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カモン舞踏会

ブクマ2000到達ありがとうございます!

 

 大広間の奥に設けられた壇上から、低いながらも良く通る声が響き渡る。


「今宵はこの舞踏会に多くの者が参加してくれたこと、誠に嬉しく思う。

 また、特に今回の主賓である、エルフの里の方々においては、遠路はるばるようこそおいでくだされた。

 明日からの会談、そして今後のお互いの親交を祈念して、今宵は是非楽しんでいってもらいたい。

 さて、長口舌は無粋であろう。 皆の者、楽しい夜を」


 開会の挨拶を行ったのは、イルレーネ王国第13代国王ファラン王。

 初老に差し掛かりながらも、その精悍な顔つきと未だ衰えない身体のせいでずいぶんと若く見える。


 そして、その脇に控えているのが、第一王子のファラリス王子と、第二王子のエドガー王子だろう。


 慣れない場の空気にあてられながら、エルアリアさんのスパルタ講座で叩き込まれた王国の主要メンバーの名前と役職を必死に思い出しながら、顔と一致させようとあたりを見回す。


 手にしたグラスの果実水で口を潤していると、隅に控えた楽団が音楽を奏で始めた。


 あ……これ、エタドラの城内エリアに入ると流れるBGMと同じ曲だ。

 少し懐かしさを感じつつ、ボクはエルアリアさんとファラン王の所へ近づいていった。


「おお、これは久しぶりだな、エルアリア殿。

 遠くからのご足労、誠に痛み入る」


「いえ、わざわざこのような催しで歓迎して頂き、感謝申し上げます」


 エルアリアさんが優雅に挨拶をこなす。


「して、そちらが……ユーリ王とお見受けする」


「初めまして、ファラン王。 この度エルフをまとめる事となりました、ユーリと申します。

 今宵はこのような盛大な会にお招き頂き、感謝致しますわ」


 ボクもエルアリアさんを真似て腰を折る。

 あぁ、ぎこちなくなっていないだろうか……。


「いやいや、ユーリ王においては我が国の者が色々と迷惑をかけたと聞いておる。

 しっかりと謝罪と賠償をさせて頂くつもりではあるが……。

 細かい話は明日からの会談の際にさせて頂くとしよう。

 まずはせっかくの宴、是非とも楽しんで行って貰いたい」


 笑顔でボクに話しかけてくるファラン王。

 しかし、その目は全く笑っていないように見える。

 ……恐らくは、明日に向けてボクの人となりを見ているのだろう。


 自国の貴族たちもいるこの場では頭を下げず、限られた面子だけで行う会談の場で頭を下げるという事だろう。

 そういった政治的配慮は、日ごろエステルといたずらをしては里のおばちゃんたちに頭を下げていたボクには出来そうもない。

 ボクには欠片もない王の威厳というものをひしひしと感じる。


「そうだ、紹介させて貰おう。

 我が国の第一王子ファラリスと第二王子エドガーである。

 明日からの会談にも同席させるゆえ、よしなに頼む」


「お噂通り可愛らしい女王様でいらっしゃいますね。

 ファラリスと申します。 今後とも是非宜しくお願いします」


 ファラリス王子は背が高い、いわゆるイケメンだ。

 金髪でサラサラの髪に、微笑を浮べた整った顔。

 ……その爽やかさがなんとなくむかつく。


 ファラリス王子はボクの手をとると、その甲に軽く口付けをした。

 その様子はとても様になっていて、普通の女の子だったら一発でメロメロになってしまいそうだ。

 まぁ、ボクは中身男なのでなんとも思わないが。

 と、一瞬何か寒気を感じた。


「私は第二王子のエドガーです。

 兄上ともども、是非仲良くさせて貰えれば嬉しいです」


 エドガー王子は乙女ゲーで言えばわんこタイプだろうか。

 イケメンでありながらも愛嬌のある顔立ちで、どことなくショタっぽい感じがする。

 どうやら、ファラリス王子とは少し年が離れているようだ。


 ファラリス王子と同様、エドガー王子も慣れた手つきでボクの手の甲にキスをする。

 と、再びボクに襲い来る寒気!


