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ごしんじゅつ

 

「では、まずはこちらをお持ち下さい」


 ボクとアリスに渡されたのは、小さいビー玉程度の透明な玉だった。


「これは?」


真偽判定(トゥルース)の魔法に反応する水晶です。

 こちらが赤く光れば偽……つまり嘘をついたということになります。

 誤魔化そうとしても、無意識から真偽を判定し反応しますのでご注意を。

 審議官はこちらを用いて聴取を進めていきます」


 まじまじと見てみるが、特におかしな所はないただの水晶の玉のようだ。

 手のひらでコロコロと転がしてみるが、もちろん何の変化もなかった。


「一度試してみましょうか。 ……真偽判定(トゥルース)

 では……はい、かいいえで答えて下さい。

 あなたの名前は、ユーリですか?」


 ニコラスさんがボクに問いかける。


「……はい」


 手のひらの上の水晶を見る……が、反応はない。


「これが真実の場合です。 ……では、次はいいえ、と。

 あなたの名前はユーリですか?」


「……いいえ」


 と、手のひらの水晶の中心に赤い光が灯る。

 それはしばらくゆらゆらと光り、そして消えていった。


「……なるほど。 これは嘘に反応したという事ですね。

 2択以外の質問でも反応するの?」


「そうですね。 ただし、その場合は答えた内容のどれが嘘であるか判断が難しい場合もあります。

 ですが、基本的に嘘はつけないものとお考え下さい。

 さて、よろしいでしょうか? 納得頂けたならば、聴取を始めたいと思います」




 聴取は、ニコラスさんが質問しボクかアリスが回答すると言う形で淡々と進んでいった。

 だが、そのうちにボクはどうにも言い様のない不快感を僅かに感じていた。


「……では、貴方は王国のお触れの事を知った上で、ギルド登録の際に魔法が使える事を隠していましたね?」


「……いいえ」


 手の平の水晶に赤い光が灯る。


 ……確かに、ボクは今は(・・)魔法が使える。

 だけど、ギルドに冒険者登録を行った時点では魔法は使えなかったのだ。


 これが「魔力があるのを隠していましたね?」という質問ならばYESと答え、結果真だっただろう。

 だが、ボクはその時魔法が使えなかった……これは真実だ。 なのに偽という答えが返る。


「待って下さい、ボクはそのとき本当に魔法は……」


「聴取中の指示のない発現は控えてください」


 どうも先ほどから、重要なポイントに限ってこの調子なのだ。


「……続けます。 魔法の事を隠したあなたは、ギルドの登録を終えた後も騎士団への報告は行わなかった」


「……はい」


「それは、国のお触れに逆らうことを承知で、騎士団の徴兵を避ける為ですね?」


「……はい」


「待つのじゃ。 こんな子供の身で徴兵を避けようとするなど、当たり前のことじゃろう?」


「ジェイガン様。 聴取に口を出さないで頂きたい。

 細かな事情などは関係ないのです。 私の使命は、ただ真実を明らかとする事のみ。

 動機や事情による情状酌量などは、私の明らかとした真実と併せ裁判官が考えることです」


「じゃが、その聴取が偏れば判断も狂おうぞ!」


「……ジェイガン様。 真偽判定(トゥルース)を用いる審議官の明かす真実は絶対。

 自らを常に真偽判定(トゥルース)の判決に晒すが故、その審議に間違いはないのです。

 私が負っている職権において、貴方様に退室を命じる事も可能なのですが?」


「……わかった。 続けてくれ」


「では……」


 なるほど。

 つまりは、ボクとアリスの運命はこの男の明かす真実とやらに左右される訳だ。

 ボクはアリスに視線を送ると、アリスはかすかに頷く。

 そして。


「失礼。 聴取中恐縮ですがお手洗いに行かせて頂きたいのですが」


「……わかりました。 ジェイガン様、私が彼女についていきますので、こちらの部屋から容疑者を出さないように」


「……よかろう」


 アリスはニコラスさん……ニコラスと部屋を出て行った。


「済まぬな、ユーリ殿。 あ奴はどうも、職務には忠実だが騎士団に寄った考えを持つらしい。

 本来審議官とはただ中立であるべきなのじゃがのぅ……。

 しかし、こうして儂が話を聞いておるのもお主に都合の悪いようにしない為。

 安心をして貰えればと思うのじゃが……」


「いえ。 ですが、ジェイガン様の前で言うのもなんですが正直この国に来て以来、私は騎士団というものに良い印象を持っておりません。

 その結果として聴取の内容が偏るのもわかるのですが……ひとつだけ、保険を打ちたいのです。

