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悲嘆の氷

 


 コボルトの村、その中心にある村長の館にボクたちは待機していた。


 幸い、先の襲撃から1昼夜、再度の襲撃はなく村は若干の落ち着きを取り戻していた。

 しかし、いつ襲撃があるか判らない事から村は警戒状態にありコボルトの戦士たちが警戒を行っている。


 アリスとエルフ組の二人は偵察に出てもらっている。

 オークの布陣、そして……オークロード、あるいはそれに相当する上位固体の存在を確認するためだ。

 可能であれば、今回の襲撃の原因も探れれば最善なのだけれど、そこまで期待するのは業腹というものだろう。


 ボクは肉体的には虚弱そのものであるため、村に待機し襲撃に備えている。

 といっても、見張りはコボルトたちが行ってくれているので、けが人や病人の治療を行っていたのだ。


 村長にあたるであろうコボルトが、苦い薬草茶を入れてボクに差し出しながら頭を下げた。


「ユーリドノ、タスカッタ、カンシャ」


「いえ、お役に立ててよかったです。 他に病人は?」


「イナイ。 ミナ、ブジ」


 コボルトの村には、医者というものは存在していない。

 怪我の治療も薬草を患部に張る程度で、殆どが自然治癒に任せていたようだ。

 病気なども同様。 回復用のアイテムもなく、本来であれば死なないで済むような病状でも命を落とすことがあったらしい。


 ボクの癒し(ヒール)治療(キュア)といった回復、状態異常治療の魔法が有効だったのは幸いだった。

 おかげで、戦士のみならず老人や子供たちの治療で村をまわり、医者もどきの活動を行うことになったけれど。


「しかし……ボクは、謝らないといけないかもしれません」


「アヤマル? ユーリドノ、ミナ、カンシャ。 アヤマル、ナイ」


「ボクは……コボルトは、人間を襲うモンスターとしか見ていませんでした。

 でも……今日、村を回ってその考えが間違っていたのかなって」


 ゴブリンやオークのように、意思の疎通なく一方的に襲ってくるならばいい。

 それは、ただの敵モンスターと変わりないからだ。


 しかし、コボルトとはこうして会話すら成り立つ。


 ただのモンスターと思い、今回の救援要請もエルフの里に置いて貰うお礼としての労働程度としか考えていなかったのは事実だ。

 そして、仮にボクが本気でこの村を救おうと思っていたとしても、結果はそう変わらなかっただろう。

 でも、それでも。

 ボクはこの村に対して、コボルトに対して負い目を感じている。


「ハハ! コボルト、ニンゲンオソウ、マチガウ、ナイ。

 ニンゲン、テキ。 エルフ、テキ、ナイ……デモ、ミカタ、ナイ」


 人間は敵、エルフは敵ではないが味方でもない、と言っているのだろう。


「コボルト、イキル、テキ、コロス。

 コボルト、ホントウ、オーク、コロサレル、タダシイ。

 ダケド、ワタシ、ナカマ、コロス、シタクナイ。 エルフ、タスケル、タノンダ」


 村長が尻尾を垂れ下げて、恥じるようにうな垂れる。


 コボルトという種族は、エルフや人間よりずっと自然というものに近い種族なのだろう。

 生きるために殺し、生きるために殺される。 オークに滅ぼされるのも自然の摂理。

 そんな種族の考えに背いても、この村長は仲間を殺したくない一心でエルフに助けを求めたのだ。


「ユーリドノ。 モンスター、テキ、オソウ。

 コボルト、エルフ、オソワナイ。 デモ、エルフ、テキ、ナッタラ、オソウ。

 ユーリドノ、モンスター、ナカマ、カンガエル、アマイ。 ソレ、ユーリドノ、コロス」


 馴れ合いは不要。

 モンスターを仲間と考えるような甘い考えでは、死ぬという事だろう。

 ……ゲーム感覚では足を救われる。 判っていたつもりではあるのだけれど。


「……村長さん、忠告ありがとう」


「レイ、イラナイ。 コボルト、ユーリドノ、カンシャ」


 それでも、この場において。

 この場に限り、コボルトたちを仲間と考えるのも、この村長には甘いと叱られるのだろうか。




「マスター、ただいま戻りました」


「アリス、お疲れ様。 報告を」


「是。 オークは集落を中心に布陣。 今のところは動きがありません。

 恐らくは夜が明けてからの襲撃となるでしょう」


 遅れて部屋に入ってきたイアンが続ける。


「恐ろしい程の数だ。 千は越える。

 あれでは、食う為に襲い、襲うために食う。 このコボルトの村が食い尽くされれば、次は里だな。

 だが、オレたちだけでは守りきれん。

 ……いや、エルフの戦士、狩人を集めたとしてもあの数では」


 イアンが顔色を悪くしている。

 確かに、千を越えるオークが集団として襲いかかってくることを考えると、それは1国の軍にも相当するのかもしれない。


