表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/74

トリプルスポイラー

 

「んー、そうね。 あたしがこの世界に来る前の所から順を追っていった方が良さそうね。

 まずは……ユーリちゃんが大会で優勝した後。 ユーリちゃんはどこまで覚えてる?」


 脳裏にこの世界を訪れた際の事が思い浮かぶ。


「……大会で戦ったロキに、駅のホームから突き落とされた所まで」


「そうね。 ユーリちゃん、あれであっさりと死んじゃったのよねー。

 おかげで、乱華ちゃんが荒れに荒れて大変だったんだから!」


「乱華は……その、大丈夫だった?」


「最初はね、現実(リアル)でも吐き出しきれなかったんでしょう。

 あたし相手にずっと八つ当たりをしてたけれどね。

 その後は、少しでもユーリちゃんの残したものを大事にしたかったのかな?

 それまで以上にエタドラにのめり込んで、いつの間にかトップギルドにまで昇りつめちゃったわ。

 おかげで、今でも『災厄の魔女』って通称が残っているらしいわよ?」


「そっか。 乱華には悪い事をしたね。

 ボクを殺したロキはどうなった?」


「さぁ……立ち直った後は乱華ちゃん、あの事件には触れなくなったから。

 あたしも指示されてないからそれについては調べていないの、ごめんね?」


 まぁ、目撃者もいただろうしきちんと法の裁きを受けたのだろう。

 幸いこの世界で第2の人生が送れているし、なにより復讐のしようがないので今は置いておこう。


「それから1年くらいかな? なぜか急にエタドラのサービス停止が決定したの。

 そして、最後のオンラインイベント『魔神大戦』が開催。

 そこのナイトメアも錆以前にボロボロでしょ? そのイベントがまた難易度高くて……。

 イベントの後すぐサービス終了だったから、修理する事もなくそのままだったのよね」


「魔神大戦って……400年くらい前に起きたっていう戦争の事じゃ……?

 その戦争で、当時の技術がかなり失われたって聞いてるけど」


 ここで魔神大戦というキーワードが出てきた事に驚く。

 確か、今の神歴という暦に代わる前の出来事としてカレンさんに教えて貰ったと記憶している。

 エタドラのイベントがこの世界の歴史にも存在し、そしてエタドラのドラグーンが今なおこの世界に存在している。

 ということは、この世界は。


「なるほど、この世界はエタドラがサービス終了した後も続いていた場合の世界、という事でしょうか?

 エタドラとの相似と差異から見て、納得のいく理由であると考えます」


「そうね。 エタドラに近似の異世界なのか、エタドラを元にした新世界なのか、電脳世界の中で構築されたもう一つの世界なのか。

 実際の所はわからないけれど、それらに近い世界であるとあたしも推測をしているわ」


 オペレーター二人が勝手に納得してウンウンと頷いている。

 言われてみると、例えば当時存在していなかった帝国や北方連合に南の商業国家について。

 いずれも、王国を加えたエタドラの4国に相当し、400年の間で変遷したと考えればつじつまがあう。


「……でも、ボクはこれまで他のプレイヤーには会った事がない。

 ハイエルフや竜人みたいに長寿の種族や、それに満たないまでも500年生きるドワーフなんかだとギリギリ生きていると思うんだけど、そっちについては?」


 ボクの問いに、横からエルアリアさんが答えを返す。


「プレイヤーと呼ばれた方々は、魔神大戦の後ドラグーンと共にこの世界を去られました。

 例外は魔神大戦を生き延び、無事だった一部の遺産のみです。

 ただそれらも、今では過去の遺跡等でしか見つけられませんが」


「っていうのが、エルフ族……NPCから見た視点の話ね。

 あたしの場合、乱華ちゃんがログアウトした後、ホームでボロボロになったナイトメアと共にサーバが完全に落とされるのを待っていたんだけど……。

 気が付いたら、なぜかこの世界でゲームが続いていた、という状態なのよ。

 もちろん、他のプレイヤーは見た事がないし何故こうなったかもわからないの」


 つまり、基本的にこの世界にプレイヤーはいない、ということだ。

 恐らくはサービス終了に伴い基本的にはこの世界に残ることは無かった、という事だろう。

 まぁ、技術レベルから見てそのような予想はしていたのでそれほどショックはない。


「……とすると、ボクたちや雪露(シュエール)はレアケースというわけだ。

 で、そのあとは?」


「ホームがこの世界とリンクして、ちょうどここ……エルフの里の中心に落ちたの。

 ナイトメアは大破してて動かせなかったし、どちらにしろ乱華ちゃん以外を乗せるつもりもなかったからそのまま放置することにしたわ。

 で、この里のエルフたちに技術供与をして過ごしていたってわけ。

 まぁ、あたし支援系で生産スキルもなかったから、結界の強化くらいしかやれることはなかったんだけど」


「いえ、雪露(シュエール)様のおかげで我らエルフは今まで生きてこられたのです。

 雪露(シュエール)様の宿るこの世界樹はエルフの象徴。

 そして、雪露(シュエール)様の予言されたユーリ様がエルフの王なのです」


「予言? そういえば、ボクとアリスがこの世界に来る事をどうやって知ったわけ?