 ふと周りを見ると、会場には入れず扉の外で待機していたアリスと目が合う。

 無表情でこちらをガン見している……なるほど、危険がないか監視してくれているのか。

 少しほっとした。



「よろしければ一曲。 是非私めと踊っていただけますでしょうか?」


 ファラリス王子からのダンスの誘い。

 エルアリアさんのスパルタマナー教室の知識によれば、最初のダンスはホストと招待客のうち一番地位の高い者が踊る、だったか。

 正直練習したとはいえ男とダンスなんて踊りたくはないが、一応主賓なので断るわけにも行かないところ。


「……えぇ、よろこんで」


 差し出されたファラリス王子の手を取り、ホールの中心へと移動する。

 ……ますます悪寒が酷くなったが、なんとか笑顔で取り繕う。

 そこまでボクの無意識は男と踊ることに拒否反応を示しているというのか。


 ゆっくりとしたテンポを楽団が奏ではじめ、ボクはステップを思い出しながらダンスの相手を務める。


「女王様、お上手ですね。 それに、踊られているそのお姿はなお可愛らしい」


「お世辞は結構ですよ。 付け焼刃のマナーでお恥ずかしいですわ」


 ファラリス王子の足を踏まないよう、気をつけながらステップを踏む。


 恐らく、傍からボクの姿を見ればすごくぎこちない動きになっているのがまる判りだろう。

 いくら反射神経がよくても、身体能力は並以下なのだ。


 それに、この幼女の身体では身長差がありすぎてどうしても振り回されそうになってしまう。

 それでも、ダンスの体をなしているのはファラリス王子が上手にリードしているからだろう。


「いえいえ、そんなことはありませんよ。

 そういえば、王女様はまだ独身であらせられるとか。

 よろしければ、是非この私めなど夫とされるつもりはございませんか?

 王国とエルフ、共に歩む未来への素晴らしい旗頭になるとは思いませんか?」


「な!?」


 いきなりのプロポーズにステップが乱れる!

