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はたらくくるま

 

「こんにちはー。 鍛冶屋のグレアムさん、いますか?」


 ノックをしてドアを開けると、ムワッとした熱気と金属の打ち合う音がボクたちを出迎えた。

 薄暗いその建物の奥で赤い炎が揺れ、その手前でハンマーが金属を打ち叩くとともに火花が飛び散り辺りを一瞬照らし出す。


 その灯りで闇に浮かんだのは、ゴツゴツとした白髪のおじさん。

 恐らくは彼がグレアムさんだろう。

 しかし、彼はただの鍛冶屋さんではない。


 彼は、この里でも指折りの腕を持つドワーフの鍛冶屋なのだ。




 里に辿り着いてから半月。

 ボクたちは旅の疲れを癒しつつ、ようやく里での生活に慣れ始めたところだ。


 エルフ組の二人、サリーナは無事妹達との再会を果たし、家へと戻った。

 しばらくは家族との団らんを大事にし、狩りに出るのは控えると聞いた。

 リタは、残念ながら家族がいないものの、今の幼児退行した状態で一人で暮らすのは難しいだろうとの判断から、暫くはボクたちと生活を共にすることとなった。

 見た目はともかく精神年齢が同年代ということでエステルとも仲が良く、同じ年頃?の友達が必要だろうという点も判断の材料となっている。


 冒険者の二人、リリーとコリーはそれぞれ空き家が割り当てられそちらに生活の場を移している。

 里には当然ギルドは存在していないものの、腕が鈍らないよう狩りに付き合ったり、里の外れでドラグーンを操縦したりと訓練を欠かしてはいない。

 彼らには、もう少し落ち着いた処で一度ウェルチの町のギルドへ情報収集に行ってもらう予定である。


 ローリーさんは……彼は案の定川で水浴びしていたエルフの子を覗いたのがバレて、ロープでぐるぐる巻きにされて物置に放り込まれている。


「やはりユーリ殿程の逸材はいなかったか。 妖精さんに期待するでござるか……」


 等と言っており、反省の色が見えないので明日まで放置である。


 とはいえ、彼が暇を見つけては書いていた日記?は何故かエルフの皆さんに好評で、エルフが伝えていた印刷技術で発行され、実はエルフの中ではボクとアリスの次に彼の人気が高いという不思議な状況になっている。


 ちなみにボクはまだ字が読めないので読んでいないのだけれど、目を通したアリスは何故か満足気な表情を浮かべ、ローリーさんと何かを話していた。

 なんとなく嫌な予感がしたのは気のせいだろうか。


 そして、ボクたち家族は城に部屋を用意されてそちらで毎日を過ごしている。

 といっても、ボクなし崩し的にエルフの王として儀式やらイベントに参加させられたり、聖地に行って雪露(シュエール)と色々とすり合わせを行ったりとなかなか忙しい。

 今の所王になるつもりはないけれど、まぁ住まわせて貰っている以上ボクで手伝える所は手伝うというスタンスだ。


 そんな中、アリスと二人である物を作ろうと暇を見つけては設計図を書き、それがようやく出来上がったという事でエルアリアさんに紹介してもらいグレアムさんを訪ねた、という次第である。




「あのー、グレアムさん、ですか?」


 一心不乱に金槌を振るうドワーフに声をかけるが、反応はなくただ金属と鎚が奏でる甲高い音だけが響く。


 アリスが何か言いかけたところを手で制して、ボクはその作業が終わるのを待つことにした。

 恐らく、ボクたちが声をかけた事すら気付かない程に集中しているのだろうから。



 暫くの間、その作業を見つめる。

 あまりの暑さに汗がダラダラと流れてくるけれど、ボクはその作業に引き込まれて夢中になり、あまり不快さを感じる事はなかった。


 最初は真っ赤に焼けた金属の板だったものが、次第に一つの目的に沿って形を変え、板から刃へとその本質を変化する。


 一度のためらいもなく形を整え終わると、既にそれは大振りのナイフの形を成していた。


 ドワーフはその刃を角度を変えながら眺め、満足したのか一つ頷いた処でようやくボクたちに気がついたようだ。


「なんじゃ、お前らは? ここはお前さん達のような女子供の来るところではないぞ?」


 先ほどの満足気な表情から一転して不機嫌な表情を浮かべる。

 なるほど、如何にも職人といった人のようだ。


「グレアムさんですね? ボクはユーリ、こちらはアリスといいます。

 エルアリアさんの紹介でお願いがありお伺いしたのですが……」


「あぁん? あの婆の紹介だと? ……なるほど、アンタが400年振りに帰ってきたとかいうエルフどもの王様って奴か。 だが、儂ぁ忙しいんじゃ。

 まさかとは思うが、王だからと優先して仕事をしろなどと言い出したりはせんだろうな?」


 ギロッとグレアムさんはこちらを睨み付けるものの、むしろボクはそこに自分の仕事に誇りを持つ職人の心を見て嬉しさと懐かしさを感じた。

 もう亡くなってずいぶんになるけれど、刀鍛冶だったというボクのお爺さんを思い出すのだ。


「もちろん、そんなつもりはありません。

 順番で結構ですので、一つ作ってもらいたいものがあるんですが……」


「なんじゃい? ナイフか? それとも、包丁か?

