第26話
夜。夕食の後、外がすっかり暗くなってから私はニュナとともに屋敷内を歩いていた。
目指すはもちろん、レクリスの花畑だ。
「レクリス様の花畑はこの屋敷でも特に人気なんですよ。屋敷で舞踏会などが開かれたときには、皆がこぞって足を運ぶほどですからね」
「そうなんですね……そんな人気の場所であれば、レクリスももっと自信を持っても良さそうですけど……」
「……レクリス様は元々子爵家の三男だったそうですよ。花が好きで、いつも花の世話をしていたら……その、女々しいやつだと父に怒られ、最終的には追放されてしまったとか」
「……そうだったんですね」
レクリスも、色々と苦労しているんだなぁ、と思った。
そんなことを考えながら歩いていくと、暗い中に光が見えて来た。
……なんだろう? 気になった私の足は、自然と早歩きになる。
どんどん光は近づいてくる。そして、その光の正体に気付いた。
それは花だった。
夜の中で、それぞれの花がそれぞれの色を示すように光を放つ。
少し意識すると、周囲に魔力が満ちているのがわかる。
……これは、花から生み出された魔力なのかな?
赤、青、黄……それらを基本とした花々が光をあげながら風に揺られ左右に動く。
それはまるで、花々がダンスをしているかのようだった。
美しく揺れる花々に私が見とれていると、ニュナが隣に並んだ。
「こちらにある花は、日中の間魔力を溜め込み、溜め込んだ魔力を放出して夜の間光を放つお花だそうです」
「……とても綺麗ですね。はじめてみました!」
「そうですね。こちらの花々はとても世話をするのが大変だそうで、中々このように育つことはないそうなんですよ」
……つまり、それだけのものをレクリスは作っているんだ。
それなのに、レクリスは自分の腕に自信を持っていないようだった。
こんな綺麗な花を育てられるのは、凄い才能だと思うんだけどね。
「あっ、来たんだね」
と、花畑のところからひょこりと顔を出したのはレクリスだった。
ちょうど、花の世話でもしていたのだろうか? 少し土がついていた。
話したいこともあったので、私は彼へと近づく。
「レクリス、とても綺麗な花ですね」
「……ありがとね。そう言ってもらえるのはとても嬉しいよ」
「このお花たちはとても育てるのが大変だと聞きました。それをこんなにたくさん育てるなんて凄いですね」
「一度こうして育ち切ってくれればそこまででもないんだよ? なんなら、何日か放置したとしても何とかなるくらいにはね」
「その育ち切るまでが大変なんですよね。そこまでしっかりとお世話ができるのは凄いことだと思いますよ」
「……でもね、花の世話なんて男の仕事じゃないって思わない?」
レクリスがそう言ってきて、私はきょとんとしてしまう。
先ほどニュナが言っていたことが頭をよぎる。
「男だからですか?」
「……うん、そうだよ」
「そんなの関係ないです! 好きなものに一生懸命になることは別に悪いことではないと思います。……ですから、誇っていいことですよ。誰が何と言おうとも。自分の好きなものを認められるのは自分だけですから!」
私の言葉に、レクリスは驚いた様子できょとんと眼を見開いてからくすりと笑う。
「……ありがとう。そうだね」
「いえ、気にしないでください。すみません、その無責任なことを言ってしまって」
「いや、大丈夫だよ。……そう言ってもらえて、嬉しかったからね」
「そうですか?」
ほっと息を吐いた。
レクリスを傷つけるようなことを口にしなかったようで、ほっとする。
「まだ見ているの?」
レクリスが問いかけてから、花畑のほうを見る。
私もつられるようにして視線をそちらに向け、こくりと頷いた。
「はい。もうしばらくはこちらにいさせてください」
「そっか。あっ、そうだった。また何か、薬草のことで質問があればいつでも言ってね?」
「ありがとうございます!」
私はそれからしばらく、その花畑を眺めていた。
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