 つんのめったボクは、ファラリス王子に向かって倒れこんでしまう。


「っと、大丈夫ですか?」


 やんわりと抱きしめられ、王子の胸に抱かれる形となってしまったボクは恥ずかしさで顔が熱くなってしまった。

 恐らく、長い耳の先まで真っ赤に染まっていることだろう。


「ふふ、そんなに真っ赤になって貰えるとなると、脈がないわけではなさそうですね。

 私は結構本気ですよ? 是非、ご一考頂けると嬉しいのですが」


 いや、そうじゃない。

 プロポーズに照れたんじゃなくて、無様な失敗をしたのが恥ずかしいだけなんだが。


 と、訂正する間もなく音楽が区切りを向かえ、王子とのダンスが終了する。

 恥ずかしさを堪えて一礼すると、今度はパートナーがエドガー王子へとチェンジした。


「よろしくお願いしますわ」


「……あぁ。 しかし、その真っ赤な顔。

 兄貴に早速たらしこまれたか。 女王って割りには、惚れっぽいんだな、アンタ」


 先ほどと違って粗野な口調で、ボクにだけ聞こえる小声でエドガーが話しかけてきた。

 ……こいつ、わんこじゃない。 わんこの皮をかぶった狼っぽい。


「……そちらがエドガー王子の素ですか?」


「あぁ。 気ぃ悪くしたか?」


「いいえ。 むしろこちらも気を使わなくて済んで助かりますわ」


 お互い小声で話しながらステップを繰り返す。

 音楽もあり、周りの人たちには聞こえていないだろう。


「……なんだったら、このダンスの間くらいはその使い慣れてない口調もやめていいぜ。

 アンタ、かなり無理してんだろ?」


「……よくわかるね。 これでも2週間みっちり練習したんだけど」


「俺は生まれてから18年間ずっと取り繕って生きてきてんだ。

 たった2週間で誤魔化せると思ってるほうがどうかしてるね」


「年季の差って奴だね。 まぁ、そう言うならボクも少し休憩させてもらうとするよ」


 少し気が楽になったボクは、お礼とばかりに軽く笑みを返してやった。

 エルアリアさん直伝の、切り札のひとつ、0円スマイルだ。


 周りからほぅっ、とため息のような声があがる。

 そして、エドガー王子は……。


「っ!! ま、まぁ短い時間だし付き合ってやるよ!」


 真っ赤になっていた。




「お疲れ様でした、ユーリ様」


 途中で何人目か数えるのを止める程度にダンスを繰り返したボクは、ようやく開放されてエルアリアさんの傍へと戻った。

 エルアリアさんがウェイターを止めて頼んでくれた果実水を飲んで一息をつく。


「もうダンスはいいでしょうか? さすがに疲れましたの」


「そうですね。 それに、残るお相手の方は……」


 エルアリアさんがチラと視線を動かす。

 ボクも顔を動かさないよう視線だけを動かすと、隅の方にいる貴族がこちらをチラチラ見ては、下卑た表情を浮べていた。


「やはり一部の貴族は、エルフを奴隷種族と認識しているようですね。

 ファラン王もある程度は分別をわきまえた貴族を選別したようですが、流石に有力な貴族は外せなかったのでしょう」


「……明日からの会談で、余計な横槍が入らないといいのですけど」


「会談を希望したのは王国側ですから、その辺りは大丈夫でしょう。

 ところで、ユーリ様はどちらの王子様とお付き合いなさるのですか?」


 ボクは思わず口に含んだ果実水を噴出しそうになってしまった。


「エルアリア! 私は、そのような……」


「ふふ、判っております。 冗談でございますよ?」


 全く、この人は……。



 エルアリアさんに断ってバルコニーへ出た。

 ホールの熱気に当てられていたせいか、頬を撫でる夜風が心地よい。


 少しの間風にあたっていると、いつの間にかアリスが横に立っていた。


「マスター、お疲れ様です」


「あぁ、アリス。 貴方もずっと私を見守ってくれていたでしょう。 お疲れ様。」


「否。 お気になさらず。 マスター、こちらでお手をお拭きになってください」


 アリスが差し出す濡れたハンカチを受け取り、軽く手を拭く。


「マスター、手の甲までしっかりお拭き下さい」


「え? え、えぇ。 ありがとう」


 言われるがままに手の甲まで拭いてアリスにハンカチを返し、ボクは夜の風景を見渡す。


 元の世界と違って、電気は存在するものの普及はしておらず、明かりといえば油か魔法。

 そんな世界だから街に街灯などはなく、夜になれば一部の通りを除いて真っ暗になってしまう。


 だから、ここから見る風景は家の戸から漏れる光や、道を歩く人々の明かりだけで少し物寂しい。

 夜の高速に並ぶテールライトの列や道を形作る街灯の並びなんて望むべくもない。


「マスター、何をお考えですか?」


「少しだけね。 不安になっただけ。

 明日からの会談で、エルフの里がこれからどうなるのかなって、ね」


 良くも悪くも、ただの学生だったボクが今や王として、もう一国のトップと顔を付き合わせるまでになってしまった。

 この世界に来たばかりのエルフとしての自覚もないボクが果たしてエルフの里の代表面なんてしていていいのだろうか?

 未だボクはその答えを持っていない。


「マスター、エルアリア様もいらっしゃいますし、なにより私がおります。

 あまりお1人で思いつめませんよう」


「……そうね」


 舞踏会も佳境のようだ。

 少し切ない感じの曲が流れはじめる。


 ふと、横目でアリスを見る。

 ボクの方を向いたアリスは、ホールの明かりに横顔が照らされながらいつもの表情でボクを見詰めていた。

 その顔を見ていると、なぜか心の中の不安が少しづつ消えていく。


「そうだ。 アリス、踊りましょう!」


「は? しかしマスター、この使用人の服ではホールには……」


「別にここならいいでしょう? ほら、アリスは男役で! ほらほら!」


「……是。 それでは、失礼致します」


 アリスがおずおずと差し出した手に手を重ねて、小さく礼をする。

 そして、音楽に合わせてそっとステップを重ねはじめた。


 ボクの練習を見続けていただけあってたどたどしいながらもなんとかステップを踏むアリス。

 その様子を見て、なんでも出来ると思っていたアリスにも苦手なものがあるんだ、と少し楽しくなってくる。


 くるりくるり、と。


 ホールと月が照らしだす明かりの下で、ボクとアリスはそっとダンスを踊り続けた。


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