第27話 ララ視点
あたしは……家の惨状を嘆いていた。
……ポーションの製作を行っても、誰も店に買いに来てくれないのだ。
公爵家のお墨付きだったという唯一の後ろ盾も失い、本格的に客が足を運んでくれることがなくなってしまった。
……問題はそれだけではない。
部屋はどんどん汚くなっていく。
既に、店部分だった場所は埃などが目立つようになってしまい、とてもではないが店を開くことはできなかった。
そして、追い打ちをかけるような出来事に今遭遇していた。
「薬草は一つ300ゴールドかね?」
……はぁ!?
いつも納品に来ていた商人が、突然薬草をふっかけてきたのだ。
薬草の相場は高くても100ゴールドほどだ。
今までは50ゴールドほどで購入していたのに、その六倍なんてありえない。
「ふざけんじゃないわよ! 今まで通り50ゴールドで――!」
「じゃあ、オレは別に取引先があるんでね。そっちは130ゴールドで買い取ってくれるからさ。じゃあな」
「ちょ、ちょっと……!」
呼び止めたけど、今の私たちにお金がないことを知っている商人は、そのまま立ち去ってしまった。
露骨に足元を見られている。
商人が言っていた別の取引先とは、恐らく今流行りの安いポーションショップのことだろう。
……向こうの店が、うちを潰すために商人から少しでも高く薬草を買い取っているに違いない。
ムカつく。
けれど、あたしたちにはどうすることもできなかった。
「ララ、どうするのよ?」
リフェアの問いかけにあたしは眉間を寄せる。
……あたしに聞くんじゃないわよ。
あたしだって、彼女の疑問への返事は持ち合わせていない。
「ど、どうするって……どうしようもないでしょ!?」
あたしが声を張り上げる。リフェアが苛立ったように眉尻をあげた。
「なんでいきなり怒鳴りつけてくるのよ!」
「当たり前でしょうが! ああ、もう! なんでこんなことになっているのよ!!」
あたしたちが頭をかきむしっていると、リフェアがため息をついた。
「とりあえずさ、私腹減ったから何か食べたいんだけど。どっか食べに行かない?」
「あんた今の家の状況分かってんの!? 食事なんてしている余裕ないわよ! もうほとんど貯金ないのよ!?」
公爵家からの依頼によって得た金はすでにほとんどが無くなってしまっていた。
……毎日外で食事をして、薬草を今まで通りに購入していたからだ。
ポーションはすっかり売れず、これまで購入してきた薬草のすべてが無意味なものになってしまっていた。
「はぁぁぁ!? 何よそれ! 姉さんのポーションがゴミなのが原因なんじゃないの!?」
「あんたのが、よ!」
あたしたちはしばらく睨み合い、それからキッチンへと視線を向ける。
そちらも、ずっと放置して汚れてしまっている。
あたしは顎をしゃくりあげるようにして、リフェアを見た。
「……あんた、何か作りなさいよ」
「姉さんが作ってよ。私、料理なんてできないし」
「……使えないわね」
「はぁ!? それは姉さんにだけは言われたくない!」
そう叫んだ時だった。部屋の隅に黒い虫が動いた。
「ぎゃあ!? 虫よ!」
「ちょ、ちょっと姉さん! なんとかしてよ!」
「む、無理よ! こ、こういうときいつもルーネが捕まえてたんだし!」
あたしたちは抱きしめあって、虫が立ち去るのを見守っていた。
しかし、黒い虫――ゴキブリはまっすぐにこちらへと突っ込んできた。
「ぎゃあ!」
「わ、私は美味しくないから! 姉さんのほうに行きなさい!」
「あ、あんたちょっとマジ、ふざけんなって!」
……あたしたちはひとしきり家の中を逃げ回った後で、息を吐いた。
「……とりあえず、金になりそうなものを売るわよ」
「……え!? ふ、服とか売りたくないんだけど!?」
「そうしないと、ごはんだって食べられないでしょ!? あんた、服のために飢え死にするつもりなの!?」
あたしがそう言うと、リフェアは今にも泣きそうに顔を歪め、声を荒らげた。
「……な、なんでこんなことになったのよ!」
「知らないわよ! とりあえず、お金を手に入れるわよ!」
あたしが叫ぶと、リフェアは悔し気に唇を噛んでから、こくりと頷いた。
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