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街に行こう〜美女の笑顔、プライスレス

ただいま、身分証の正式発行のため役所に向かって移動してます。………抱っこで。

年齢カミングアウトして子ども扱いを改善したはずなのに、ドウシテコウナッタ。


って、理由は2つ。

1、本日3日に1度の市が立つ日で、大通りは人がいっぱい。ア〜ンド、道行く人はみんなデカい。

2、私の歩く速度が遅すぎて人混みにのまれる、滞らせて迷惑かけるのダブルコンボ。


身長差が50センチくらいあるとね、視界から消えるんだよ。で、急ぎ足の人に引っ掛けられて転びかかるの。残念ながら衝撃に弱いから、ね。

手を繋いでもらっても転びかかったり、はぐれそうになる事、数度(なんでか繋いだ手が外れちゃうくらい強く引っ張られたりぶつかられちゃうんだよ。な〜ぜ〜)。


「危ないから」と有無を言わさず抱き上げられた。

うう、なんだか周囲の視線が痛いのは自意識過剰?

ワイルド系美青年が子供を抱っこ………。

親子っていうには微妙な年齢差。兄妹って言うには明らかに似てない(平凡顔ですみません!)

…………そりゃ、目立つよね。

気の所為か、アーシュさんの周囲を見渡す視線も鋭いし、恥ずかしいんだろうなぁ。


「…………なんか、………ごめんなさい」

居た堪れなくて誤れば、キョトンとした顔で見下ろされた。

「なにがだ?こっちの方が安全だし、俺も安心だから、この方が嬉しい」

………笑顔がまぶしい。


なんでアーシュさんの笑顔ってあんなに甘々なんだろう。

黙ってると整ってるせいもあってきつめの顔立ちなんだけど、笑うと途端に柔らかくなるんだよね。

コレがギャップ萌え?!

私、新たな萌えに開眼しそうです!


なんて、内心悶えている間にいつの間にか役所に到着。

私が歩いてた時間の半分くらいで着いたよ?

意外と近かったのか、アーシュさんの足が速かったのか………私がトロかった?なんて認めません!





到着した建物は白壁のストンとした2階建てで、中に入ればカウンターに無表情なお姉さんが座ってた。

まさに、「お役所」。

孤児院から独り立ちする時、手続きに何度か行ったけど、あんまりイイ思い出ないんだよね………。

無愛想にたらい回しか、やたら愛想がいい割りに言葉の端々に上から目線が見え隠れしてて。


「すまないが、住民登録を」

私を抱いたままのアーシュさんが、カウンターに近づき声をかける。

「では、こちらの書類に記入をお願いします」

無表情なままのお姉さんが、目線をあげないまま書類を背後の棚から引き出して渡す。

どうでもいいけど、美人さんの無表情ってチョット怖いよね。


「ああ……。と、さくら、字は書けるか?」

開いた手で書類を受け取ったアーシュさんが、ふと思いついたというようにコッチに書類を向けてきた…………けど。

「…………わかりません」

言葉は問題なく通じたから期待してたけど、残念ながら文字には適応されなかった模様。

謎の言語が並んでました。

チョットハングル文字っぽい、かな?

首を横に振ってしょんぼりと肩を落とすと、慰めるように頭を撫でられた。


「…………あの、そちらのお嬢さんの登録なんですか?」

ふいに女の人の声に顔をあげると、受付のお姉さんがこっちを見ていた。

なぜか、さっきまでの事務的な無表情ではなく、キラキラの笑顔で。

「ああ。縁あって保護することになったんだ。遠方からの旅人だったようで、森で魔物に襲われていた所を助けたんだが、残念ながらさくらを残して全滅だった」

お姉さんにアーシュさんが堂々と答える。

あ、そういう設定ですね。了解しました。


「そんな。こんな小さい子が可愛そうに」

途端にお姉さんの顔が曇る。

今にも涙がこぼれてしまいそうなウルウルお目目に罪悪感が半端ないんですが。

ごめんなさい。それ、嘘設定ですから・・・・。なんて、言えるわけもないので気まずさをごまかすようにうつむいたらさらに誤解を助長させたもようで。

カウンター越しに身を乗り出し優しく頭をなでなでされた挙句、書類書き込みの為にとわざわざ別室にご案内されました。

なんでも代筆するにも聞き取りに辛い思いをするかもしれないし・・・って。


辛い。

人の善意が辛いです。

だって、紅茶にケーキまで出てきたんだよ。

明らかに特別扱い。

さらに、あんなに無表情だったお姉さんが、慈愛に満ちた微笑みで隣りに座ってケーキを「あーん」してくれてたりね?

いや、案内されたソファーセットが大きすぎて座るとテーブルに届かなかったせいなんだけどね?