 そこが一番謎なんだけど」


 今までの話で大枠は理解できたものの、ボクがこの世界に来たのはアリスのおかげであり雪露(シュエール)がこの世界に来たのとは恐らく手段も、タイミングも異なる。

 そうした中で、その1点だけがわからないのだ。


「あー、それね……毎日暇つぶしに神託(オラクル)を使ってたんだけど」


 神託(オラクル)の魔法とは、いわゆるネタスキルの一つだ。

 1日1度だけ使用することができ、神からの神託を受ける事が出来る。

 この神からの神託というのが、公開されていない内部情報や便利なテクニックの情報を得られるというものなのだけれど……。


「……神託(オラクル)って、くだらないジョークや役に立たない知恵袋的な何かといった情報しか得られなかったんじゃなかったっけ?」


 そう、制限があるくせに、はずれの情報が殆どであり、その結果得られる情報がくだらないのだ。

 例えばこう。


「今日の神託~♪ コンソールを操作する時は、鮮やかに強くキーを叩くと気持ちいいよ!」


 それがどうした! という話である。


 もちろん、隠しスキルの情報や内部データの計算式など役立つ情報が得られることもあるのだけれど……


「乱華ちゃんに言われて毎日確認してたから、習慣になってたのよ。

 殆どはゴミ情報だったんだけど……こっちに来て何年目だったか、一度だけユーリちゃんとアリスがこの里を訪れている様子が映ったの」


 元の仕様にそんな予知能力はないだろうから、この世界に来て得られる情報が変質したのかもしれない。


「というわけで、ユーリちゃんの大好きな桜でこのホームエリアを埋めて待ってたの。

 流石にエルフの聖地が、崩れ落ちた格納庫なんて寂しいでしょ?

 こんなサービス、めったにしないんだからね?」


 うーん、元のままだったら色々資材も手に入ったような気がするけど。

 まぁ、気を使ってくれたという事で特に文句をつけるところでもないだろう。

 それに……この景色は、気に入った。


「まぁ、大体は理解できた……かな?

 細かい事を言えば、本当にボクたちと雪露(シュエール)が同じ世界から来たのか、という問題もあるけれど、まぁそれは突き詰めてもしょうがないね。

 アリス、他に聞いておきたいことはある?」


「是。 ただ、これからはいつでも聞けるのです。

 慌てる必要はないでしょう」


 その通りだ。

 この里に定住する予定だし、特にやることもないので時間はいつでも取れるだろう。

 正直、情報を貰いすぎて一度整理をしないと混乱してしまいそうであることだし。


「そうね。 あたしもこれまでは残存魔力を消費しないよう年に一度程度しか実体化しなかったけれど、ユーリちゃんが来てくれたからもう魔力の心配はいらないだろうしね。

 フフ、なんだったらナイトメアを修理してくれてもいいのよ?

 ユーリちゃんは制作(クラフト)スキルもっていたでしょ?」


「持っているけど……ナイトメアは乱華があれだけ大切にしていたドラグーンだからね。 直したとして他の人を乗せたくない。

 それに、そもそも動かすわけにはいかないでしょ?」


「そうですね。 雪露(シュエール)様の魔法と世界樹の複合効果で結界を強化されております。

 雪露(シュエール)様に動かれますと、結界の効果がどうなるか想像がつきません」


 エルアリアさんが同意して頷いた。

 まぁ、雪露(シュエール)も外に出てみたいのだろうけれど。


「とりあえず、カスタムしてアバターでなら里の中くらいまでなら出歩けるようにするから。

 それに、やっぱりナイトメアをボロボロのままにしておくのは、可哀想だからね。

 ボクのスキルで出来るところまでは時間を見つけて修理するようにするよ」


 ボクの言葉を聞いて雪露(シュエール)が嬉しそうにほほ笑む。

 やはり400年この場から動けないというのは、想像もつかない苦しみもあったのだろう。

 ……早くカスタムしてあげないとな。


「マスター、そろそろ夕方となります。

 名残惜しいでしょうが、今日の所はここまでとした方がよろしいかと」


「わかった。 雪露(シュエール)、魔力を補充しようと思うけど主魔力炉(マナリアクター)は問題ない?」


「恐らくは。 ただ、経年劣化を起こしている可能性があるの。

 最初は少しずつ、ゆっくりと補充するわね?」


 朽ち果てたコクピットによじ登って、ボロボロになったシートに腰を下ろす。

 と同時に、経路(パス)が繋がる感覚があり、わずかに魔力が吸い上げられる感覚が訪れる。


 しばらく吸い上げられるがままにしていたところで、コクピットの下の主魔力炉(マナリアクター)が力強い鼓動を刻むのを感じた。

 その穏やかな振動に揺られ、魔力を吸われる事による倦怠感もあり、ボクはほんの少しウトウトとしてしまった。



 ちなみに。

 想像はつくだろうが、ボクが目覚めたのはアリスの腕の中。

 いつものようにお姫様抱っこをされてベッドへ運ばれている状況だった。


 いつもなら無表情であるアリスが、若干しまった! という顔をしていたのはどういう事だったのだろうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