飛べない幼女はただの幼女
カレンさんが入れてくれたお茶を飲んでなんとか立ち直ったボクは、引き続き情報収集を続ける。
ここからが一番知りたかったことであり、一番重要な部分である。
「あの……魔法って、どうやって使えばいいんでしょうか?」
転生した影響か、メニューやショートカットキーが使えなくなったせいで今のボクは一切魔法が使えなかった。
でも、今のままでは先日のワイルドウルフとの闘いでも判ったとおり、攻撃力が低すぎて雑魚相手ですら負けそうになるという体たらく。
ドラグーンの性能強化のため、ボクは魔力を中心とした特化型のステータス配分をしていた。
そのため、アバターのフィジカルなステータスは完全に切り捨てている。
つまり魔法が使えない今、ボクは見た目通りの強さしかないただの幼女、という事になる。
基礎ステータスが非力なエルフである以上、あるいは年下のエステルにすら劣っている可能性が高い。
装備品もドラグーンも失った今、せめて魔法だけでも取り戻さないとこれからの長いエルフ生、ハードモードが待ち受けているのが目に見えているのだ。
しかし……
「魔法? ユーリお姉ちゃんは騎士さまになるの?」
と、エステルが目をキラキラさせながら質問してきた。
「騎士……どういう意味?」
「そうね、エルフにはない習慣だから、判らなくても無理はないわね。
エルフは必ず魔法の才能を持って生まれるって話だもの。
きっと、ユーリちゃんも忘れているだけでご両親から魔法を習っていたはずだものね。
人間族で魔法の才能って貴重だからね、10才になると魔法の才能を確認するの。
それで、才能のある人間だけが、騎士見習いとして魔法を学べるのね。
……将来、騎士としてサーバントを扱うために」
「サーバント……?」
「エルフでは別の呼び方なのかしら? 巨大な人型の兵器が空を飛ぶのを見た事あるでしょ。 この国ではドラグーン、って呼ばれてるわね」
ドラグーン!
やはり、この世界にもドラグーンが存在している……!
これでほぼ確定だろう。 この世界は……ボクが数日前までVRで過ごしてきた、エタドラの世界だ!
今の話を聞いて喜びが胸を振るわせるとともに、一つの不安が首をもたげてくる。
「あの……じゃぁ、この村で魔法を使える人って……」
「もちろん、いないわ。
もし才能があったら、その子は出世頭だもの!
王都にある騎士学校に入学して、そこで魔法を学んで騎士になるの。
騎士になれば家族含めて一生安泰だもの、皆憧れるのよねぇ……」
「私も10才になったら騎士見習いになるの!」
「あらあら、まだ魔法の才能があるかわからないじゃない。
でも、そうなるといいわね」
カレンさんが微笑みながらエステルの頭を撫でている。
でも、ボクはそれどころじゃなかった。
嫌な汗が背中を伝うのを感じる。
この村で魔法を使えるものが居ない。
そして、魔法を使うには学校で学ぶか、直接エルフに教えてもらうしかないのだ。
つまり……少なくとも、それまでボクは魔法が使えない。
今の話にあったとおり、魔法を学ぶというのはドラグーンに騎乗するための前提条件でもある。
極論を言えば、ドラグーンとは魔法で稼動する鎧みたいなものだからだ。
それは、魔法の使えないボクではセラサス……ボクのドラグーンを動かす事すら出来ないという事実を表している。
「ユーリちゃん……? 顔色が悪いわ、大丈夫? 病み上がりで話すぎたわね。
エステル、ユーリちゃんを寝室まで連れて行ってあげなさい」
「はーい!」
「ユーリちゃん、無理しなくていいの。 この村には何も怖いものなんてないんだから……。
さ、今日はゆっくり休みなさいね」
呆然としているボクの手をエステルが優しく握って引っ張った。
誘導されるままにベッドに横になると、そのまま目を閉じる。
正直に言おう。
ボクは、自分の身に転生という小説でしか見ないような事が起きて、内心ではワクワクしていた。
とんでもない危険にもあったけど、村に辿り着いた事で事態が好転すると信じていた。
なぜなら、エタドラではどの村にでも、魔術書を販売する魔法屋が存在していたから。
だから、魔法が使えるようになる、ということに何の疑いも抱いていなかった。
その考えは、甘かった……
ボクの転生は、チートどころじゃなく。
……ハードモードで始まってしまったのだ。