第2話 雨 雲 雨 雲
ニカの手が光り、そこに画面?のような物が映し出される。
「こんなのですって言われてもなぁ。何となく分かるけど説明してくれたら嬉しい」
「分かるならいいじゃないですか」
僕は普通この手の話だとここで設定の紹介がある筈と、気を使ってあげたのにこの塩対応。
「筋力は筋力。知能は知能。技量は技量で、魅力は魅力。持久り──。」
「待て待て」
「何ですか?」
ニカの明らかな手抜きに僕が注意を入れると、さも不思議そうにこちらを見てくる。僕がまちがってるのか?
「何ですか?じゃ無ェよ。もっと具体的に説明しろよ。そのままじゃねぇか」
「...。」
「何だよ」
ニカが黙ってこちらを見てくる。嫌な訳じゃ無いけど、ニカは美少女な訳で...。
「へぇー。照れるなんて、可愛い所もあるんですね」
「...んぐ」
こういう扱いは苦手なんだ。僕は変な声と共に押し黙る。
「これ、持って下さいです」
「石?」
ニカが落ちていた人の顔程の大きさの石ををひょいと持ち上げて渡してきた。ニカは見た目以上に力があるようだ。
「これを本気で投げてみて下さい」
「僕、遠投苦手なんだが。エルフもそこまで力が強いとかは聞かないぜ?昔は最強だったらしいが」
昔のエルフの設定としては、力が強く、賢く、器用という最強の亜人だったらしいが、浸透しているエルフの設定は華奢なのが一般的。
「いいからスローです」
「頼む!!無敵設定!!」
ニカが急かす中で僕の世界の言葉を巧みに使うのももう慣れてスルーしつつ、僕は本気で石を投げる。
僕の投げた石がかなりの距離を飛んだ。結構な速さで。今僕がいる、木が無く開けている所では無く、約1キロ程先の森に飛んでいき落ちて見えなくなった。
「なっ」
「タクミさんの筋力は40でしたよね?普通の人間はだいたい、3~9位ですよ。参考までに」
「なっ」
僕は2度驚く。僕の筋力はおよそ常人の4倍~13倍。ステータス振る前からこれとは自分が恐ろしい。
「一応説明しておくと、タクミさんの世界である『ゲーム』みたいなステータスとは少し違うんですよ」
「え?」
「この世界の筋力とは、単純に攻撃力だけではありません。移動速度に関わる脚力や武器の攻撃力に関わる腕力も全部合わせて数値化したのが筋力です」
「目安って事か」
例えばスピードの速いチーターを速さレベル40と顎の力の強いカバレベル40、牽引する力の強い牛レベル40も全て等しく筋力40で表される。力のベクトルが違っても全部筋力なのだ。
「レベルが上がってスキルを覚えたら解決するんですけどね」
「なんだよ。ってかレベル上限は?」
レベルが上がれば解決するらしい。それよりも気になったのはレベルの上限。
「そんなものありませんよ?」
「え?」
僕は驚いて一瞬止まる。
「そんなものがあったら、これ以上〇〇したいのにステータスが振れない!!とかなるかもしれないじゃないですか。あ、あとステータスはレベルアップの度に無限に振れるのでステータスにも上限はありませんよ」
「本気で当たりなんだな。割り振り種」
僕はその後2時間程説明を受けた。
長すぎるのでまとめると、筋力は先程説明したとおり運動能力。人間は3~9、僕は40。
知能はそのまま思考能力なんだそう。加えていえばステータスを振った時に+値となって+1、+2というふうに増えていく。この+値は僕の頭の良さは上がらず、技や、建築、鍛冶、調合等のレシピを覚えておいたり、同時演算や知覚の上昇等があるらしい。人間は50~60、僕は70。|(+値は除く)普通の思考能力なので、人間の差は少ない。つまり僕の地頭が良いという事だ。ちょっと嬉しい。
技量は武器やアイテムの使用や建築、鍛冶、調合等の器用さ。特に争うつもりは無いし、誰も傷つけたくないし、傷つきたくないので僕はこれに極振りするつもりだ。人間は15~30、僕は120。
