第8話 購入解禁
「この近くに川、あったよな?」
「ありますけど、釣竿持ってきてます?」
「アイテムBOXに入ってるけど、今の目的はそうじゃない」
僕達は洞窟へ向かって歩いていた。僕は途中で体を洗いたいと思って川に寄ることを提案した。ずっと体を洗って無くて僕の体から危ない臭いがした。
「体洗いに行きたいなぁって」
「構いませんよ?私も綺麗にしたいですし」
ニカはそう言って背中まで流した薄桃色の髪を撫で付ける。といってもニカからは危ない臭いもしないし、汚れてもいなかった。
「まぁ、私は毎朝着替える前に洗体魔法をかけるんですけどね」
「魔法って便利だな」
つくづく魔法の便利さを実感する。でも生活に特化しすぎて戦闘などには使えないのだとか。
「あ、見えて来ましたね」
ニカの言葉の通り、水の音が聞こえだし川が姿を表した。
「ここは流れが緩やかだな」
「まぁ、下流ですからね」
僕は服を脱ぐ──。
「ねぇ、今更だけど僕の服そのままじゃない?」
「本当に今更ですね。そうですよ死んだ時と同じ格好です」
色んな事があり過ぎて気付かなかったが、服が転生前の現世の服だったのだ。
「って事は?」
僕はポケットに手を突っ込みある物をさがす。
「やっぱりあった」
《スマートフォン×1 財布×1 2万円 を入手しました》
僕は転生前の状態で持っていたデート資金と携帯を持っていた。これは思わぬ棚から牡丹餅。
「待てよ?もしかして」
僕はアイテムBOXを開くのと同じ容量でスキル『購入』起動する。
「『ランタン』 3000円か。ニカ、素材買ってキャンドル草式ランプ作るのとどっちが安くなる?」
僕は『購入』でランタンが必要技量が15だった為買う事を考えた。幸いにも『具現化』も覚えている為、条件は満たしていた。もしくは鉄だけ買ってランプを作るのも良いと思った。この先どうなるか分からない為、なるべくお金を使わないように安くなる方を選びたかった僕はニカに安く出来る方を聞く。
「おそらくランタンを買った方が安いかと」
「鉄ってそんなに高いのか?」
僕の返答にニカは黙って頷き、「場合によっては」と付け足した。
「ここニルメスの通貨は『ヘーブ』って知ってます?」
「あぁ、何となく」
確か、ニルメス統合通貨。つまりニルメス全土で使われているお金。
「ニルメスの価値は円の10倍なんです。そしてここの世界の鉄とチキュウの鉄は別物。よって『キャンドル草式ランプ』を作る為にはこちらの世界の鉄じゃないといけないんです」
ニカは続ける。
「そしてここの世界の鉄の価格を見てください」
僕はニカに言われた通りにニルメス製の鉄を探す。
「鉄100g 8000ヘーブ?...8万!!高っ!!」
僕は驚愕の値段に驚く。確かにこの時代の鉄は混ぜたりして安くする技術が今より無い。その為に現世とここでは物価に差があるのだろう。
「それに比べてタクミさんの星のチキュウでは鉄は安くなっていますから、普通にランタンを買った方が安いと思いますよ?」
圧倒的円安。これから先ヘーブを手に入れたら円に換算しよう。
「どっちにしても洞窟行かなくていいのか。水浴びしたら帰るか」
「せっかくだから狩りでもしません?」
「それは弓とか作ったりして環境が整ってからでも...」
「大丈夫ですって」
ニカが謎の自信で僕に狩りを勧める。
「水浴びしたら考える」
僕は服を脱いだ。
「タクミさん大胆ですね」
「そっかニカは女だからな。裸になる訳にはいかないのか」
僕は再び服を着る。
「下を脱がなければ、その、大丈夫ですよ」
「そう?じゃあお言葉に甘えて」
