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第6話 1日の終わり

少し長いかも知れません。

ニカのナビに従って、川を探して森の中を歩く事約15分。前方から水の流れる音が聞こえてきた。


「お、近いな」

「そろそろですね」


水の音が聞こえて目的地に無事に着けそうで安堵し、ニカと一言交わす。その一言の間で水の音は大きくなり、


「到着」

「お疲れ様です。ちゃんと案内出来たご褒美に頰っぺをプニプニしてくださいです」


ドドドドと水どうしが打ち合っている音が響く、小川にしては大きすぎる川を見つけた。僕はニカを無視して早速釣竿を構える。


「よっしゃじゃんじゃん釣るぜ」


僕は魚が多くいる場所に向かって釣竿を振る。ポチャンという音と共に水面に波紋が生まれる。途端釣竿が重くなる。リールなど無い。竿1本で釣り上げる。


「せいっ」


僕は釣竿を思い切り振り上げる。すると大きくまるまる太った魚が釣れた。


《ホラポラバス×1を入手しました》


「っしゃあ」

「お上手ですね。釣りしてたんですか?」

「んにゃ全然」


僕は釣りなんて一度もした事が無い。食いついた時の判断や泳がせるのが難しい等と聞くが、今回ばかりは何とも無かった。


「まぁ、その釣竿はスキル『釣り師』がエンチャントされてるんですけどね」

「釣り師?エンチャント?」


聞き慣れない言葉が続いて理解が追いつかない。


「はい。『釣り師』は釣りの技術に関係なく川に釣り針を垂らした途端に魚がかかり、後はただ引っ張ればいいという便利スキルです。エンチャントはスキルや魔法をアイテムに付与させる事です」

「ヤラセかよ。おだてんなよ、本当に釣りの天才かと思ったわ」

「へへへ、すみません」


ニカは結構ひどい。分かってはいたが、覚えておこう。もう騙されない為に。しかし『釣り師』は確かに便利だ。食料がバンバン確保出来る。そうと決まれば


「今夜は焼き魚パーティだ」


僕は釣り針を投げては引き、投げては引くを繰り返す。もはや作業。魚を40匹程釣ってそろそろ飽きてきた頃、景色に赤みがかってきた。太陽はもう真上に無い。


「そろそろ陽が落ちますね。帰りますか?」

「そうだな、帰ろう。夜の森は何かと危険だし」


この世界にも勿論動物はいる。つまり、草食動物と肉食動物がいる。夜に肉食動物に鉢合わせたら大変危険だ。よって僕達は最初の場所に戻る事にした。


「帰り方分かる?」

「はい。勿論です。私は『マッピング』がありますです」

「スキル?」

「はい。周囲20kmが把握出来るスキルです。生物は探知出来ませんが」


ニカがこの地形に詳しい理由が分かった。なんて便利なスキルなんだ。


「木材もそろそろ出来てるだろうし帰るか」

「ふふふ」


帰る事を決めた時、ニカが不意に笑い出す。


「どうした?」

「いえ、何も」

「え、そうか」


僕が心配すると、ニカがニヤニヤしながらそう返した。相変わらず謎だが、僕達は帰路につく。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「うおー!!スゲー!!」


僕は驚いた。最初の場所に戻るとそこには


「家が出来てる!!」


最初に建てようとしていた家が建てられていた。

小さくは無いが屋根も低く2人で住むには少し手狭な家。まぁ、1人は手のひらサイズで場所は取らないんだが。


「嬉しそうですね、良かったです。予想以上に喜んで貰えて」

「どういう事?」


ニカの意味深な言葉に、僕は首を傾げる。


「実はタクミさんが魚釣りをしている間に、私がタクミさんの『具現化』に家を建てるように指示を出していたんです」

「え?」


僕は更に驚く。僕のスキルをニカが操ったのか?


「私のスキル『スキル補助』で、タクミさんのスキルを強化したり、特に指示が出されてない場合は指示の権利が私に移るという、従属妖精専用のスキルです」

「じゃあ、え?僕のスキルをニカが勝手に使えるって事?」

「はい。でもご心配無く。タクミさんに直接害がある事は出来ませんので」

「間接なら出来るのかよ」

「しませんよ?」


僕の心配を払拭出来る説明でひとまず安心。でもニカが僕のスキルが使えるのはちょっと残念。


「ニカにイタズラ出来ないのか」

「タクミさんは私にイタズラ出来る様なスキルを持ってないじゃないですか」


その事実にもっとガッカリする。

ニカは僕のスキルが使えて『マッピング』もあるから実質僕はニカの下位互換では無いのだろうか。まぁ、僕がスキルを使っている時はニカは僕のスキルを使えないが。


「とにかく中に入ってみませんか?」

「だな」


ニカに勧められて建てられたばかりの家に入る。中は見た目以上に広く、天井も思ったよりも高く、木のいい匂いが鼻をくすぐる。ガラスは使われていない為、窓枠にはめられているのは木の戸だ。僕はそれを開けた。


