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大地鳴動

 

 アリスのインベントリから取り出した無色の魔石。

 グレアムさんの工房から拝借したエーテライトとその他普通の鉱石。

 エルアリアさんに作成してもらった流体魔素繊維(エーテルファイバー)


 ドラグーンの格納庫と化した広場に広げられたこれらが、使い魔(ファミリアー)の素材となる。


 ボクのスキル発動とともに、魔石が宙へ浮かぶと光に包まれ、その内部に光の軌跡が刻まれていく。

 魔法陣のようにも、電子回路のようにも見えるそれは、複雑に折り重なり魔石の内部へと浸透、その隙間を埋めつくしていく。


「へぇ、製作(クラフト)スキルでのパーツ作成って、こんな風になるのね」


「失われたドラグーン作成の御技、まさかこの年になって拝見することになろうとは。

 これは良い死出の土産ができたものでございます」


 そのような言葉が漏れる間にも作業は進み、やがて光が収まると魔石は力尽きたかのように地面へと落ちる。

 一見何も変化が無いように見えるが、光の角度によっては内部に刻まれた制御術式の陣がうっすらと見えるはずだ。



 同様にもう一つの魔石にもスキルを発動する。

 こちらも同じく回路が刻まれていくが、それは魔石の外周部に留まった。

 その代わり、中心に鼓動を刻むように定期的に明滅する、複雑に入り組んだ結晶のようなものが生まれる。

 動力機関(マナドライブ)の根幹を成す、マナ集積体が形作られたのだ。


 完成した小型の動力機関(マナドライブ)が地面に落ちたところで、一息を入れる。


 製作(クラフト)スキルは見た目は楽そうかもしれないが、脳内では性能に影響するミニゲームが展開されていて結構大変だったのだ。

 ちなみに、流れてくる回路を上手く隙間に入れるだとか、複数の回路をタイミングよく重ねるだとか。

 反射神経を求められるゲームだったのでボクにとっては得意分野だ。

 おかげで、出来上がったパーツはそれぞれ中々の高品質な出来になった。



 最後にもう一度スキルを発動して、それぞれの素材とパーツを組み上げていく。

 光の中で鉱物が形を変え、一つ一つが部品のような姿をとるとパーツを取り込むかのようにその外側へ張り付いていく。

 次第に重なったそれらは纏まり、一つの形を取った。

 子供の大きさくらいの、小さな羽根のようなものをつけた卵のような形の物体。

 その上面にあたる部分には、小さな円形のレドームが載っている。


「……これで出来上がり。 名前は……そうだね、乱華だったら多分ゴーストって名付けるかな」


「それじゃ、私は早速この子とナイトメアの魔導核(ブレインコア)をリンクさせるわね」


 雪露(シュエール)使い魔(ファミリアー)……ゴーストを腕に抱えて目を閉じ集中しはじめる。


「これで準備は整ったけど、出来れば何もないといいんだけどなぁ……」


「マスター、それはフラグです」


 と、エルアリアさんの元へ若い(ような気がする)エルフが駆け寄る。

 彼からの報告を聞くと、エルアリアさんはこちらを向いて微笑んだ。


「ユーリ様、各集落への伝令は全て戻りました。

 コボルトを始めとする大部分の集落は一時の避難に合意しこちらへ向かうとのことです」


「ありがとう、エルアリアさん。

 それじゃ、ちょっと一眠りさせてもらいます。

 ……最悪の場合、しばらくは眠れませんから」


 ボクは近くの樹に座ってもたれかかると、目を閉じてそのまま訪れる睡魔に身をゆだねた。

 そっと、誰かがボクに何かをかけてくれたのをゆめうつつに感じる。

 でも、目を開けるのは億劫で、そのまま意識を手放した。

 ……アリスの優しい匂いがした。




 小一時間も寝ていただろうか。

 しばらくして目を覚ますと、丁度ゴーストが偵察に出ようとしているところだった。

 掛けられていたマントを胸に抱いて、近くへと駆け寄る。


 アリスがマントを受け取り、なぜか一度顔に寄せた後にインベントリに仕舞いこむと状況を説明してくれた。


「マスター、丁度良いタイミングです。 これより、偵察を開始します。

 こちらのモニターに写しますので、確認を」


 アリスが配線剥き出しで裏からケーブルの伸びたモニターディスプレイのジャンク品のようなものを指差す。


「……ちなみに、このモニターはどちらから?」


「整備待ちのドラグーンから引っ剥がしました。」


 うん、わかってた。

 モニターからケーブルの伸びた先は、分解され整備と失ったパーツ作成を待っていた一機のドラグーンの開いたコクピットに伸びていた。

 しかも、比較的状態の良かった機体だ。