 許していただけますでしょうか?」


「ふむ……それは、聴取の結果を歪めるものではなかろうな?」


「むしろ、結果の正しさを担保するためのものとお考え下さい」


 ボクは先ほどから考えていた案を実行する事にした。

 その為に、アリスにニコラスを連れて出て行ってもらったのだ。

 そして……しばらくして、二人が部屋に戻り聴取は再開された。



 先ほどまでの調子で、聴取はすでに2時間を越えた。

 相変わらずアリスは無表情だが、長い付き合いのボクにはその表情に若干の怒りの色が含まれている事がわかる。

 そして、ボクもそろそろ我慢の限界だ。


「そして、貴方は詰め所の中に居た騎士たちを殺したのですね?」


「……はい。 でもあの時リタが……」


「はい、か、いいえで結構。 貴方は抵抗の有無に関わらず騎士達を殺した?」


「いいえ! 確かに最初の数人はそうかもしれないけれど、殺らなければこっちが殺されていた!」


 水晶がまたも赤く光る。

 ……これは、やはり。


「そして貴方は途中で制止しようとした騎士たちも殺して脱獄を進めたのですね?」


「……」


「ユーリ様? はい、か、いいえでお答え下さい。

 真偽判定が出来ませぬ故」


「……もう、いいかな」


 ボクは深くため息をついて、口を開いた。

 ボクたちはもう充分付き合ったと思うんだ、結果は残念だけれど。

 ふと視線を上げると、ジェイガンさんがボクの表情から察したらしく、苦々しい顔で視線をそらした。


「はい、か、いいえで答えを……」


「茶番は終わりにしようと言ったんだよ? アリス、今からボクの言葉を復唱すること」


「是」


「な、何を……」


 ニコラスが慌てたようにこちらを止めようとするが、ジェイガンさんの手に阻まれる。

 ボクはニコラスの動きを無視して続けた。


「自分の名前はユーリ」


「自分の名前はユーリ」


 ボクの手の平の水晶は変わらず、アリスの手の平の水晶が赤く光る。


「自分の性別は女」


「自分の性別は女」


 前者、後者ともに変わらず。


「自分の種族は人間」


「自分の種族は人間」


 前者は赤く光り、後者は変わらず。


「……ジェイガンさん。 結果は黒。

 赤く光るときのみ魔法が発動しています」


「……そうか」


「ど、どういう意味だ! 聴取を邪魔するなど、罪を認めたと同じことだぞ!」


「罪を認めるのは貴方だ。 念のため、先ほどから魔力探査(マジックサーチ)を使用していたんだよ。

 でも、魔力が検知されるのは先ほどから水晶が赤く光る時だけ。

 おかしいでしょう? 真偽を判定するのだから、偽の時だけではなく真のときも……いや、常時魔力が検知されないと」


「うそだ! だいたい、被疑者の申告することが信用に値するものか!」


「……だから、真偽判定(トゥルース)で判定するんでしょ?

 まぁ何言っても信じないと思うけど……別にボクの言った事がウソだとしても関係ない。

 ジェイガンさん、先ほどのボクたちのやり取りとその結果をカイルさんに確認してみるといいよ。

 さ、アリス。 ボクたちはお暇しよう」


「ふざけるな! 聴取の最中に勝手な行動を……」


 叫ぶように口を開いたニコラスが、途中で口を止める。

 アリスが威圧したのだ。


「……それ以上、その口を開けば殺します」


「……ニコラス、やめよ。 その者は……儂より強く、そして本気じゃ。

 これ以上、醜態をさらすでない」


 威圧を放ったまま、アリスが扉を開けボクたちは部屋を出ようとする。


「……ジェイガンさん。 ボクはこの町の騎士団は別として、特に国に敵対するつもりはなかった。

 貴方のように良い人がいるんだ、実際に誇りを胸に国と人々に忠誠を誓う立派な人たちもいるんだろうし。

 だけど、ボクは降りかかる火の粉は払う。 人を傷つけて良いのは傷つけられる覚悟のある者だけだ。

 この国は……その覚悟があるのかな?」


「……あくまで個人がやったこと、と言いたいところじゃが……、それでは納得がいかんじゃろう。

 今回の件に関しては儂が責任を持って事の全てを明らかとし、その責を負うべき者に正しく責を負わせると誓おう。

 必要なら、儂の首でよければ喜んで差し出す。

 じゃから……穏便には、済ませられんか?」


「構わないよ。 別に好んでケンカをしたいわけじゃない。

 ただ……ボクたちにはもう、関わらないでくれればそれでいい」


 そう言い残して、ボクたちは部屋を出た。


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