合う子ではあると思う。
が、別にそれ以外の他意があるわけではない。
「世の令嬢たちももう少し、権力や金への関心がなくなってくれればな……」
自分に関わってくる女性は皆、俺の家しか見ていないからな……。
ルーネのように特に何も考えていないのならばよいのだが。
……いや、ルーネはもう少し思考をしたほうがいいというか。うーむ、難しいな。
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