いたたまれなくて、早々に年齢カミングアウトしたにもかかわらず、扱いは変わらなかった。

げせぬ。


ちなみに、頼みの綱のアーシュさんは書類書きに忙しく、お姉さんの独壇場(正確にはさくらに気づかれないところでの攻防戦があって、「さっさと書類書け」の威圧にまけた模様)

お名前はラザイアさん。光栄にも「お姉ちゃんって呼んでね」って言われましたよ。呼ばないけどね?書類書きながら、アーシュさんが「じゃあ俺も・・・」とかつぶやいてたけど、呼ばないからね?!

ケーキにお茶、さらには口元が汚れてるときれいなハンカチでぬぐっていただきましたよ。ははは・・・・。


途中で、入ってきた上役っぽい男の人が驚いた顔してたから、たぶん、ラザイアさんの笑顔はかなり貴重品なんだと思われる。

どうやらラザイアさん、受付業務を放置してここにいたらしく、交代に来た男の人に促されてしぶしぶ戻っていった。男の人とすれ違いざまに小さく舌打ちが聞こえて、上司らしい男の人の顔色が悪くなったけど、私は何も見えません。うん、気のせい、気のせい。


「で?森で拾ったって?」

気を取り直したらしい男の人が対面のソファーに座るとアーシュさんに話しかけてきた。

「ああ。旅人がな・・・」

「いや、昨日お前が行ってたの北の森だろ?そんなところ旅人が通るわけないだろうが」

ラザイアさんに言っていた設定を繰り返そうとしたアーシュさんを男の人があきれたように遮った。

それに舌打ちをすると、アーシュさんが書き終わったらしい書類を相手に押しやる。


「なんでお前が出てくるんだよ、ホルン。お偉いさんは、執務室に大人しくこもってろよ」

「ひど!舌打ちしたよ、この人。氷の女王様がお前を個室にご案内。しかもお前の腕には幼女が抱えられてたって報告が緊急回線使ってきたんだよ。何事かと飛んできたのにこの仕打ち・・・」

わざとらしく泣き崩れる男の人をアーシュさんが冷たい視線で見ていた。緊急連絡って・・・。氷の女王様って・・・。

それにしてもアーシュさん名前呼んでたし、なんかやり取りが気安い感じだし、これは・・・。


「・・・お友達?」

「違う」

心の声が漏れていたらしく、いやそうな顔のアーシュさんに速攻否定された。・・・けど、なんか本気で泣かれてるよ?


「・・・・・・・・あの、大丈夫?」

思わず側によってそっと頭を撫でてみる。おお。ふわふわの金茶色の髪が気持ちいい。近所のタロさんみたい。ゴールデンレトリバーの雑種で体大きいのに子猫に威嚇されて怯えるような気の小さい子だったんだけど、そこが可愛かったんだよね。


「うう。優しさが染みる」

ソファーに突っ伏していた顔が挙げられて、涙目で見つめられる。ウルウルの琥珀の目はまさにタロに瓜二つ。思わずふにゃっと笑うと、何かに驚いたように目を丸くした男の人に抱き着かれそうになり。

でも次の瞬間、巻き起こった風に運ばれてアーシュさんの膝の上に座っていた。


「触るな。さくらも、あんなのに近づいたら危ない」

「・・・・・・はい?」

凄く真剣な顔で諭され、思わずうなずくと対面から悲痛な声が上がる。・・・けど、ごめんね。私長い物には巻かれる派です。


「うう…独り占め反対」

「うるさい。いいから早く承認しろ」

冷たい言葉に嘆きながらも男の人が書類にざっと目を通す。


「・・・・・・・・まあ、それなりに筋は通ってそうだけど・・・・」

「じゃあ、いいだろう」

何か言いたそうな視線をぶった切り、アーシュさんは私を抱えたまま立ち上がる。


「これから、レイトンのところにもいくから忙しいんだよ。じゃあな!」

「おい!後で説明してもらうからな!」

そのまま立ち去ろうとするアーシュさんの背中をしょうがないと言いたそうな声が追いかけてくる。

軽く片手をあげるアーシュさんの肩越しに私は慌てて顔を出した。


「あの!ご迷惑おかけします!よろしくお願いします」

蛇足かとも思ったけど、自分という不安定な存在の足場を固めるために無茶をさせてるんだと思えば、どうしても自分の口で一言いいたかった。

驚いた顔をした後、男の人の顔が優しい微笑みに溶けた。


「ホルンって呼んで。後で会いに行くよ」

まるでぽかぽかの陽だまりみたいな笑顔は、無情にも閉められた扉ですぐにさえぎられてしまった。





読んでくださり、ありがとうございました。


ラザイアさんは可愛いものが大好きです。

美人ゆえに秋波を飛ばされすぎて、基本男性には冷たいです。ゆえの氷の女王さま。

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