第34話
足を引きずっていた子犬は、銀色の毛並みをしていた。
……ちょうど、今私たちがいる地区は魔物の襲撃を受けたこともあり、ボロボロな部分が目にとまる。
その瓦礫の隙間からその子犬は出てきた。
……もしかしたら、避難が遅れてしまった子なのかもしれない。
私が近づこうとしたときだった。ニュナがすっと私の前に手をかざした。
「気を付けてください。こちら、犬ではなくウルフです。……万が一がありますので」
「……あっ、そうなの?」
見た感じ、普通の子犬という感じだったけどどうやらウルフみたいだ。
ニュナはこくりと頷きながら、首を傾げる。
「……ウルフ、にしては少し毛並みが良いですね。それに魔力もかなり持っているようですね。誰かが飼っていたのか……それとも魔物襲撃の際に外から流れこんできたのか」
「……くぅん」
ウルフを分析していると、再びウルフは鳴いた。
その場でべたりとおすわりをして、こちらを窺うように見てくる。
か、可愛い。
ウルフはやっぱり足を怪我しているようだ。これを見捨てるなんてことはできるはずもない。
「とりあえず、治療しませんか?」
私がそういうと、ニュナは考えるように顎に手をやった。
「……そう、ですね。敵意は感じられませんし、それにかなり賢い個体のようですしね」
ニュナの許可も下りたところで、私は腰に下げていたポーションを一つ掴んだ。
「魔物の治療にもポーションは効くと聞きましたけど、大丈夫なんですかね?」
私はあくまで知識を持っているだけで、そんな話を聞いたことはなかった。
私はウルフの傍らで膝をつきながら、ウルフの口元へとポーションを運ぶ。
「問題ないと思いますよ」
ニュナの発言を裏付けるように、ウルフの口元へとポーションを運ぶと、ウルフはこくこくと飲んでいく。
その口元に注ぎ込むようにポーションの瓶を傾けていく。
ウルフは目を細め、どこか落ち着いた表情へと変化していく。
そして、ポーションを飲み終えたところで、ウルフが軽く足を動かした。
「きゃん!」
嬉しそうにウルフは声をあげる。甲高い鳴き声だ。
元気になったようで、先ほど引きずっていた足なんて嘘のように私の周りを走り始めた。
尻尾をぶんぶんと振って、ウルフと言われなければ分からないほどに子犬だった。
可愛かったので両手を広げると、ウルフはこちらにやってきて体をこすりつけてきた。
その体を抱きかかえる。まだ子犬ということもあって重くはない。
「この子の飼い主を探しましょうか」
「そうですね」
私が頭を撫でてあげると、ウルフが嬉しそうに鳴いた。
それからしばらく、私たちはウルフを抱えたまま街を歩いていった。
まずは避難所。魔物によって破壊されてしまった地区の人が集まっている。
ウルフを発見した地区だから、ここに飼い主もいるだろうと思ったんだけど……
「……いえ、見たことないですね」
「いやぁ、知らないですね……」
「そうですか。今ここにいない人にも念のため確認しておいてください」
私がそういうと、避難所に集まった人々はこくりと頷いた。
「聖女様の頼みですし、分かりました!」
……ここでも聖女様、という呼び方が共通していて少しむずがゆい気持ちにさせられた。
そうやって街を回っていったんだけど……誰もこの子を知らないようだ。
「……首輪もつけていませんでしたし、もしかしたら野良のウルフという可能性もありますね」
そうだよね。ニュナが言った可能性がもしかしたら一番高いのかもしれない。
私はウルフを両手でぐいっと持ち上げる。
目が合うと、ウルフはこてんと首を傾げた。
「もしかして、飼い主とかいないの?」
「うう?」
「……うーん、よく分からないけど。もしもいなかったらどうしよっか。このまま見捨てるのはかわいそうだし、屋敷で飼うこととかできるのかな?」
私は再び胸元でウルフを抱えると、ニュナが考え込むように腕を組む。
「屋敷内にも色々な魔物を飼っていますから問題はありませんが、ウルフを育てる費用に関してはルーネ様持ちになってしまうかもしれませんね」
「それは別に大丈夫なんだけど……そっか。とりあえず、今日は一緒に部屋に戻ろっか」
「きゃう!」
ウルフが嬉しそうに尻尾を振り回した。
か、可愛い。
……飼い主がいるのなら、見つかるのが一番だけど。
この子を飼ってみたい気持ちも生まれていた。
【重要なお知らせ!】
日間ランキング上位目指して更新頑張ります!
・ブックマーク
・評価の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」
をしていただきますととても嬉しいです!