エステルとリタの一日
今回含めて数回幕間を挟んで、次章に移ります。
コボルトの村を襲おうとしていたオーク軍を撃退してから数日。
もうすぐお昼という時間のため、ボクはエステルを呼ぼうとしたものの……。
「あれ? エステルはどこにいったの?」
「エステル様はリタ様と遊びにお出かけです。
お弁当をお持ちでしたので、お昼には戻られないかと」
「そっか。 まぁ、毎日魔法の勉強がんばってたもんね。
でも、この里のどこに遊びに行ってるのかな?
川遊びだと、ローリーさんの覗きに注意が必要なんだけど……」
いつのまにかローリーさんの覗き行為は恒例のものとなってしまっている。
といっても、覗きにきたローリーさんが川で洗濯しているエルフの奥様方に捕まり、折檻を受けるところまでがワンセットなんだけれど。
「リタ様と一緒に暮らすようになって、エステル様の行動範囲も広がりましたからね。
マスター、エステル様が付いて回らなくなってお寂しいですか?」
「そんなことはないよ。 いつも一緒に寝ているしね。
まぁ、ほんの少し、寂しいという気持ちもあるけどね」
ただの寂しいというよりは、子離れに近い感覚なのかもしれない。
まぁ、こちらに来る前含めて子供を持ったことはないのだけれど。
「マスターには私が常にお傍におりますので。
それでも、お寂しいですか?」
「……ほんの少し、だよ。
アリスのおかげで、基本的には寂しくない」
「そうですか。 マスターのお役に立てているようであれば、何よりです」
普段何の感情も浮かべないアリスの無表情が、その時だけわずかにほほ笑んだように見えた。
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わたしとリタちゃんは、里のはじっこの原っぱでおべんとうをたべました。
お母さんのつくってくれるおべんとうは、いつもおいしいのです。
「……エステル、どこ、いく?」
「んー、てきとうにおさんぽ!」
食べおわったおべんとうを包んでいたぬのをリュックにしまって、わたしは元気に立ち上がりました。
リタちゃんもよこにおいていた弓矢をもって立ち上がります。
「……森はダメだよ。 サリーナにおこられる」
「うん、お姉ちゃんにも怒られちゃう!」
そっとリタちゃんがのばしてきた手をにぎります。
リタちゃんは、お友達だけど背がたかくてわたしのてっぺんがリタちゃんのおむねのところくらいにしかなりません。
それに、リタちゃんのおっぱいはとっても大きいの!
アリスお姉ちゃんのおっぱいよりも大きいんだ。
わたしも大きくなったら、おっぱいが大きくなるのかなぁ?
にぎった手をふりふりしながら歩いていると、イアンさんにあいました。
「おぅ、リタと……王の妹か。 今日は王と一緒じゃないんだな」
「うん、リタちゃんとふたりでおさんぽなの!」
「……うん」
イアンさんはお姉ちゃんといっしょのときは少しこわいけど、今日みたいにわたしたちとおはなしするときはとってもやさしいんです。
でも、さいきんはサリーナさんとケンカしてるときがあります。
「そうか。 リタ、危ない所には連れていくんじゃないぞ。
まだ森の方は安全とは言えないからな。
それに……少し獣や魔物が増えている気がするんだ」
「……わかった」
「リタちゃんね、とーっても弓がじょうずなの!
だから、だいじょうぶだよ!」
イアンさんはすこしわらったあと、まじめなかおで言います。
「そうだな。 でも、危ない所にわざわざ近づくこともないからな。
まぁ、なんかあったら守ってやれよ、リタ」
「……まかせて」
イアンさんは手をふりながらはなれていきました。
わたしたちとお話しするときのように、お姉ちゃんともなかよくすればいいのにね。
わたしたちが歩いていると、こんどはローリーさんにあいました。
ローリーさんはわたしが生まれた村からいっしょで、うまづらだけどいい人です。
お母さんはこえをかけられたら逃げなさいっていうけど、いい人です。
だって、あうたびにおかしをくれるんだもん!
「おお、これは我が天使。 このような所で会うとは奇遇でござるなぁ!」
「ローリーさん、こんにちは! わたしたちはおさんぽだよ!」
「そうでござるか、それはまた……微笑ましくて絵になりますな。
おお、そうだ。 エステル殿、今日はビスケットを進呈するでござるよ。
リタ殿もどうぞ」
「ローリーさん、ありがとー!」
ほら、いい人です。
わたしがもらったビスケットを食べると、ローリーさんはとてもうれしそうにわたしの方をみて笑います。
なにがおもしろいんだろう?