 鍋とか皿なら、裏のハナタレ坊主のとこへ行け。 儂ぁ刃物やら細かいモンやらが専門じゃ」


「いえ、違います。 エルアリアさんに相談した所グレアムさんが適任だと。

 とりあえず、設計図を描いてきたのでこれ見て貰えます?」


 ポシェットから折り畳んだ設計図を取り出してグレアムさんに渡す。

 煤で真っ黒なその手で設計図がとたんに黒く汚れていくけれど、気にせず紙に目を通すグレアムさんは訝しげな表情を浮かべた。


「なんじゃこりゃ? ただの椅子……ではないわな。 車輪がついとると言うことは、これは乗り物か、台車か?」


「どっちとも取れますが、車椅子という椅子と車を合わせたものです。

 主に、障害で歩けない人を乗せて運ぶものなんですが」


「ふぅむ。 しかし、この底側の機構はなんじゃい? やたら複雑な……歯車があるということはこれで車輪を回すんじゃな。 とすると……自走式か!」


 さすが腕利きと言われるだけの事はある。

 ボクたちの求めているものに一発でたどり着いたようだ。


「是。 流体魔素繊維(エーテルファイバー)を用いれば小型のアクチュエーターを実現できます。 高品質な魔石があれば、本人の魔力がなくとも自走する仕組みを作れるものと推測します」


「小型化するのはいいがそりゃぁ精度を求められるの。

 なるほど、これは裏のハナタレには出来ん仕事じゃな。

 ……じゃが、儂ぁ叩いて作るだけじゃ。 魔法式やら流体魔素繊維(エーテルファイバー)についてはお手上げじゃぞ?」


「そのあたりはエルアリアさんにお願いします。

 グレアムさんにはパーツの作成をお願い致します」


 実際には、魔法式はドラグーンで戦闘の際に設定している詠唱回路(キャストパターン)を応用してボクたちが作ることになる。

 要は、発動の条件付けと発動時の処理をどうするかを定義すればよいという事なので。

 流体魔素繊維(エーテルファイバー)の方はエルアリアさんが製法を知っているという事なので、セラサスの補修資材も含めお願いをしているところだ。


「よかろう。 今の仕事を急ぎ片付けてこっちに取り掛かろう。

 しかし、中々面白い事を考えるのぅ。

 普通、高品質な魔石なぞこのようなオモチャに使わんぞ。

 そういうのは騎士の使う(スタッフ)やら、ドラグーンのパーツに使うもんじゃ。

 といって、日用品に使う低品質な魔石じゃと、出力が足りんじゃろうしの。

 つまり、商売にはならんと思うが……」


「これは、ボクのお母さんの為に作るもので売り物にする気はないんです。

 なので量産とか考えなくても大丈夫です。

 大体どのくらいで用意できそうですか?」


「そうじゃな。 今の仕事を終えてからとして、4日……いや、5日貰おう。

 ただし、底側の機構は設計図通りには作るが、魔導機構との噛み合わせがある。

 3日目あたりに一度顔を見せて確認して貰えるかの?」


 思ったよりも早い。

 やはりドワーフの冶金技術というのは凄いということだろう。

 むしろ、こういった一品物や試作品の作成という点では現実世界(リアルワールド)の職人よりも優れている可能性がありそうだ。


「はい、十分です。 代金は……こちらではお金は使ってるんですかね?」


「一応行商の連中が来るから使わないわけではないがの。

 普通は物々交換なんじゃが……ま、今回は面白そうじゃしタダ働きでも良かろう。

 じゃが、その代り色々と技術を盗ませて貰うからのう?」


「はい、宜しくお願いします!」


 こうして、ボクはエルフの里一番の鍛冶屋グレアムさんと知己を得ることとなった。

 だけど、ここで得られたのはそれだけではなく……


「ところで、グレアム様。 あちらの奥にある鉱石類は……」


「あぁ、あれか。 聖地からエルアリアの婆が持ち込んだんだが、儂には扱えんかったでの。

 とはいえ、貴重なモンなのに間違いはないからあそこで肥やしになっとる。

 まぁ、儂ですら無理なんじゃ。 今の世でアレを扱えるモンはおらんじゃろう」


「そうですか。

 マスター、あちらにある鉱石ですが、ヒヒイロカネ、オリハルコン、エーテライトといった最高級の鉱石資源です」


「マジで!? これでセラサスの整備ができる!」


 ヒャッハー! とばかりにボクは鉱石の山へ駆け寄った。

 確かに、赤みを帯びたヒヒイロカネの鉱石や白色に輝くエータライト鉱石、それに虹色に変化するオリハルコンがそれぞれ1山づつぞんざいに積まれている。

 1山とは言ったが、その1山がドラグーン1機分を超える量であることからボクの喜びを推測して貰えるだろうか。


「アリス! 見てこれ、資材の山だよ! ほら、この鉱石なんて……ほ、ほら……んー!」


 喜びのあまり鉱石のひと塊を持ち上げようとするが、持ち上がらない。


「んんー! お、重……く、んぁーーー!」


 少し小さ目の鉱石を選んで持ち上げようとするも、やはり持ち上がらない。

 ここまで非力になっているとは思っても見なかった。

 こちらを見ていたアリスもボクのはしゃぎように呆れたのか、フルフルと震えて下を向いたまま視線を合わせようとしてくれない。


 意地になって持ち上げようとしていたところで、フッとボクの身体が持ち上がる。

 アリスが小脇に抱えたのだ。


「マスター、あまりに可愛いのでお持ち帰りします。

 グレアム様。 こちらの資材は、いずれ役に立ちますので保管をお願いします。

 それでは、急ぎますので失礼」


「お、おぅ……」


 ジタバタするボクを抱えたまま、グレアムさんの工房を辞した後、アリスは

 城に帰ってもしばらくボクを膝の上に抱えたまま離してはくれなかった。



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