第30話
すぐに出発の準備は整えられ、私たちはアギレイズの街へと向けて出発した。
私が乗り込んだ馬車を挟むようにして、二台の馬車がついてきている。
今日から一日もあれば、アギレイズの街には到着する予定だそうだ。
現在時刻はもう20時を過ぎたところで、空はすっかり暗くなっている。
涼しい夜風に美しい星々と、外の世界は見ていて心が透き通るような感覚にさせられるけど、今はとても危険な夜。
気をつけて進んでいかないとね。
私たちの馬車には、騎士数名とニュナ、レクリスが乗っている。
「回復魔法を使える人まで先行部隊に付けるとは驚きだね」
沈黙を破るようにして、レクリスがそういった。
「そうなんですか?」
私が疑問に思って首を傾げると、レクリスはぽりぽりと頬をかいた。
「まあね……基本的に回復魔法が使える人って少ないんだよ」
「え? どのくらいなんですか?」
「一つの領に一人いたらいい方かな?」
「そ、そうなんですね」
「回復魔法は生まれ持っての才能が必要だからね。まあ、回復魔法は確かに便利だけど怪我をふさぐので精一杯だから、やっぱりポーションは必須になるけどね」
「……あっ、それは聞いたことありますね」
回復魔法とポーションでは役割が大きく違う。
ポーションは傷を内側から治し、回復魔法は傷を外側から治すもの、というのが基本的な考え方だ。
ポーションは基本的には体内へと摂取することで効果が表れる。どちらかといえば、自然回復力を高めるものという考えだ。優秀なポーションほど、それを過剰なまでに引き上げるため、一瞬で傷がふさがるようなことも出てくるんだよね。
回復魔法は傷を塞ぐ方が得意。
大けがを負って出血多量になってしまった人がいる場合などは、回復魔法の方が便利だ。
もちろんポーションも傷口にかけることで回復魔法と似たような効果を得られるし、優秀な回復魔法使いは傷口を内側から治療できる人もいるみたいだけど、そこはまあ結局はその人の才能によるところが大きいんだよね。
レクリスとニュナと改めてその違いについての話を聞いているときだった。
馬車が止まった。
「魔物が発見されました! ルーネ様は馬車内にて待機していてください!」
騎士たちがそう言って、外へと出る。それにレクリスも付いていき、ニュナは私の護衛としてその場に残った。
私も気になった馬車の窓からひょこりと顔を出した。
「ルーネ様、危ないのであまり顔を出しすぎないでくださいね」
「だ、大丈夫ですよ」
「万が一窓から落ちたら大変ですからね?」
「さすがに落ちないですよ!」
まるで子ども扱いだ。ニュナが心配げにこちらを見ている中で、私は馬車の先へと視線をやる。
……魔法で明かりを作ったのか、前方はよく照らしだされていた。
騎士たちが集まっていて、魔物と戦っていた。
わりと一方的な状況だった。魔物の数が少ないのもあるんだろうけど、単純に騎士たちが強いんだ。
そこにはレクリスの姿もある。レクリスは……凄い動きをしていた。
「あ、あれレクリスなの?」
「はい、そうですよ」
普段は穏やかな微笑を浮かべていたレクリスは、その微笑を携えたまま魔物たちをバッタバッタと切り裂いていく。
「レクリス様はバルーズ様の屋敷に拾われてからは今まで以上に剣を学んでいまして、屋敷内でもそれなりの実力者ですからね」
「そ、そうなんですね」
……あ、あの笑顔が逆に怖いよ!
レクリスとだけは絶対に喧嘩をしてはいけない。
そう思わされた。
道中危険はなく、アギレイズの街が見えてきた。
……予定よりもずいぶんと早い。
まだ、昨日から半日程度しか経っていないと思う。
私からしたら、夜眠っていたら着いたという感じだった。
アギレイズの街へと馬車が入り、私たちは騎士が拠点にしているという詰め所まで来ていた。
そこには、すでに錬金釜が用意されていた。
「事前に、手紙を送り、製作から配分がスムーズに行われるような状況を作っておきました。それではルーネ様……よろしくお願いします」
……なるほど。そういうことなんだね。
ここまで私は特に何もしていないから、頑張らないとね!
「分かりました。すぐにポーションを作っていきます!」
【重要なお知らせ!】
日間ランキング上位目指して更新頑張ります!
・ブックマーク
・評価の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」
をしていただきますととても嬉しいです!