魅力は気品、外見、性格の(これだけ)平均値。これだけは、平均で出てるらしい。つまり美女がいてこの値が高ければ性格は悪くないという事になる。性格まで見れるのは便利だ。人間は50~130、僕は120。エルフは美しいとされるが、その美しさでも人間を抜けないのは気品が無いからなのか、性格が悪いからなのか。
持久力はゲームで言うスタミナやヒットポイント。つまりSPとHP。走り続ける体力や、ダメージをうけても死なずにいられる値。人間は5~8、僕は60。
最後に運。運は何が起きるか分からないという。意味不明だが、そういうものなんだとか。
人間は1~300、僕は400。人間でもまばら。しかし200を超えると高いんだとか。
説明の途中だが、ふと周りを見ると太陽は頭の真上にあった。つまり昼。
「腹減ったな。この世界も24時間周期なら昼だな」
「この世界も24時間ですよ。確かにお腹が空きましたね」
「腹減るのか。排便もするなら夢無くなるな」
「生前思春期だったからといって女の子にセクハラしていい理由にはなりませんからね?」
僕の言葉でニカは怒ったようだ。僕も少し悪いと思ったのは事実。
「その話は置いといて、とうっ」
ニカは話を変えて、手を広げた。途端エアコン程のサイズの箱が出てきた。
「ご祝儀です。開けて下さい」
「遠慮なく」
その箱を開けると中には、斧と剣、釣竿に葉に包まれたパン?のような物が20個程、と皮袋の水筒8つが入っていた。
「このパン何?見た事ないけど」
「レンバスっていう食べ物ですよ」
「レンバス?」
「それを食べれば1日は動き続けてもお腹は空きません」
「それって、腹を減らないように麻痺させるの?それとも栄養がその分あって空腹にもならないって意味?」
「めんどくさいですよ」
呆れられるのが一番辛い。とにかく非常時には役に立つ。とりあえずは口に入れる。
「普通だな」
「失礼ですね?」
どんどんニカの態度が冷たくなっていくような気がする。まぁ、10:0で僕が悪いのだが。
「そもそもこの箱は何?」
「これは贈り物です」
「贈り物?」
「これはタクミさんが記念すべき何かをした時に何処からか送られてくるんですよ」
その何処かはおそらくニカも知らないのだろう。
「なぁ、ニカ」
「はい」
「僕は誰に選ばれたんだ?何でニカは僕のお世話係をするんだ?誰に頼まれた?」
僕はいまだ解決してない疑問をぶつける。
「わかりません」
ニカは小さな声でこたえた。
「贈り物の送り主と同じだと思いますが、タクミさんは雨は誰が降らせているかわかりますか?」
「それは」
雲がと言おうとしたが止めた。なんとなく察したから。
「雨は雲が降らせていますよね?では雲はだれが?雲は水が。ではその水は?いろいろありますが雨という事にしましょう。すると雨が雲を作り雲が雨を作る。自然とはそういうものです」
「つまり誰か分からない自然みたいな事なのか」
「はい」
ニカが言いたい事はイマイチ分からなかったが何となく直感的に説明出来ないながらも理解した。誰かもしくは何かが、無意識のうちに僕に物をくれて、僕も無意識のうちに誰か、もしくは何かに与えているのだろう。それは誰にも分からない。
「じゃあ、ニカは僕のお世話係が当たり前のごく普通な事なのか。その当たり前の事に理由を聞いても説明出来ないもんな」
「まぁ、お世話する相手は選べるので、自分が決めた相手に尽くす事が私の幸せみたいなものなので」
さらっと僕が特別と言った気がする。
「ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
僕は少し恥ずかしかったが、絆は深まった気がする。
「ところで、スキルの話は聞いて無いんだが」
「それは使う時のお楽しみですよ」
少々腑に落ちないがとりあえず急ぎではない為流す。
「で?僕のこの世界での目的は?」
僕はそれが一番聞きたかった。この世界に転生させられたからには何か指名がありそうだと。
「タクミさんのこの世界の目的は自由に生きる事です」
「へ?」
変な声が出る。