第20話
その日の夜。
バルーズ様の仕事が一段落する時間にお願いして、私はもう一度面会させてもらった。
時間を作ってもらったことに感謝しながら、私はトレーに乗せたポーションを持ってバルーズ様の部屋へと訪れた。
バルーズ様の部屋入り口には騎士がいた。ぺこりと頭を下げると、にこりと微笑んで騎士が扉を開けてくれた。
「どうぞ、バルーズ様がお待ちですよ」
「あ、ありがとうございます!」
「いえいえ、気にしないでください」
私はそのままトレーを持ってバルーズ様の自室へと入った。
バルーズ様は本を片手に持っていた。私に気づくと、本に栞を挟んでこちらを見てきた。
少し、疲れているようにも見えた。
「昼以来だな。昼のときは心配をかけてしまってすまなかった。……それで、何か用事でもあったのか?」
「はい、そうですね。こちらをお飲みください」
「これは?」
「疲労回復ポーションになります」
私がそういうと、バルーズ様はこくりと頷いてから部屋にいた騎士が私のポーションを見て、こくりと頷いた。
多分、毒などが入っていないかの確認をしたのだろう。
「すまない。キミのことはもちろん信頼しているが……」
「いえいえ、そんな気にしていませんから! どうぞ、お飲みください!」
私はすっとトレーごとバルーズ様の机に置いた。
少し緊張する。バルーズ様は、すっとコップへと手を伸ばす。
細く、しかし確かな筋肉がついている腕が動き、そのコップを口元へと運んでいく。
バルーズ様はゆっくりと口をつけ、そして――
「……に、苦い!」
バルーズ様はそれに口をつけ、眉間を寄せた。
「こ、これは誰が作ったんだ?」
「私です。疲労回復の効果はしっかりとありますので、飲んでみてくれませんか?」
「……飲めなく…はないが……とても苦いな」
バルーズ様はこくこくとポーションを飲んでいく。
しかし、やはり苦みがあるためか、そのペースは決して速くはない。
「キミのポーションはとてもおいしかったが、今回は失敗してしまったか?」
「いえ、成功です」
「この苦みが、か?」
「はい。味を苦みで整えました」
「な、なぜ? もしかして……嫌がらせか?」
「違います……。薬は苦くしろ、と母に教えてもらっていたんです。今回は薬ではありませんけどね」
「母……キミの師か? どうして苦くしろと?」
私は小さく頷いてから、どうしてその味付けにしたのかについて教えるために口を開いた。
「薬は決して美味しいポーションはダメなんです。だって、美味しいポーションをあげたら……また薬を飲むために風邪をひいてしまうかもしれませんよね?」
「……ああ、なるほど。そういうことか。……つまり、キミがこれを俺のために持ってきてくれたのはもしかして――」
「はい。……私も領主様のお仕事についてはわかりません。でも、それでもあんまり働きすぎて倒れてしまって、その後仕事が出来なくなったらダメなんじゃないかな? っていうのはわかります。だから、倒れないように気をつけてくださいね」
「倒れたらまたこのポーションを飲むことになるのか?」
「そ、そうですね。ま、また苦いポーションを飲みたくない場合は、倒れないように気をつけてくださいね」
「その時は面会拒絶でもしようかな」
「し、使用人にこっそり運んでもらいます」
バルーズ様はくすくすと笑っていた。
「そうだな。……確かに。結果的に今日はみんなに迷惑をかけてしまい、俺にかかりきりの時間を作ってしまったな。それらを考えれば、皆の仕事効率も落ちていたし……今後は気をつけるべきだな」
……バルーズ様は何やら難しいことを言ったあと、こちらを見て微笑んだ。
「ありがとうルーネ。疲労回復ポーション助かったよ。体が少し軽くなった」
「……いえ、私も苦いポーションを飲ませてしまってすみませんでした。お休みになれば、明日の朝までに体全体に効果もいきわたって、今日よりもラクになると思いますから」
「意地悪ではないんだろう? ならばいいさ。気にしないでくれ」
……良かった。
私は安堵の息をついてから、頭を下げた。
「それでは……私の用事は以上ですので、失礼しますね」
「……ああ。キミも、あまり仕事をしすぎないようにな?」
「はい、バルーズ様も」
「ああ、分かっている」
私は最後に一礼を残し、部屋を後にした。
【重要なお知らせ!】
日間ランキング5位でした!
1位を目指して、更新頑張っていきますので、
・ブックマーク
・評価の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」
をしていただきますととても嬉しいです!