 まぁ、モニターで映像を見る必要もあると思っていたのでいいのだけれど。

 セラサスに転送してもらおうと思っていただとか、モニターの提供元は次に直そうと思っていたドラグーンだっただとか、そのようなものは些細な事だ。


 気をとりなおしてモニターに注目すると、丁度ゴーストの前方の風景、ボクたちがモニターを覗き込んでいる姿が映し出される。


「私はドラグーンというものに乗ったことがございませんが、このようにドラグーンが見たものが見えるのですね。

 まるで鏡で写し身を見ているようで不思議です」


 エルアリアさんが感心したように呟く。


「ユーリちゃん。 それじゃ、ゴーストを発信させるわ。

 目標は森の北、最奥。 行きなさい、あたしの奴隷!」


 雪露(シュエール)が|の命令を受けてゴーストがパタパタと懸命に羽ばたきながらゆっくりと高度を上げていく。

 よたよたと左右にぶれながら飛び上がる様は、まるで雛鳥が初めて空を飛ぶようで可愛らしい。


 あ、もちろん小型の魔力放出型飛翔翼(マナウィング)を内蔵しているので、羽根はただの飾りです。


 そのまま豆粒のようになるくらいまで高度を上げると、ゴーストはまっすぐ北へと飛んでいった。


雪露(シュエール)、ある程度進んだらステルスを発動してね。

 光学迷彩だけでなく魔力隠蔽もお願い」


「大丈夫、それにユーリちゃんのおかげでかなりレーダー範囲が広がったからね。

 これなら混沌竜(カオスドラゴン)にだって気付かれずに偵察をしてみせるわ」


 モニターには、一面の森の緑と空の青で埋め尽くされている。

 まるで変わらない風景に動いていないかのように錯覚するものの、流れる雲のおかげでそうではないことがかろうじてわかった。


 しかし、そんな風景も長くは続かない。

 しばらく移動を続けた後、急に雲の流れが止まる。


「……見つけた。 前方100キロ、レーダーに反応……。

 この距離を維持してカメラをズーム、モニターに写すわ」


 モニターに写る風景が森の奥の1点を中心にズームしていく。

 森の木々の緑の中に、一部分だけ木々がなく茶色い地面があらわとなっている場所がある。

 ……違う。 あれは地面じゃない。


 拡大するにつれ、その茶色い部分がかすかに上下するのがわかるようになる。

 そして……その一部分、鋭角なフォルムをした箇所がゆっくりと左右に動く。


「あれが……地帝竜(アースドラゴン)!」


 正面を向いたその部分こそ、地帝竜(アースドラゴン)の頭部。

 拡大されたモニターに写されるその瞳が、ボクの目と合った気がした。


 それはただの偶然だろう。

 しかし、まるで目標を定めたかのように地帝竜(アースドラゴン)はその巨体を震わせて進攻を始める。

 モニターで見詰めるボクたちに向かって。

 ……ゴーストのその先、エルフの里に向かって。




 ------



 果てしない無為の時。

 何も触れず、何も感じずまるで夢を見ているかのような感覚のまま、どれほどの時が過ぎたか。


 不意に、自らを縛る封印が僅かに解かれたのを感じる。

 僅かな封印のほつれから久方ぶりの光を感じて、ゆっくりとその光へと身体を動かす。


 その巨大な身体を小さな亀裂から出す事は出来ず、力の一部のみを分身として亀裂を通れるギリギリの大きさとして生み出し、封印の外へ送り出す。


 それが限界だったのか、亀裂は閉じ再び世界に虚無が戻る。

 しかし、それは満足だった。

 生み出した分身が感じる大地を踏みしめる感覚、口に広がる吸い込んだ空気の味。

 虚無に居ながらにして、分身から伝わるそれらを感じられるようになったのだから。

 久方ぶりに感じる生の感覚を楽しみながら、それは再び無為の時へと身を委ねた。



 幾日かの昼と夜が訪れた。

 久しぶりの大地を楽しみ、しばしそこで時をすごした分身はようやく動き始める。

 生きるために。 少しでも長く生きて、本体に生の喜びと楽しみを伝えるために。

 そのために魔力を。 自らを構成する魔力を求めて行動を開始する。


 遠くに点在する小さな魔力の塊を感じそちらに向かおうとして違和感を感じた。

 魔力は感じられないが、近くに作り物めいた何かが存在している。

 興味を引かれた分身はそちらを優先する事に決め、歩みを始める。


 なぜなら、分身の目的は生を楽しむことだからだ。

 ならば、ただ生きるのではなく興味を持って動くべきだからだ。


 かくして、地帝竜(アースドラゴン)はエルフの里へ向かい進攻を始める。



次回、ようやく久しぶりのバトル展開予定です。

エルフの里周りで色々書きたかったので、展開遅くなりすみません。

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