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プロローグ

「ねぇ、匠は好きな子って居る?」


人気の少ない海辺で2人の男女が歩いていた。陽は落ちかけ、あと7時間もしないうちに日付が変わる。今日は日曜日でいつも通りの1日だった。眼前の状況を除けば。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



僕は 高橋匠 16歳、高校一年の未来ある若者。名前の頭文字が、TTになる事から泣き虫なんてあだ名を付けられた。まぁそれはどうでもいいとして、外見、勉強、特技、全部一般的な日本男児。これといって特質した所は持ち合わせておらず流されながら人生を送って来た。あと2週間で一年生が終わるといった時期、転機が訪れる。


「ねぇ高橋くん。明後日って空いてる?」


いつも通りの日常が過ぎて行く中、いつも通り帰宅を楽しみにしていた放課後。肩までの長さの髪を揺らして、こちらを振り向いた前の席の女子、里田栞が突然話しかけて来る。特別接点が無かったが、学校ではよく話していた。なにより入学した時から気になっていた女の子。今まで噂はたたず、地味では無いが、物静かな女の子。その娘が僕を誘ってくれた。なんの事かは分からないけど。


「僕?明後日なら空いてるけど、どうした?」

「友達と旅行に行くんだけど、その交通手段の確認がしたくて、でも1人じゃ心細いから。その、高橋くんに付いてきて貰おうかなって思って...ダメ、かな?」


栞は落ちつかない様子で僕にお願いする。座っていても座高の差で上目遣いになる。


「い、いいけど、何で僕?」

「私、仲の良い友達が居ないの。この学校では皆とあまり上手く仲良くできてないから」


栞はどこか寂しそうにそう答えた。確かに栞が女子どころか、男子とも話している所を見た事が無い。その栞が僕を信用してお願いしてきた。そうとなれば


「分かった。ルートはもう決まってんの?」

「まだ...ごめんなさい、それも一緒にしてもらおうと思って」

「了解。最安値ルートを探そう。そして空き時間とかは少し観光でもしない?」

「うん!」


栞の笑顔を見て、僕は自分の人生の色付きに気付いた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



下見当日


僕は5時に起き、髪を整え、眉を整え、髭を剃り、4回トイレに行って、2回歯を磨いて、また髪を整えて、眉を整えて、朝飯を食べ、歯を磨いて、トイレに行って、髪と眉を整えて、集合時間5時間前に、家を出た。


「こう行って、ああ行って」


僕は集合場所に5分で着くと、念入りに何度も何度も頭の中でシミュレーションする。気が付くと時刻は9時半。


「あ、高橋くん!!」


栞が集合時間30分前にやって来た。これが普通というより、早いくらい。僕は平然を装う。


「お、里田。早いな」

「高橋くんこそ。高橋くんを待たせない様に早く来たのに待たせちゃったね。ごめんなさい」


栞は全く悪くないのに、謝らせてしまう。罪悪感に苛まれ一瞬死にたくなる。


「全然。僕が早く来すぎただけだから。それより里田よく似合ってるな」

「あ、ありがとう」


栞は短い髪をカールさせて、肩が出た服に少し短いスカート。そしてそそられる黒いタイツに高めのヒール。

こりゃデートだろ。そう思いつつ理性で抑え込む。


「行こっか」


栞はそう言って、僕に笑顔を向けた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ここで、らんらんランドに行くけど、その後ホテルだから後は帰るだけだね」


電車を乗り継ぎ2時間、その後バスで1時間。遊園地のらんらんランドについた。本来ならばここで夜まで遊んで、ホテルで1泊して次の日に帰るらしい。後はその次の日の帰る練習をすれば大丈夫らしい。


「じゃあ、観光しようか」

「うん」


僕達は昼飯を食べにファミレスによって、色んな話をした。そしてその後海に行った。まだ寒さが残る季節、この時期の海は勿論誰も居ない。


「高橋くん」

「何?」


栞が少し俯いて話しかけてくる。


「ありがとう」

「え?」

「今日1日付き合ってくれてありがとう。高橋くんは私の大親友だよ」


栞は少し顔を赤くしてそういった。


「僕の方こそ楽しかったからさ。ありがとう里田」

「栞でいいよ」

「え?」

「もう、友達だから下の名前で読んでほしい」


栞は顔を赤くしているのに、決して下を向かずこちらに必死に話しかけている。


「じゃあ、栞も匠って読んでくれ」

「わかった。匠くん」

「くんも要らない」

「た、匠」


二人の間に良い雰囲気があったのが分かった。


「ねぇ、匠は好きな子って居る?」


それは突然だった。僕は君が好きだと言いそうになった、が


「私は居るよ?」

「え?」


期待と絶望が一緒くたにやって来る。


「その人はね、1人ぼっちの私に優しくて、私の為に一生懸命になってくれたの」


浅ましいと思いつつも期待していた。自分から言わず栞に言わせてばかりで...


「でも、その人が先週ね、付き合おうって言ってくれたの」

「え?」


その時初めて分かった。自分の馬鹿さ加減を。自分の想い人が好きな人の話をしている時に、その好きな人が自分だなんて所詮夢物語だと。


「ちょっと匠?」


僕は混乱してその場から離れようと走った。目は涙でぼやけてよく見えない。そのまま道路に飛び出した事にも気付かなかった。


(ブーッ ブオーン)

「匠、危ない!!」


(ドンッ)


即死だった。死因轢死。20tトラックに轢かれてすぐに死んだ。栞の声を聞いてから意識が無くなるまでの数秒


「もう傷つきたくないから次は器用に生きられないだろうか?」


これまでの人生の走馬灯が流れて最期思った事がそんな事。人生の最期だと言うのにもう一度なんて。


「あるといいなぁ。次の世界」


そのまま意識が──。


ブツン



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