第38話
外に出ると、ルーちゃんの背中を撫でていたニュナが顔を上げた。
ルーちゃんがすっと体を起こし、尻尾をぶんぶんと振る。
「それじゃあ、次はルーちゃんの運動にいこっか」
「ガウ!!」
ルーちゃんは嬉しそうに尻尾をぶん回す。
私はそんなルーちゃんとともに一度アトリエへと戻る。
アトリエの庭……というかまあ、屋敷の庭に立った私はボールを構えた。
ぎゅっと握った柔らかなボールをルーちゃんに見せつける。
「いい? ルーちゃん。このボールを取ってくるんだよ?」
「ガウ!」
そう言ってから私は腕をぶんぶんと振り回し、それからボールを投げた。
ボールは一メートルほど先の地面に落ちると、力なく転がっていく。
ルーちゃんは大して走ることもなく、すぐにボールを持って戻ってきた。
「……にゅ、ニュナ。投げ方をもう一度教えてください」
「はい。分かりました。まずはお手本を見せますね」
そういってニュナがルーちゃんからボールを受け取り、それから足を振り上げる。
そして、勢いよくボールを放り投げた。放物線を描き、ボールは空を舞う。
「ガウ!」
遥か彼方まで飛んでいったボールを、ルーちゃんは楽しそうな笑みとともに走り追いかける。
……く、悔しい。ルーちゃんはボール遊びをするとき、露骨にニュナの方へと向かう。
その理由は簡単で、やはりこの投擲力の違い……!
私は何としても、ルーちゃんの飼い主としてニュナの投擲力を身につけたかった。
「このように、ボールというものは体全体を使って投げるんです。……今のルーネ様はボールを投げるタイミング、そして腕の振りが弱いです」
ルーちゃんが戻ってきたのでボールを受け取る。
ルーちゃん! ちょっと残念そうな顔しないで!
私は腕をぶんぶんと振り回した後、思いきりボールを投げた。
凄まじい威力で地面に即当たり、バウンドを重ねる。
ルーちゃんはバウンドを見極め、すぐにボールを口でくわえた。
「……ルーネ様。もう少し投げる角度を意識しましょう」
「ち、力を入れると……今度はそちらが疎かになってしまうんですよね……」
む、難しい。
これまであまり運動をしてこなかったのが原因だよね。
最近は意識して体を動かしているし、ニュナにも色々と指導してもらっているんだけど……。
まずはボールを投げる角度。それをとにかく意識して、投げ込んでいく。
五回ほど投げた私は、肩で息をしていた。
……ボールを投げるのはとても体力のいる動きで、私は疲れ果ててしまっていた。
「……くっ」
「……まだまだ、基礎体力の方がついていませんね」
「ちょ、ちょっと休憩しますね」
私がそういってぺたりと座ると、ニュナの方へルーちゃんがボールを持っていく。
ニュナの投擲を観察しながら、私はニュナに嫉妬する。
……ぜ、絶対私のほうが投擲をうまくなってルーちゃんとのボール遊びでルーちゃんに選んでもらう!
それが今の私の目標の一つだった。
私は柔らかな芝生で体を休めながら、ニュナの動きを観察する。
そして、軽く腕を振ってイメージトレーニング。……うーん、イメージしているときはそれはもう凄まじい投擲を行っているんだけどなぁ。
どうして実際に投げる球はあれほど残念な結果になってしまうのだろう?
私はしばらく脳内でそのイメージを固めつつ、スタミナが回復したところで立ち上がる。
そして、ルーちゃんからボールを受け取り、思いきり投げた。
「おお、ルーネ様! 5メートルくらい飛びましたよ!」
「……ま、まだまだですけどね」
う、嬉しいけどニュナとは比べ物にならない。
ルーちゃんもまだまだ満足している様子はない。
私が次に疲れるまで投げていると、
「最近、ルーネ様は特に運動に精を出していますね」
ニュナの問いかけに私は頷いた。
「だって、屋敷にいる魔物使いの人に話を聞いたら、魔物の育成は一緒に魔物を討伐する方が良いって聞きましたからね」
「……え? も、もしかしてルーネ様……魔物討伐に行こうとしています?」
ニュナが顔面蒼白とばかりの顔をしている。
私は力いっぱいに頷き、拳を固めた。
「はい……! ちょっと冒険者というものにも興味がありましたからね。ルーちゃん育成のためにも、魔物狩りにはいずれ行こうと思っています!」
「無理ですよ!」
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