「うわぁ」

「綺麗ですねぇ」


沈みゆく太陽の紅い光が窓から差し込む。ニカは僕の肩に座った。僕達はしばらくその光を浴びていた。


「ニカと夕日って絵になるな」

「へ?...あ、ありがとうございます」


僕が褒めるとニカは一瞬驚き、小さな声で礼を言った。


「タクミさんは今日、慣れない事ばかりで疲れてませんか?頭撫でてあげますよ?」

「確かに今日は忙しかったな。寝る時に頼んでいいか?」

「はい」


今日1日色んな事が、というより有り得ない事が起きすぎた。確かに凄く疲れた。けど体の疲れは思ったよりも無い。エルフになって体力が増えたからだろうか。


「ニカ」

「はい?」

「僕の傍に居てくれてありがとう。これからも迷惑かけると思うけどよろしくお願いします」


僕は不思議とお礼を言った。何が不思議かって?確かに感謝はしてるけど、そういう事を言うのは恥ずかしくて今までも親に礼を言った事なんて本当に少なかった。そんな僕が自然と自分から全く恥ずかしがらずに礼を言えた。それが不思議だ。僕が礼を言うと、ニカは少しの沈黙を空けて


「望むところです。必ずタクミさんを幸せにしてみせます!!」


ニカは覚悟を決めた様に顔つきを変えて、プロポーズみたいな言葉を言った。僕は急に恥ずかしくなり、「頼んだよ」と適当に返事した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



太陽はとっくに沈み、辺りはすっかり暗くなった。現世の時間だとおよそ9時頃だろうか。僕は何も見えない中、外でぼーっと空を見上げていた。


「夜ご飯食べないんですか?」


ニカが心配そうに話しかけて来る。僕はレンバスを食べたので、お腹が空いてない。それよりも火が無い。


「こんだけスキル持ってて火も起こせねーのか僕は」

「あ、火が欲しかったんですか。待ってください」


そう言うとニカは家を建てる時に使った原木を削る時に出来た木屑や欠片、拾ってきた枝を纏めた。


「『イグア』」


ニカが手をかざし、何かを言うと木屑の纏まりが燃えた。スキル...では無さそうだが。


「凄いでしょ。魔法ですよ、魔法」

「魔法も使えるのかよ」

「エッヘン」


辺りが少し明るくなり、ニカの表情も確認できる。僕が意外そうに呟くとニカがあまり大きくない胸を張る。


「少し腹が減ったな」

「あれ?レンバス効いてませんでしたか?」

「その言い方だと薬みたいだな」


さっきまでは空腹は感じなかったが、急にお腹が空いた。


「おかしいですね、1日は空腹にならないはずなんですが」

「まぁ、いいさ。ニカ、アイテムBOXの開き方を教えてくれ」


僕はニカにアイテムBOXの開き方を教わり、アイテムBOXからホラポラバスを4匹取り出して枝に突き刺し、そのまま焼いた。


「ニカって少食?大食?仮に大食でも隠さず言ってよ?お腹が空くのは我慢させたくないから」

「ありがとうございます。見た目以上には食べますが人間目線だと少食だと思いますよ?その魚も一匹で充分です」


僕達は魚を食べた後、火を消さずにそのまま横になった。外だと火もあって、床よりも草の方が寝るのに適しているため外で寝る事にした。


「綺麗な空だなぁ」

「ふふふ、そうですね」

「どした?」

「いえ、タクミさんと過ごすこれからを想像すると楽しい日々しか想像出来なくて」


ニカの言葉で僕もこれからを想像した。一緒に釣りに行ったり、狩りをしたり、水浴びに行ったり。生活が安定したら人里に降りたり。これからやるべき事且つ楽しい事が沢山あって僕も口元を緩める。でも


「現世の人に会いたいですか?」

「え?」


僕が考えていた事を聞かれて驚く。


「楽しそうな顔をした後、少し悲しそうな顔をしたので」

「ああ、うんそうだな。少し会いたい」


いずれは帰りたいと思う。だが帰り方も分からないし、今はいい。


「でも、今はニカが居るから悲しくないさ」

「ふふふ。私もです」


ニカが僕の頭を撫でてくれた。そして僕はそのまま重くなる瞼に逆らわず、眠りにつく。



いい最終回だった...あ、終わりませんよ?ご愛読、ブクマありがとうございます。

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