僕はパンツ以外は全部脱いだ。衣類が消えた為、おそらくアイテムBOXに行ったのだろう。
「私も水浴びしていいですか?」
「え?」
ニカが当たり前のようにドレスを脱ぎ始めた。
「いやいやいやいや、向こう行けよ!!見られていいのかよ?」
「見たいですか?」
ニカがドレスの胸元を少し開いた。元から露出が多くて意味無いが。
「ノーと言えねぇ。だから他の場所に行った方がなによりニカの為だぜ?」
僕の正直な返答にニカはクスッと笑った。僕は意味が分からず、首を傾げる。
「すみません。喜ばせてあげたいんですがね?私タクミさんの期待しているような体をしていませんので」
そういうとニカはドレスを勢いよく脱いだ。一糸纏わぬ姿に本来ならば目を隠したり、じっと見たりするものだが僕はつい二度見してしまった。
胸にあるはずのぽっちが無かった。下半身にも女性の物が無い。まぁ、女性に物は無いのだが。しかし体の起伏がよく分かり、ぽっちが無くても胸はある訳で
「普通にアウトだろ」
「こんな人形みたいな体で興奮するんですか?」
「...うるせぇ。見られて恥ずかしく無いのかよ」
「主従の関係ですから」
全く関係ない。僕はこれ以上は藪蛇だと思い、そそくさと川に入った。ニカが「それぇ」とか可愛い声を出しながら僕に水をかけまくって来たが、無視し続けた。なんだか変な気分だったから。
「そろそろ行くぞ」
「はい。タクミさん」
僕とニカはさっき来ていた服を着直す。
なんだか今日はニカがずっとニコニコしてる。昨日もだったが、何となく不気味だ。
「どうした?」
「何がですか?」
「何でそんなに楽しそうなんだ?」
「タクミさんは楽しくありません?」
ニカの返答に僕は一瞬固まった。僕もずっとニコニコしてる事に気付いた。実は凄く楽しい事に。
すると背後からガサガサと音がした。僕は咄嗟に持ってきた剣を構えた。
「誰か居るのか!!」
尚もガサガサ言わせる謎の相手。緊張が走る。剣の重さが何倍にも感じる。この剣は1m以上はあるロングソードで、普通の人間なら片手で構えるには少し重い剣だ。それを咄嗟に片手でサッと持ち上げた事から人間よりも力が何倍もある事を実感しつつ両手で持つ。しかしそれだけ力があっても恐怖がある。目の前に得体のしれない何か、がいる事に。すると
「ふぁぐぁぁぁぁ」
突撃茶色い毛皮の獣が襲いかかってきた。すかさず僕は
「でぇりゃぁ」
構えた位置からそのまま横に思いきり振る。その振りは横薙ぎの攻撃となって目の前の茶色い毛皮の獣を半分にした。
森に断末魔が響く。
「大丈夫ですか?」
ニカが飛び寄ってくる。
僕は茶色い毛皮の獣をみつめる。
「こいつは?」
「おそらくウルガ」
「ウルガ?」
尖った耳に鋭い牙。筋肉が膨れている足。凶暴さの権化とも言うべき見た目の狼の姿をした獣。
「ウルガはモンスターです。単独で狩りをするのでまだ居る可能性は少ないです」
モンスター。こんな世界だ、居ても不思議では無い。
するとウルガの死体が消えた。
《ウルガ×1 2万ヘーブ 入手しました》
「金?何でヘーブが?」
ヘーブが手に入ったのが不思議だった。モンスターを倒してお金が貰える?本当ならぼろ儲けだ。まぁ、ウルガはぶった斬ったのに体全部が手に入ったのも不思議だが。
「あぁ、それはモンスターを倒したからですよ」
「説明終わり?モンスター倒すと何故金が落ちる?」
「タクミさん、雨と雲ですよ」
「いや、結局僕それあんまり分かんねんだけど」
どうやら当たり前の事らしい。ニカの説明が雑な時はそれ以上知らない時。僕は考える事を辞めた。