始まりでしゅうばん
ごうごうと燃やされていく神聖な木々たち。神様がいらっしゃるんだ、だから粗末に扱うな。じぃじとばぁばに口を酸っぱくして大事にしろと言われた木々達は私の手によって赤く染まり、火柱を上げやがて炭になる。神様が本当にいるとしたら、罰当たりどころか神殺しになってしまうなと、目の前に広がる赤の中で思った。
両手を合わせて、村の神様に祝詞を捧げる。
毎日、一日も欠かさず捧げた言葉、体に染みついていた。
昔、村に立ち寄った神父様が言っていた。
祝詞に思いを乗せる、そうすれば神様まで届くと。
祝詞に神経を集中する。
ごめんなさい、神様の家と、多分神様自身も燃やします。
ごめんなさい、私は神様と村の人なら、村の人を選びます。
私もすぐ神様の後を追うことになるので、罰は、全て私に。
火は勢いを増す。白い煙と共に、パチパチと木が弾ける音を立てながら空高く上がっていく。
流れてくる涙が視界を遮る。煙は目に痛い。
袖で口元を覆い、大きく深呼吸をした。
多分大丈夫だ
大丈夫
村は静まりかえっている
住民には絶対に家から出ないでと伝えた。
村からここまでは距離がある。化け物は馬鹿だから、煙と火を民家と勘違いしてここに来る筈だ。1人でも人の匂いがあれば来る、そうランドが言っていた。戻って村を襲うより、勇者一行が村に辿り着く方が速い。
万が一遅かったら、クリフは絶対許さない。
心配は少ない。クリフなら、大丈夫だと何の根拠もない自信が浮かぶ。
「根拠、ないわけじゃないかぁ」
いつも、ここぞと言う時は必ず来てくれた。
したり顔で、どうだ見ろ!と言わんばかりに。
だから勇者なのか、勇者だからそうなのか。私には分からない。
いつもは腹が立ってしょうがないのに、今は無性にあのしたり顔が見たくなった。
もう2年も見てないのか、顔がぼんやりとしか思い出せない。声は論外、全く覚えていない。
ようするに私は2年、熟睡出来ていない。
クリフとは家が隣で、おはようからおやすみまで一緒にいた。
家の扉を開ければおはよう、遊びつくして扉の前でおやすみ。
それが当たり前で、ずっと続くと思っていた。
きっかけは村にきた占い師様の言葉。
幼馴染は勇者に選ばれると予言された
私は、魔王群の侵略による村唯一の犠牲者になると間接的に告げられた。
淡々と告げる占い師様、表情は気の毒そうだった。
正直に言ってくれたことに、ただただ感謝の念をこめて頭を下げた。
世界を救った幼馴染は、お姫様から結婚を申し込まれるらしい。
幸せになるよう願うばかりだ。
残念ながら、クリフの初恋の座は永久に私だけれど。
それぐらいは譲ってもらわなければ、やってられない。
結構、いがいと、あんがい、魔王を倒すまで待っててくれと言われたのは、嬉しかった。
背後からドタドタとした足並みが複数聞こえてきた。
人の足が出すには難しい音だ。
騙されたことに気づき、憤慨している声も聞こえる。
話せる化け物は、非常に強いと冒険者が言っていた。
気休め程度に持ってきた練習用の剣をギュッ、と握りしめて振り返った。
「騙されてやんの、ざまーみろ!!」
化け物にも表情はあるらしい、目つきが鋭くなった。
怒って襲いかかってくるといい
その分、時間が稼げる。
せめて死の間際は、彼の声が聞きたいと思った。
私は、クリフのおやすみがないと熟睡できない。
クリフの声。覚えていないのに、変な話――