世界樹のメイクユー
一段高い玉座から見渡すと、とにかく美男美女が集まっていて煌びやかだ。
これが転生モノの小説なんかだったりすると「ハーレムキタコレ!」とか「逆ハー最高!」とか言うところなんだろうけれど、生憎と現実ではそんな余裕はなかった。
むしろ、そんな人達にかしずかれて酷く肩身が狭い。
なにより、長老の皆さんということで、若く見えても皆ボクの10倍以上の年齢なのだろう。
外見に似合わない落ち着いた雰囲気と、穏やかな表情が重ねた年輪を表している。
……状況についていけず若干思考が寄り道したけれど、とにかく話を進めよう。
「エルアリアさん。 ボクの扱いは後として……まずは確認させて下さい。
この里は、ボクたち家族と仲間を受け入れて貰えるのでしょうか?」
エルアリアさんが長老達を代表して微笑みながら頷く。
「もちろんです、ユーリ様。 エルフの里は、ユーリ様とユーリ様のご家族。
そしてご同行されたお仲間を受け入れます」
「殆どが人間ですけど……いいんですか?
イアンさんのように、敵視する人もいると思うんですが」
実際、受け入れてもらったとしてイアンさんのような人たちに襲われでもしたら堪ったものじゃない。
この辺りはしっかりと言質をとっておきたいところだ。
「そうですね。 まだ若い者たちの中には人間に対する悪感情を抱く者もおります。
……そして、ユーリ様の事を知らぬ者も。
ですが、我々が安全を保障させて頂きます。 共に生活するうちに偏見も治まることでしょう」
「……ボクを知っている、というのは気になるけど。 きっと今は教えて貰えないんでしょうね。
それではもう一つだけ。 ボクは帝国の近衛と王国の騎士団、双方と敵対してます。
……それでも受け入れて貰えますか?」
そうだ。
元々エルフの里を目指していたのは、ボクが魔法を学ぶためだった。
でも、魔法を使えるようになった代わりにボクは王国から追われることとなってしまった。
今ボクたちがエルフの里を訪れたのも、無事暮らせる場所を求めての事だ。
その場所を確保した上で、ボクは帝国に対する復讐という目標がある。
王国は積極的に敵対行動をするつもりはないけれど、向こうの方がボクを放って置かない気がする。
王国が敵となるか中立となるか、そのあたりは王国騎士団顧問ジェイガンさんに期待をするしかない。
つまり、ボクを受け入れるということは、今にも爆発しそうな爆弾を抱え込むに等しいのだ。
「もちろんです。 元々この里は中立。
その上、今では王国、帝国ともに交流が断たれております。
そして、王国は我らの同胞を今も奴隷としております。
交流の復活を希望する使者には、奴隷の解放を条件として交渉は続けておりますが……」
ゴホンと咳払いをしてエルアリアさんが続ける。
「……そういうわけで、元より敵対とは言わずとも独立独歩の道を歩んでおります。
仮に敵対したとして、結界に覆われたこの里には手を出す事は困難でしょう。
それに、ドワーフのように故郷を追われこの里に定住した先例もあります。
なにより……王よ。 王の敵は我らが敵。 王の味方は、我らの味方ですよ」
「王うんぬんは置いておくとして……ありがとうございます」
「いえ。 我々も打算はありますので。
……里を覆う結界の維持には、ユーリ様、そして……アリス様のお力が必要なのですから」
「マスターと私の力、ですか。
エルアリア様。 貴方は、私達の素性をご存知なのでは?」
そうだ。
ボクの力というだけならば、ハイエルフの持つ魔力と考えるだけでいい。
だけど……アリス。 この世界の存在でないアリスの力を必要とするということは。
だけど、エルアリアさんは微笑むだけで答えを返さない。
「はぁ。 まぁ、ボクたちでご協力できる事ならば、協力させていただきます。
アリスもそれでいいよね?」
「是。 マスターの望みであればなんなりと」
それを聞いてエルフの皆さんの顔がほころぶ。
エルアリアさんは大きく頷くと、喜びを表しながら言葉を続ける。
「助かります。 ……さて、本当はここに居るもの全員の紹介などしたいところですが、すぐに覚える事もできないでしょう。
おいおい顔をあわせる機会もありましょうから、後の機会に回させて頂きます。
皆様長旅でお疲れでしょう。 取り急ぎ仮の宿へとご案内致しますので、そちらで体を休めて頂きます。
……イアン、控えの方をご案内なさい。 くれぐれも、丁重に」
「……わかりました」
イアンさんが一礼して退出する。
……あれ? ボクたちは?
