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仲間行きへ

 

「リタ! あっちのを狙って!」


「うあー!」


 二人の放つ矢が、こちらに飛び掛ろうとしていたワイルドウルフの眉間を貫く。

 倒れた1匹に足を取られ1匹が倒れこむが、馬車を追うワイルドウルフの数はまだ両手の指で数えても足りないほどである。


 今、ボクたちは大森林まで後半日という所にいる。

 そこまではおおむね順調な旅だったものの、ここにきてワイルドウルフの群れに追われる事になってしまったのだ。


「お姉ちゃん、がんばって!」


「エステル! ありがとう、でも危ないから隠れるの!」


 魔法銃(アヴァロン)で近寄ってきた一匹を撃ち抜きながらエステルを馬車の中に押し込む。

 それと同時に、御者台でともすれば暴走しそうになる馬達を手綱で抑えているアリスから冷静な報告が飛ぶ。


「マスター、後方からまた新手が合流します。

 計18匹。 脅威ではありませんが、万が一馬車が破損すると面倒です。

 早急に対応することをオススメします」


「わかってる! サリーナ、当てなくていい、バラけた奴をできるだけ纏めて!」


「はいっ!」


 サリーナとリタがワイルドウルフの向かう先に矢を放ち、動きを制限する。

 しばらく散開しようとするワイルドウルフの鼻先に矢を放ち続けるうち、次第に群れがひとかたまりに集まり始めた。


「おっけー! これだけ纏まれば……電撃(ライトニング)!」


 魔法銃(アヴァロン)の銃口に発生した紫電が群れの中心に走り、放射状に稲光を広げた。

 その稲光に触れたワイルドウルフは、一瞬ビクッと身体を硬直させ、そのまま倒れ遠ざかっていく。

 僅かに残った数匹も、サリーナとリタに撃ちぬかれやがて馬車を追うものはいなくなった。


「ユーリ様……こちらまでビリッとしました。

 火災の恐れもありますので次からは手加減をして頂けると……」


「ごめん、あれでも痺れさせる程度のつもりで手加減したんだけど……」


 どうやら、魔力が強すぎて手加減が手加減になっていない感じだ。

 大は少を兼ねるとは言うけれど、現実では味方にまで被害が出る可能性がある。

 初級レベルの魔法でこれだと、上位の魔法なんかはもう日常では使えないと思ったほうが良さそうだ。


「ユーリ、無事!?」


「お母さん、大丈夫。 アリス、とりあえず周りには反応無さそうだし、もう少し進んだところで一旦止めよう。

 無理させたから、少し馬を休ませたい」


「是。 それでは、早めの昼休憩としましょう。

 その後は休みなしで大森林まで向かいます」




 しばらく進んだ所で川を見つけたので、そこでボクたちは休憩を取る事にした。

 今回の道中最後の食事ということで、奮発して屋台で購入していたワイルドモアの串焼きだ。

 インベントリの中では時間が停止するため、腐らずに食物を保管するのに最適なのだ。


「お姉ちゃん、美味しいね!」


「はいはい、エステルはそろそろ綺麗に食べる事を覚えようね?」


 口の周りをタレでベタベタにしたエステルをハンカチで拭いてやりながら、ボクも肉を口に運ぶ。

 先ほど焼いたばかりのように肉汁が口に広がり、甘辛いタレと肉の味が口いっぱいに広がる。


 横を見ると、サリーナとリタも美味しそうに串焼きを口に運んでいた。

 エルフというとベジタリアンというイメージがあったけれど、普通に肉も食べるらしい。

 ……考えてみれば、肉を美味しそうに食べているボク自身がエルフだった。


 ボクとアリスのインベントリの空きはほぼ食べ物で埋まっている。

 限られた時間で色々食べ物を購入してきたので、エルフの里で喜んでもらえると嬉しいのだけれど。


 食事が終わり、アリスから手渡された果実水(これもタルごと購入してインベントリに入れている)を飲みながら少し休憩をする。

 馬たちも先ほど無茶な逃避行をしたにも関わらず、特に怪我などはせずに済んだようだ。

 むしゃむしゃと草を食べて身体を休めている。


「しかし、やはり村や町の外というのは危ないものでござるなぁ?