「……群れを統率している者はわかった?」


「是。 遠目に見た限りですが、ご推測の通りオークロードでしょう。

 種族能力でオークを統率、強化しているものと考えます」


 なるほど、フィールドボスとしての能力はそのままということか。

 ボクたちとまではいかないまでも、それなりのPTがレイドを組んで当たらないと厳しいという強さだ。


「オークロード……」


 毛に包まれて判らないが、村長の顔色も恐らくは青くなっているのだろう。

 尻尾は丸まって、ビクビクと震えている。


「エルフ、カンシャ。 ココ、タチサル。

 コボルト、タタカウ。 タタカッテ、シヌ」


 再び顔を上げた村長の眼差しは決意に燃え、そして運命を受け入れた澄んだ色をしていた。




 ------




 森の奥、オークの集落の中心。

 そこに一際巨大なオークが存在した。


 羽飾りや頭蓋骨を束ねたアクセサリーで身を飾り、手にするのは巨大な斧。

 その腕はオークの子供の身体一回りに勝るほど太く、その力はオーク数匹をまとめて投げ飛ばす。

 斧を振るえば、たとえ目の前を木々が壁となろうとも全てをなぎ払い、衝撃で地を揺らすほど。


 オークロードとはそのような存在であった。


 オークロードが見詰める先には、自らのスキルによって力と知性を与えられ一糸乱れぬ統制を見せるオーク達。

 それぞれが人間から奪った兜や盾、剣や槍を装備し身動きをせず並び立っている。

 奥には弓矢を装備したオークや、(スタッフ)を装備したオークの一団も控えている。

 オークアーチャーにオークウィザード。 遠距離攻撃を得意とする部隊だ。


 空を見上げると、暗い夜に星が浮かび、そしてその端から明るい光が差し込みはじめる。

 夜明けだ。


 オークロードには及ばないまでも並ぶオーク達に比べ巨体を有し、立派な装備をしているオークが数匹前へ出る。

 オークジェネラル。

 オークの一団を率いる将軍達だ。


 それらは、血と食欲に飢えたその本質を抑えながらも、今にも敵を食い散らすかのごとく戦意に燃えた眼をオークロードに向ける。


 オークロードは立ち上がると、大きく唸り声を上げた。

 呼応するように並ぶオークたちからときの声が上がる。

 出陣するのだ。

 敵を蹂躙し、喰らい、そして嬲る。

 殺し、殺され、そして全てを喰らい尽くすのだ。


 満足げにオークロードは再度空を見上げる。

 既に夜の帳は朝の光に蹂躙され、その姿を消そうとしている。

 空に上った太陽がまぶしく輝き、そして青く光る。


 視線を元に戻した時、風が頬を撫でる。

 夜の空気に冷やされた風は冷たく、ひんやりとして吐く息を白く染める。




 オークロードは何かに気付き、再び空を見上げる。


 太陽が青く輝く?

 吐く息が白く染まる?


 その異常さに気づく事が出来たオークロードは、やはり知性の高い高位種族だったからだろう。

 多くのオークたちはソレに気づくことなくときの声を上げ続けていた。


 それが、彼らの断末魔となることを知らずに。



 ------



『マスター、敵軍殲滅を確認。 お疲れ様でした』


 コクピットの中にスピーカーからアリスの声が響く。

 ボクの方はというと、相変わらずの目の前の惨状に若干の恐怖すら覚えている。


 モニターに映し出されているのは、オークたちの集落……だったもの(・・・・・)

 今では、オークロードの居た辺りを中心として半径500メートルほどが全て氷に包まれている。


 悲嘆の氷(コキュートスフリーズ)

 セラサスで氷系の戦略級魔法をぶちかました結果である。


『味方への損害なし。 充分な成果と考えます。

 ……マスター、どうかされましたか?』


「……いや、あのオークにも家族とかいたのか、なんて一瞬思ったんだけど」


『マスター、仮にそうだとして既に終わったことです。

 それにオーク、あるいはコボルトとエルフ。

 オークが戦う以外に生き延びる手段を持たない以上、いずれかが滅びる運命だったのですから』


「そう……だね。 ボクだって神様じゃないんだ。

 ボクの手で抱えきれないものまで救おうなんて、甘すぎる考えだ。

 コボルトの村長に感謝するとしよう」


 ゆっくりと機体を反転し、コボルトの村へと飛翔する。


 村長の出してくれたあの苦い薬草茶が不意に飲みたくなった。


オークロードはエタドラにおいてはドラグーンは使用できないエリアでのフィールドボスです。 対アバターとしては中級PTのレイドで良い相手となりますが、制限なしでドラグーン相手だと、ねぇ……

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