「……ローリーはまたしゅざい?」
「そうでござるよ。 今日は里の普段足を運ばない所を見て回っておりましてな。
せっかくなので、この里の地図を描いて巻末付録に載せようかと」
ローリーさんは村ではつぎのそんちょうさんだったけど、村がなくなってしまいました。なので、今はお姉ちゃんのことを本にかいているそうです。
ローリーさんはひだりてがなくなったのに、すごいです。
「……ローリーは絵もうまい」
「フヒヒ、これは困ったでござる。 褒められても、飴玉くらいしか出ないでござるよ?」
ポケットからこんどはあめちゃんを出してわたしてくれました。
ローリーさんはいつもわたしたちのためにおかしをもっているのです。
「さて、拙者はもうしばらく見て回るとするでござる。
エステル殿、名残惜しいでござるが、またでござるよ。
あ、水浴びする時は呼んで欲しいでござる」
「だめだよー、お姉ちゃんがおこるもん」
まえに川であそぶとき、ローリーさんにおしえてあげました。
それがおねえちゃんにバレて、すごくおこられてしまったのです。
「それはいかんでござるな。 でも、怒ったユーリ殿の姿もまた……。
フヒヒ、あぁ、ユーリ殿に叱られてみたい! フヒ、フヒヒヒ!」
「……? へんなの。 ローリーさん、またね!」
「フヒヒ、さらばでござるよ、我が天使!」
ローリーさんとわかれてからしばらくあるいて、おかの上のおはなばたけにつきました。
あか、しろ、きいろ……いろんな色のおはながさいて、かぜでゆれています。
「リタちゃん! おはなのかんむりつくろう!」
「……うん。 サリーナにあげる」
「わたしはね、お姉ちゃんとね、お母さんに!」
おはなばたけのまんなかに二人ですわると、まわりのきれいなおはなをつんであんでいきます。
わたしはかんむりを作るのがとくいだけど、リタちゃんは少しにがてです。
しばらくむちゅうであんでいましたが、きゅうにリタちゃんが弓をもって立ち上がりました。
わたしもつられてリタちゃんの見ているほうを見ると……。
「……まもの。 なんでここに?」
「ウルフ! もりから出てきたの!?」
すうひきのワイルドウルフがこちらを見て、グルグルとこえをあげています。
「エステル、うごかないで!」
リタちゃんが弓をかまえて、せんとうにいるウルフに矢をはなちます。
ですが、こちらを見ていたウルフはリタちゃんの動きも見ていて、よこにはねてよけました。
「……ふっ!」
でも、それはリタちゃんのさくせんでした。
はねているとちゅうをねらって、もう一本の矢をはなちます。
キャイン! と高い声をあげてウルフが倒れます。
ですが、それをきっかけにのこりの3ひきがいっせいにこちらへ向かってきました。
「……させない!」
リタちゃんがすうほんの矢をいちどににぎって、うちました。
ねらいもつけていないようなのに、3ひきそれぞれに向かってとんでいきます。
「……しまった」
1ひきだけ、矢がはずれました。
そのままリタちゃんに向かってとびかかろうとします。
でも……させない!
「水刃!」
わたしはべんきょうしていたまほうを、ウルフに向かってうちました。
それはねらいどおりにウルフにあたります。
これで、こちらをねらっているウルフはいなくなりました。
「……エステル、たすかった」
「ううん。 ……でも、なんかかわいそうだね」
矢がささったウルフは、かなしそうな声をあげてたおれています。
「……まものだから。 たおさないと、他の子があぶない」
リタちゃんは、こしのベルトからナイフをぬくとウルフにとどめをさしてあげます。
……ほんとうなら、なにもしなくてもしんじゃうのに。
「リタちゃんは、やさしいね」
「……なんのことか、わからない」
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ボクがエルアリアさんを訪ねると、珍しくエステルとリタがお茶を飲んでいた。
「あれ? エステル、どうしたの?」
「あ、お姉ちゃん! ただいま!」
「どうやら里外れの丘に魔物が出たようで、報告してくれていたのですよ。
ユーリ様もお座り下さい、今お茶を淹れますので」
エルアリアさんがゆっくりと立ち上がる。
しかし、魔物か。
里の中にまで出るようだと、少し危ないな……。
「エステル、大丈夫だった? 危ない事なかった?」
「うん、大丈夫だよ! それよりお姉ちゃん、ちょっとしゃがんで!」
言われるがままにしゃがむと、頭の上に何かがのせられた。
「ん……? これ、なに?」
「花かんむり! お姉ちゃんにあげる!」
手に取ってみると、色とりどりの花が編みこまれた輪がのっていた。
小さな花が横に並んでいて、とても可愛らしい。
「そっか。 ありがとう、エステル」
ボクがエステルの頭を撫でてやると、とても嬉しそうに笑顔を浮べた。
「で、今日は何してたの? 楽しかった?」
花かんむりを頭にのせ直して、椅子に座ってエステルに尋ねる。
でも、その笑顔を見れば答えはわかったようなものだけれど。
案の定、エステルは満面の笑みを浮べて言った。
「とーーーっても、楽しかったよ!」
すみません、ずいぶん間が空いてしまいました。
仕事の方が忙しすぎて、休みすら取れない状況です。
なんとか今月いっぱいで落ち着くはず……。
エタったわけではないので、ご安心を。
次回は……今週中に掲載できるといいなぁ。




