第35話
それから、数日が経過した。
私はウルフの飼い主探しをしていたんだけど、結局飼い主は見つからなかった。
……今日でこの街ともお別れだ。屋敷に戻る予定だったため、私はウルフを連れて帰ることに決めた。
「ウルフ……いや。ルーちゃん。一緒に帰るのでいいよね?」
「がう!」
ウルフには、名前を付けた。飼い主がいないのならと私はこの子にルーという名前をつけた。
ルーちゃんはこくんっと首を縦に振った。
……会った時よりも一回りだけ体が大きくなっていて、もうさすがにちょっと両腕で持ち上げるのは難しかった。
ウルフの成長ってとても早いみたい。魔物だから、ともニュナは話していたっけかな。
私はその体をひたすらになで続けていた。モフモフで気持ち良い。ポーションをあげたり、餌をあげたりしているうちにふわふわのお布団のように柔らかな毛並みになったため、今はこの子を撫でているだけでかなりの癒し効果を得られた。
ルーちゃんがたくさんいれば、きっと人々のストレスなんてなくなる。それほどの効果がこの子の体にはあると思う。
ルーちゃんの体を撫でながら、出発の準備が整うのを待っていると、こちらに避難所の人たちが数名やってきた。
「せ、聖女様!」
ま、またその呼び方!
恥ずかしいので出来ればやめてほしいんだけど、どうにもそれが定着してしまったみたいだ。
「……えーと、どうしたんですか?」
「本当に、ありがとうございました! 聖女様がいなければもっと大変なことになっていたと思います! わざわざこの地まで足を運んでくれて、本当に助かりました!」
避難所の人たちに頭を下げられ、私は少し照れ臭くなってしまう。
「気にしないでください。私は自分のやりたいことをしただけですから」
頬をかきながらそう答える。
……じ、実際私は自由にたくさんのポーションが作れたから非常に満足していた。
そこまで褒められるほどのことはしてないんだよね?
感謝は避難所の人たちだけではなかった。
「聖女様のおかげで騎士からも死者が出なかったんだ。本当に助かったよ」
「もう、本当に聖女様そのものです。ありがとうございました!」
次々にお礼を言われていく。
男性、女性……年齢層もバラバラと別れていて、私はその一つ一つに返事をするだけでも大変だった。
「ルーネ様。出発の準備が整いましたので、馬車に乗り込んでください」
「わ、分かりました。皆さん、無茶しないように気をつけてくださいね! それでは!」
私はぺこりと頭を下げ、逃げるように馬車へと乗り込んだ。
後からバルーズ様も乗り込んでくる。護衛として、レクリスやニュナも乗り込んできた。
そして、ゆっくりと馬車は出発する。馬車が街を出る瞬間まで、市民たちが手を振ってきたのだ私も窓から手を出して手を振り返しておいた。
た、大変だった。
私が小さく息を吐いてから席に座ると、バルーズ様と目があった。
「今回……おまえにはかなり助けられたな」
「いえ、私は私がしたいことをしただけですし」
「報酬に関してはあとできちんと追加で払う。……とにかく、助かったよ、ありがとう」
「そんな……別にそれほど大きな問題も発生していませんでしたし、私が行くほどだったのかなぁ……とも今は思っているんですよね」
「……それ含めて、ルーネのおかげなんだがな」
「え?」
バルーズ様の言葉に首を傾げた。
「もしも、ルーネがいなければ……確実に今以上に怪我人、死者は出ていたはずだ」
「……そ、そんなに変わるものですかね?」
「ああ、変わる。仮に怪我人だけであっても、後遺症なども残っていたかもしれない。下手をすれば、怪我人から何かしらの病気が発生していたかもしれない。もちろん、何も起きない可能性もなくはないが……俺は確実に何かしらが起きていたと思っている。……そういうわけで、ルーネには助けられた。素早く復興へと移行できたのも、ルーネのポーションによって皆の治療がスムーズに終わったのもあるしな」
「……あ、ありがとうございます」
「ありがとう、はこちらからだ。……本当にありがとう、聖女様」
「そ、その呼び方はやめてください」
冗談めかしてバルーズ様が笑い、私はぷいっとそっぽを向いた。
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