 拙者、旅というものに憧れはもっておりましたがやはり聞くと見るとでは大違いという事を実感したでござるよ」


「そうね。 腕に自信のある冒険者はともかく、行商なんかは護衛を雇うのが一般的ね。

 でも、こんなにワイルドウルフの群れに襲われるのは初めて聞くけれど……」


 カレンさんが首をかしげる。


「そうですね……。 元々ワイルドウルフは群れで生活していますが、基本的には数匹ずつに分かれて狩りをするのが普通です。

 私たちが森から離れているうちに何かあったのでしょうか?」


 魔物の異変となると、この前の森林竜(フォレストドラゴン)が記憶に新しい。

 けれど、既に討伐したし、これほど離れた場所に影響が出るとも思えない。


「いずれにせよ、里に着くまでは警戒するくらいしかないね。

 アリス、後どれくらいで着きそう?」


「今までのペースならば、残り3時間と言った所でしょう。

 昼過ぎには到着できます。 サリーナ様、大森林の入り口から里まではどの程度かかるでしょうか?」


「森に慣れた私たちの足なら30分くらいですね。 今回は馬車がありますので道を選ぶ必要がありますし、1時間くらいは見ておいたほうが良いと思います」


 確かに、森の中で馬車がまともに走れる道は限られるだろう。

 サリーナ曰く、以前は信頼できる行商人が秘密裏に来ていたという事らしいので、馬車が通れる道はあるようだけれど。

 いずれにせよ、何事もなければ夕方までには辿り着ける計算だ。


「それなら、そろそろ出発しようか。 もうひとがんばりよろしくね?」


 馬たちを撫でてやると、嬉しそうにヒヒーン! といなないて返事を返してくれた。

 うん、里についたらこの子たちにも名前をつけてやることにしよう。




 その後は特に襲撃もなく、無事大森林が目の前に見える所まで辿り着くことが出来た。

 ココルネ村の周りに広がっていた森もかなり大きな森だったけれど、この大森林はそれと比較しても大きい。

 エタドラの頃から変わっていないとすると、この森だけで東京都くらいの大きさがあるのだ。


 両方を崖に挟まれた道をゆっくりと馬車が進む。

 大森林の入り口はこのように山間を抜けるように道が通り、その先が大きく開ける形となっている。

 だがその前に、出入りを監視するための見張りが立っているはずだ。


「アリス、ギルドからの手紙では入り口で進入許可を引き渡されるという事だったよね?」


「是。 一本道ですので、待ち合わせ場所はこちらで間違いないでしょう」


 やがて、見張り小屋の前に辿り着いたところでアリスが馬車を止めた。

 小屋から鎧を着た兵士らしき人が姿を現す。


「お疲れ様です。 冒険者の方……ではなさそうですね。

 もしや、ユーリ様のご一行でしょうか?」


「はい、ボクがユーリです。 ギルドから話が行っているかと思いますが……」


「ふむ、金髪の少女という情報とも一致しますね。

 ……少々お待ち下さい」


 兵士が小屋へ引き返す。

 ギルドからの土産とやらを取りに行ったのだろうか?

 少しワクワクしながら待っていたところで、聞き覚えのある声がかけられた。


「遅かったじゃないか! 無事町を抜けられたようだね!」


「……待ったぞ」


 赤毛の女性と長い金髪の男性……リリアナさんとコルネリオさんだ。


「二人とも……わざわざギルドから荷物を預かってきてくれたんですか?」


 しかし、二人とも手ぶらに見える。


「あぁ、預かりモンを渡さなきゃな。 ほら、預かりモンを渡すよ」


 リリアナさんが手を差し出す。

 しかし、その手には何もない。


「……あの?」


「ハハッ、アタイとコルネリオ、二人とそのドラグーンが預かりモンだ。

 アタイたちもアンタたちと行動を共にさせてもらうよ。 いいよな?」


 リリアナさんがニヤリと笑う。

 ボクはニッコリと笑って、差し出された手を握り返した。



「そういうわけで、ドラグーンでここまで先行したってわけだ。

 アリス、アンタに貰ったこの腕輪便利に使わせて貰ってるよ。

 おかげで置き場所に困らなくなった」


 リリアナさんが腕を上げて腕輪を見せてくる。

 ボクの腕に嵌めているのと同じような腕輪だ。

 ドラグーンを召喚するための術式を組み込んだ召喚器である。


 しかし、二人の場合ホームとかないだろうに、一体どこに格納されているのだろう?

 謎は深まるばかりである。


「無事アタイたちもエルフの里に受け入れてもらえれば、なんかあった時にはアタイたちがギルドとのやり取りをする。

 なに、アシュケロンならアンタのドラグーンに敵わないにしろ、すぐに町まで往復できる。

 つーわけだから、里との交渉はよろしくな、サリーナ」


「はい。 ユーリ様のお仲間であれば長老方も断りはしないはずです」


「助かります。 ボクが町に行くのはちょっと問題だろうし」


「おっと、アンタはアタイたちの恩人なんだ。 敬語はもうやめておくれよ。

 アタイの事はリリー、コイツはコリーと呼んでおくれ」


「……わかったよ、リリー」


 と、アリスが御者台に上りボクたちに声をかける。


「マスター、よろしければそろそろ出発しましょう。

 まだ道中時間がありますので、積もる話は里に向かいながら」





 見張りの兵士に手を振って、大森林への入り口を抜ける。

 少し歩くと山間部を抜け、その行く手が大きく広がり始めた。

 ようやく大森林に辿り着いたのだ。


 目の前に広がる森は深く広く、まだ遠くに見える程度の距離なのに視界の端から端まで途切れる事が無いほどの大きさを誇っている。


「これが……大森林でござるか……」


 ローリーさんが呆然と呟く。


「本当に……本当に、帰ってこれたんですね……」


 サリーナは、その両目から涙を流していた。

 リタがサリーナの頭を撫でている。


 こうして、ボクたちはついに大森林に辿り着いた。

 エルフの里は、もうすぐだ。


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