第1話 従属妖精ニカ
闇がある。暗い暗い闇がある。何も見えない。何も聞こえない。ここはどこだ。栞はどこだ。僕は死んでないのか?一体さっきの事故で僕はどうなった?今更怖さが蘇る。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
「っがあぁぁぁぁ」
僕は目覚めた。目が...覚めた?やっぱり死んでないのか。そう思って上体を起こす。
「お、起きましたですか?」
「栞!!」
突然聞かされた驚く震える様な声で1人の女子の名前を思い出す。今栞は無事なのか。...誰だ?この声は誰だ?聞いた事の無い声。
「だいぶお疲れの様ですね」
尚も続く細い声。なんだかアニメ声のようなその声。しかし周囲を見渡しても人は居ない。
「ここは、どこなんだ?」
「ここは、ルイナーズ。エルフの森です」
僕の呟きにその細い声は返す。エルフの森?辺り一面緑。しかし森と言うには開けている。しかもちょっとでは無く半径1キロ程。
じゃなくて何で僕はここに?僕は頭を抱える。
「なんだこれは!!」
「え?どうしましたですか?」
また細い声が聞こえる。じゃなくて
「手が白い」
僕の手は絹のように白く綺麗だった。足も、お腹も。僕は日本人で父も母も日本人。こんなに白いのはおかしい。
「当然じゃないですか。白くないエルフは私、見た事ありませんよ?」
「僕が、エルフ?」
その細い声が胸を張ったような気がした。
僕は動揺を隠せない。何故僕がエルフになったのか。頬を抓るが痛みはある。何より五感全て感じとる事ができる。これは夢じゃない。謎は深まるばかり。
「お前は誰なんだ?」
「私はアナタ様にお仕えする従属妖精のニカでございます。決定事項ではございますが、お側に控えさせて頂いてもよろしいですか?」
妖精?従属?僕に?何故だ?僕はここに来たら偉くなったのか?そして声からするにこの妖精は女。思春期の僕からすればご褒美で。
「とりあえず姿を見たいんだが」
「許可を頂かないことには見せるものも見せられませんですよ」
「決定事項なんだろ?こちらからお願いするよ」
「ホントれすか?」
僕が従属する許可を出すとニカと名乗る妖精は声をあげて喜んだ。しかし不思議だ。誰かに従うことで嬉しいなんて。
「ではお見せします。と言ってもそんなに美少女だとか、巨乳だとかじゃないんで、喜んで頂けるか些か不安ですが」
そう言って眼前が光る。そこに現れたのは。薄い桃色で背中まで流した綺麗な髪と少し幼い、パーツの整った顔がよく似合った、黄色い羽根が生えてオレンジがかかった華奢なドレスに身を包む美少女だった。その少女、いや妖精ニカは黄色い瞳で「どうですか?」と言って見つめて来る。
「確かに胸は少し足りないけど、小さく無いよ」
「そんな事は聞いて無いのですが」
僕が茶化すとニカは照れたように顔を背ける。
「全然OK。てかむしろどストライクだわ」
「ふぁわわわわ」
どうやら、喜んでいるらしい。ちょっと分かりづらかった。でも結構可愛い。
「で、僕はここに何しに来たの?」
少し時間が経って、落ち着いた僕は状況の整理を開始した。
「あ、もうその話に入りますか?」
「当たり前だ」
僕は現状を早く知りたいので続きを迫る。手持ち無沙汰なので適当に目の前の草を一つ引き抜く。
《トトト草×1を入手しました》
「は?」
草を引き抜いた途端、目の前に吹き出し?が出てきた。それはよくゲームで見るものに似ている。
「ちょっと、順番に説明したいんですが、どんどん先に行かないで頂けませんか?」
何故か怒られた。どんどん理解できない状況に陥っていく。
「まず、アナタは現世で死にました」
「えええぇぇぇぇっ!!!!って言わなきゃいけなかったりする?」
「結構ですので続けます」
スルーされた。死んだという事は薄々気付いてた事だから別に驚かない。それよりふざけても反応してくれないニカは結構冷たいかもしれない。
「現世で死んだ人間はこの世界で転生する抽選権を受け取れます。そしてアナタは当選した。しかも大当たりの割り振りエルフに」
「割り振りエルフ?」
エルフは現代を生きる僕は勿論知り合わせてる情報。そして僕はどうやら死んだ後に抽選されて転生する事ができて、今がある。それはいいとして、割り振りエルフなんて聞いた事が無い。
「簡単ですよ。その名の通り、ステータスを割り振れるんですよ」
「ステータスを?」
「はい。普通は気に入らなくてもステータスは弄れません。それどころかステータスの存在にも気付けません。しかし割り振りは各種族で一部だけが持っている。割り振りが出来る種族はレベルアップがあり、レベルが上がる度にステータスを振れますよ」
ゲームでも良くあるタス振り。それが出来るという事は得意な事を決められるという事。つまり転生させられたからといって強大な魔王やモンスターと戦わなくていい事になる。
「ところでその抽選の当選確率っていくらだ?何人当選した人がいる?」
「当選確率は4兆分の1。すみません当選人数までは把握していません」
「よ...4兆!!」
よく当選した。今まで強運だと思った事は無いが、今回ばかりはなんて強運な。
「そんな中でも割り振り可能種族に転生できる確率は40垓分の1程でした」
「垓?兆の二つ上だっけ?」
「はい」
もはや垓って言われても分からない。そもそも世界で死んだ人数が200億に到達していないなか4兆もおかしい。よって僕は超強運なのかもしれない。それより数字の話で一つ疑問に思う。
「ここでは僕の言語が通じてるのか?」
「お世話係としてそれ位の嗜みは」
「お前ってすげーんだな」
「頰っぺプニプニしてくれてもいいんですよ?」
「何で頰っぺ?」
「プニプニされるのが好きだからですよ」
ニカは案外可愛い所がある。そう思いながらニカの頰っぺを摘んでいた。
「で?これは何?」
僕はそう言って草を引き抜いた。
《トトト草×1を入手しました》
「ほれわふいあいへうお『これは吹き出しですよ』」
「知ってるわ!!」
ニカが何言ってんですかみたいなノリで当たり前の事を言ってついツッコミに回ってしまう。
「痛いですよ!!」
つい頬を摘む手を強めてしまい、僕の手をニカの小さな両手が抑える。
「すまん。で吹き出しは分かったから説明プリーズ」
「アナタ...そう言えば名前を聞いていませんでしたね」
どこまでもマイペースなニカ。
「田中匠」
「タクミさんですか。よろしくお願いします」
僕が名乗ると遅すぎる挨拶の後にニカが続ける。
「タクミさんが採集、調合、加治、建設、狩猟、魔法発動、等の特定の行動を起こす度にお知らせするんですよ」
「だろうね」
何となく分かっていた。そしてこの世界に魔法があるのも確認できた。
「ニカ、僕のステータスをみたい時はどうすればいい?」
「私に言って貰えればいつでもお見せ出来ますよ。見ますか?」
「頼む」
「分かりました」
そう言ってニカは小さな手を広げた。その手が光る。
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田中 匠 タナカ タクミ
エルフ 割り振り可能種
筋力 40
知能 70
技量 120
魅力 120
持久力 60
運 400
所有スキル
割り振り
従属妖精の加護
強運
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「こんなのです」