ボクがキョトンとしていると、その様子が可笑しかったのか、クスクスと上品にエルアリアさんが笑みをこぼす。
「ユーリ様、アリス様。 お疲れでしょうが、もう少しだけこの婆にお付き合い頂けますか?
是非お二人をご案内させていただきたい場所があるのです。
……先ほどから気にされている疑問も、恐らく解決すると思います。
なにより、とっても素敵な場所なんですよ?」
「さぁ、こちらです。 これから向かうのはこの里の中心。 聖地と呼ばれている所です。
外の結界とは別にこの聖地も結界に覆われており、この里では長老部会の者のみが入ることを許されています。」
エルアリアさんの先導で木漏れ日の中をゆっくりと歩いていく。
ボクたちが案内されているのは、あの大きな館……いや、もう城と言い切ってしまおう。
城の裏側に広がる小さな森の中だ。
里の外の森とは異なりまるで遊歩道のように手入れをされた小さな森で、その中に設けられた細い道を3人で歩いている、という状況だ。
「なるほど、素敵な場所ですね。 穏やかで、心が洗われるようです」
と、先を歩くエルアリアさんが歩みを止め、クスクスと笑い出す。
「フフ、あぁ、ユーリ様勘違いをなさっていますね?
私の言った素敵な場所というのは、ここではないのです。
しかし、ここが素敵と思ってもらえるのであれば、きっとユーリ様は驚かれますよ?」
再びエルアリアさんが前を向き歩き出す。
……だが、アリスが動かない。
「? アリス、どうかした?」
「マスター、何かがおかしいです。 この先がまるで空間自体存在しないかのように探査が通りません。
魔力反応もないのに、これは一体……?」
「ふむん……魔力探査」
ボクも探査魔法を発動してみる。
脳裏に浮かんだのは……確かに、感知精度を上げてみても円形に全く反応のない領域が存在していた。
本来ならば、植物だろうが鉱物だろうが魔力を持つものならば反応があるはずなのだけれど。
「んー、結界なら結界そのものが反応してもおかしくないはずだけれど。
隠蔽型のものであれば、外の結界のように何らかの反応が返るはずだしね。
アリス、何かわかる?」
「否。 しかし、これは、まさか……?」
どうやら、アリスは何かに気が付いているようだ。
と、ほんの10メートルほど先に進んだところから、エルアリアさんの声がかかる。
「その様子では、どうやらお気づきになられたようですね。
先ほど私は結界と申しましたが、正確には結界ではございません。
いわば、この先だけ別の空間になっている、とでも申し上げましょうか。
……とはいえ、この婆よりもお二人の方がお詳しいはずですよ?」
慌ててエルアリアさんにボクたちが追いついたところで、彼女は懐から腕輪を取り出して腕にはめると、その手を前方にかざした。
腕輪に埋め込まれた宝石に光が灯り、次第に強くなった光は前方の何も無い空間に映し出され、その大きさを増していく。
あぁ、ボクはこれを見たことがある。
いや、ボクに関わった人たちは皆見たことがあるだろう。
前方に光で映し出されているのは魔法陣。
それはまるで……セラサスを召喚するときに光景と良く似ていた。
ふわりとした浮遊感を感じるとともに、ボクの視界が急速に流れる。
万華鏡のような色鮮やかな光に包まれた空間が現れ、暗闇に包まれた空間と交差して消えていく。
どこか別の場所が現れたと思えば、ボクたち3人の姿が俯瞰的に映し出され、流れていく。
思わず目をつむったボクの身体が、再び重力の重さに囚われた。
「ようこそ、我らエルフの聖地……世界樹の森へ」
ゆっくりと目を開けると、目の前を桃色の何かがハラリと落ちていく。
それは花びら。
ボクたち日本人が最も愛する花。
ボクたちを囲むのは、満開の花を咲かせた桜の並木道。
そして、少し先の開けた場所にそびえたっていたのは。
その根元に朽ち果てたドラグーンを取り込んだ、赤く色づいた一本の巨大な桜だった。
更新遅くなりすみません。
ようやく環境復旧しましたー。
エタか!? とご心配されていた方、ご安心頂ければと……




