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薬屋の聖女 ~家族に虐げられていた薬屋の女の子、実は世界一のポーションを作れるそうですよ~  作者: 木嶋隆太


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第28話


「む、虫……っ!」


 部屋の掃除をしているとニュナが悲鳴をあげた。

 彼女の悲鳴を聞きつけた私がそちらに向かうと、窓ガラスからすーと一匹のクモがそこにいた。

 

「ニュナ、どうしました?」

「る、ルーネ様! お気をつけください……! む、虫がいます!」


 顔を青ざめ、がたがたと震えていた。

 

「ニュナ、大丈夫ですよ」

「な、何がですか?」

「このクモは毒はなく、害虫を駆除してくれますので問題ないんですよ」

「し、心理的な問題で無理なんです! と、というかルーネ様は虫は大丈夫なんですか!?」

「え? はい、まあ大丈夫ですね」


 薬屋で虫が発生した場合は、だいたい私が処理をすることになっていた。

 といっても、虫が出現することがほとんどなかったので、私の出番はそれほど多くはなかったけど。


 ニュナは箒を構え、クモと睨み合っている。

 ここで暴れると、掃除がさらに大変になりそうだし、何よりもクモが可哀想。

 私はクモを外に逃がすため、ニュナとクモの間に割って入った。


 じっと顔を近づける。

 クモは少しだけぷらんぷらんと体から伸ばしていた糸を揺らしてみせる。


 日向ぼっこでもしていたのかもしれないけど、ニュナが怯えてしまっているのでごめんね。

 私はそっとクモの体を掴み、外へと向かう。庭に置いたところで、私は部屋へと戻った。


「もう大丈夫ですよ、ニュナ」

「……た、助かりました。それにしても、まさか虫が大丈夫だなんて……さすがですね」

「私も少し驚きました。ニュナは色々と完璧にこなすので、苦手なものなんてないのだと思っていましたけど」

「完璧、とは思っていませんが……とにかく、虫はダメですね。……メイドとして情けなくて申し訳ございません」

「大丈夫ですよ。誰にだって苦手なものはありますから」

「……そう言っていただけると助かります」


 ニュナがほっとしたように息を吐く。

 私も、あんまりお化けとかは好きではないので、ニュナの気持ちも分からないではなかった。


 朝食を頂いた後、すぐに今日の納品予定の100個のポーション製作を行ったときだった。

 アトリエの玄関がノックされた。

 

「私が対応に行ってきますね」


 私のポーション製作を見守っていたニュナがそう言い残して一階へと向かう。

 誰だろう? この時間に来訪する人はこれまでいなかったから少し気になる。


 そんなことを考えていると、階段を上がってくる音がした。

 それも、ニュナだけじゃない。

 騎士、かな? なんだか鎧の揺れるような金属音とともに、やがて私の部屋がノックされた。


「ルーネ様、今お時間よろしいでしょうか?」


 男の人の声だ。

 一体誰だろう? ニュナがここまで案内しているってことは、何かしらの用事があるんだろうけど。


 それら含めて、非常に気になりながら私は声をかけた。


「はい、大丈夫ですよ」


 私は答えながら体を扉のほうへと向ける。

 ニュナが扉を開け、そこから騎士が入ってくる。

 見覚えのない人だ。彼は丁寧に膝を曲げ、頭を下げながら一枚の紙を渡してきた。


「これは……バルーズ様からですか?」

「はい」


 私はその紙へと視線を向ける。

 そこに書かれている内容は簡単だった。


『領内にあるアギレイズの町近くで大量の魔物が発生した。緊急での対応になるが、ポーションを出来る限り製作しておいてほしい』


 ……そういうことのようだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 蜘蛛に怯えるニュナ。かわいいですね!
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