咆哮と破壊
更新遅れてすみません><
「アリス! 視界外のモニタリングは任せた!
魔力反応にも注意!」
『是。 遅延回避のためワーニングは経路を通じて直接通知します』
短いやり取りで指示を出すと、ボクはセラサスを地帝竜の間合いの中へと飛ぶ。
既にモニターの大部分をその竜の身体が占めているにも関わらず、いまだセラサスの間合いには程遠い。
およそセラサスの3倍。
その巨体が、ただそれだけでこの戦いを有利にしている。
幸い、森林竜とは異なり周囲に魔法無効化フィールドを生み出すような効果はないようだ。
恐らくは、その分体内から表皮にかけて魔法耐性が高まっているのだろう。
しかしそのおかげで、こうして空というフィールドを用いた3次元戦闘を行う事ができる。
『マスター! 正面に魔力反応!』
言葉より先に伝わったワーニングに従い、セラサスの軌道を直角に変更。
軽減されているとはいえ無理な起動にかなりのGを感じながら、そのまま地帝竜の真上へと移動する。
先ほどまでセラサスが存在していた座標、そしてそこを中心とした周囲数十メートルに、魔法で生み出された砂礫の嵐が吹き荒れる。
「っぶな! ブレスと違ってノーモーションかよ!」
重力と推力を合わせ、飛び込むようにセラサスを急降下させると、その勢いにまかせ右手の刀を振り下ろす!
しかし、その巨体に似合わない俊敏な動作で刀の描く軌跡を遮るように地帝竜の左前足が現れる。
目も眩む程の閃光と甲高い金属音。
ボロボロになりながらも未だ無敵の強度を誇る盾によって、振るわれた刀が防がれたのだ。
高速振動する刃が謎の物質で出来た盾と噛み合い、激しい火花を散らし、セラサスは弾かれた勢いで距離を離す。
「あの盾みたいなのが厄介すぎる。 アレを抜かないとダメージ与えられないな」
『是。 ですが、あの反応速度は厄介ですね』
「なら、こういうのはどうだ?」
態勢を整えて、再び山なりの軌道を描きながら地帝竜へとびかかり、左手のビームサーベールを上段から切り降ろす。
しかし、セラサスの全重量を乗せたその一撃もしっかりと反応した右前足が防ぎにかかる。
「甘いっ!」
再びその無敵の盾で防がれるか、という瞬間。
セラサスの左手から伸びたビームの刀身は一瞬で消え去り、弾かれるはずだったセラサスの左腕は何事もなかったかのように空を切り裂く!
そして……!
「まずは一撃!」
防御の為に振るわれた右前足を擦り抜けた後、再度発生した刀身は当初と同様の軌跡を辿り、地帝竜の胴体を斜めに切り裂いた。
咆哮が轟く。
だが、まだセラサスの手は止まらない。
痛みでのけぞった地帝竜の隙を逃さず、右手の刀で胴を切り裂いて地帝竜の後方へと駆け抜けた。
ビームで焼かれた傷跡と交わるように、一筋の傷が生まれる。
そして、一瞬遅れてセラサスが飛び去った後の空間が青い血飛沫に染まった。
「盾以外は脆いね。 これならなんとか戦える!」
『油断は禁物です。 あの腕の一撃が直撃すれば、セラサスの装甲でもひとたまりもありません。
それに……追い詰めてからが本番です』
「……発狂か。 同じ古竜だからその辺りのルーチンも同等と考えておくべきだね……っと!」
突如として足元から生まれた岩の槍を避ける。
危険なのはその振るわれる一撃だけではない。
ノーモーションで放たれる魔法の一つ一つが致命傷に至る攻撃力を秘めているのだ。
セラサスが優勢に見えているのはその戦闘スタイルゆえである。
回避と攻撃に特化している為一方的に見えてはいるが、それゆえにたった一撃で全てがひっくり返る。
相手が死ぬまで常に敗北の危険に晒されているのだ。
『マスター、地帝竜が溜めの動作に入りました。
ブレスが来ると予想』
「わかってる! 範囲がわからない、とりあえず視界外に逃げるよ!」
魔力放出型飛翔翼を展開し、瞬時に最大出力へとブースト。
振り向いた地帝竜の視界から逃れるように、前足の届くギリギリのラインを旋回しながらその巨体の右横へと高速で回り込む。
そして、わずかな溜めが完了し地帝竜の口腔から既にセラサスの姿がない、正面の空間へとブレスが放出される。
……否。
「っく!? ブレスじゃない!」
『損害軽微! ですが行動不可、スタンです!』
放たれたのはブレスではなく衝撃を伴う咆哮。
地帝竜を中心として全方位に放たれたそれは、一瞬ではあるがセラサスの動きを拘束した。
数秒にも満たない僅かな時間の行動阻害。
だが、その数秒はこのような1対1の戦いにおいて、そして回避重視のセラサスにとって致命的なものとなる。
当然、その隙を見逃すはずがない。
動きを止めた格好の的に向けて、振り向く勢いすら乗せた右前足の振り回しが迫る。
「やばっ! や、らせるかぁっ!」
しかし、勢いを減じる事無くその前足は確実にセラサスを捉えた。
鈍い金属音が響く。
辺りに、血のように赤い流体魔素繊維が飛び散り、木々を赤く染める。
振り切られた前足、その爪先には破壊された金属製のパーツと桃色の装甲が挟まっていた。
一撃で、セラサスが破壊されたのだ。
コクピットの中は赤く点滅する光に染まり、警告音が鳴り響く。
サブモニターに映し出されたセラサスの全身図は左腕を中心に赤く染まり、先の一撃でかなりの被害が発生した事を物語っている。
「っ! アリス、ダメージ報告!」
『左腕全損! 損壊部を強制パージ、流体魔素繊維の流出を止めます!
ビームサーベルは消失、左腕部リニアガン、ならびに悲嘆の氷使用不可!』
「戦闘行動に支障は!?」
『各部大きな問題なし、まだいけます!』
左壁面にあるボタンを押し、警告音を強制停止させて少し落ち着きを取り戻す。
スタンからの回復と同時に左腕を盾としたおかげで、幸いにも機体そのものへの被害を最小限に食い止める事が出来た。
有効な武器を一つ失ったのは痛いが、メインウェポンである刀がまだ右手に残っている。
まだ、戦える。
だが、もう1度喰らえばどうなるかわからない。
なにより、残された右腕を失った時点でアウトだ。
魔法が通らない以上、手持ち武器以外は有効打になり得ない。
攻撃手段を失えば、残されるのは緩やかな敗北のみだ。
ならば、動けるうちに全力で押し切るしかない。
「……アリス。 アレをやるよ」
『マスター、まだ地帝竜は健在です。
時間内に倒せる確証がありません』
「今やらなきゃそもそも発動しても勝てなくなりそうだ。
実戦では思った以上に集中力の消耗が激しい。
多分、このまま温存しても発動前に一撃喰らうと思う」
『……是。 マスターのご意思のままに』
先ほど吹き飛ばされたおかげで距離が取れており、落ち着いて体勢を整える事が出来た。
地帝竜はこちらを警戒したまま、動こうとはしてこない。
ならば、ボクは奥の手を発動させる。
「……ボクの汚名、『血吸い桜』の由来を教えてあげよう」




