第25話
レクリスと名乗った彼は、笑うのが苦手なのか少し引きつったような笑みを浮かべていた。
……あるいは、私が苦手とかかな?
そんなレクリスに対して、私もぺこりと頭を下げた。
「レクリス、初めましてです」
「うん、初めまして。キミが確か……その薬師のルーネだよね?」
「私のこと知っているんだ?」
「一応ね。以前、土をいくつか欲しいって頼まれたからね」
私は台車で運び込まれてきた土の入った袋のほうをちらと見た。
それは今は日陰に立てかけられている。
袋の口の部分は開けていて、そこからは魔力土のほうが見えるようになっていた。
……私も色々と薬草を育てるために組み合わせてみたけど、いまいちうまくできてないんだよね。
「そうなんですけど……そのうまく薬草と合わせることができなくて」
私がそういうと、レクリスはちらと畑を見た。
今も薬草が生えわたっている様子を見て、彼は顎に手をあてた。
「……そっか。畑のほうは連続で薬草を育てる感じにしているのかな?」
「はい。ただ、それだとやっぱり土が疲労してきちゃうのでなるべく魔力土を足していっているんですけど」
「それは正しいと思うけど……ちょっと待ってね」
レクリスはそちらに近づいて、土を掴んでみる。
それを何か所も回っていく。
「薬草の土は、どちらかというと中性寄りの魔力土が良いみたいだね」
「中性?」
「そうなんだ。……うーん、分かりやすく言うと、魔力土ってプラスとマイナスがあってね、この畑の土は今マイナスに寄っちゃってるんだ。だから、プラスの土である……そうだねタナ魔力土を追加していくと薬草が好みの土になるんじゃないかな?」
「タナ土ですね! 分かりました!」
私はちらとタナ土と書かれた袋へと近づき、薬草の部分に土を追加していく。
「あと、やっぱり畑は半分、半分で分けて薬草を育てていったほうがいいかな? 半分で作業を行って、もう半分は一度土を休めながら、調整をするためにね」
「……そうですか! 分かりました、今度からそうしてみますね。……それにしても、ほんとうにとても詳しいですね!」
「まあ、それが僕の仕事だからね。それにしても、薬師の方は……自分でも薬草を育てないといけないんだね」
レクリスがこちらをじっと見てきた。
私はそれに対して、首を横に振る。
これは、完全に私の仕事ではなかったからだ。
「これはどちらかというと趣味の部分が強いですかね?」
「あっ、そうなんだ」
「はい。自由に薬草を作れるようにっていうのもあってですね」
家にいたときはここまでしっかりとは薬草の栽培はしていなかった。
色々と参考になる部分がありそうだ。
「なるほど、そうだったんだね。土のことで困ったらいつでも聞いてくれていいからね」
「分かりました! それじゃあ早速その、畑の半分を整えていきたいと思うんですけど、どうするのがいいですかね?」
「……そうだね。とりあえずは、不必要な薬草を一度取り除かないといけないね」
「分かりました! それじゃあ、すぐに取りますね」
「あっ、言ってくれれば僕も手伝うからね」
「ありがとうございます」
レクリスに手伝ってもらいながら、私は畑の調整を行っていく。
「レクリスは庭師ってことは、お花とか木々とかの手入れをしているんですか?」
「うん、そうだね。一応はこの屋敷の全部を見ているよ」
「……はぇー、そうなんですね」
凄いなぁ……。
私の畑からでも綺麗な葉や花を見せる木々の姿があった。
それらをすべてレクリスが管理しているなんて凄い事だと思う。
レクリスの年齢は私とそれほど変わらないのにそれなのだから、本当に凄いと思った。
「そういえば、ルーネ様はレクリス様の花畑は御覧になりましたっけ?」
「え? それ知らないですね」
ニュナの言葉に私は首を傾げた。
花畑、という言葉はこれまで一度も聞いたことがなかった。
ニュナがにこりと微笑む。
「それでしたら、今夜見にいきましょうか?」
「これからでも大丈夫ですよ?」
もうすぐ、畑の調整も終わるところだ。
私の言葉に、ニュナは首を横に振った。
「レクリス様の花畑は夜のほうが美しいんですよ。ね、レクリス様」
「ま、まあ……そうだけど。そんな、大したものじゃないから……」
レクリスはどこか自信なさげに頬をかいていた。
……でも、ニュナがそこまで言うのならきっと美しいものなんだと思う。
「とりあえず、今夜見にいきましょうか。レクリス、見てもいいですか?」
「……もちろん、その僕に否定する権利はないしね」
そういって頬をひきつらせていたレクリス。
一体どんな花畑なんだろうか?
私は楽しみで仕方がなかった。
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